③最悪の始まり
白凰騎士団の前に現れた子ども程度の身長をもつ緑色の蛮族、ゴブリン達の数は少数だった。背丈の長い草を分けていた所、運悪く騎士団の野営地に入ってしまった、そんな様子であった。
「追え! 敵を追いかければ蛮族の本隊に辿り着けるぞ!」
前線で指揮を執るベルフォールは馬上で剣を掲げながら、白い鎧を纏った騎士達を鼓舞する。馬に乗った騎士達は茂みの中で逃げ惑うゴブリン達の背中を剣で切り、ランスで貫き、さらに後続の騎士達が倒れたゴブリン達を馬の蹄の裏で轢き殺していく。
ベルフォールが周囲を見渡すと、遠く左右から赤と青の鎧を纏った騎士達の一団が視界に入る。
それは左右に展開していた紅虎騎士団と蒼獅騎士団だった。彼ら動きから、逃げ惑うゴブリン達を兎狩りのように追いかけている。
「紅虎と蒼獅の騎士団に負けるな! 我々こそ蛮族の本隊に一番乗りを果たすんだ!」
ベルフォールの馬が加速する。目の前にいたゴブリンの胸を一突きし、剣に血がつく前に剣を引き抜く。
間もなく背丈の高い草原が抜け終わる。そうなれば蛮族達に隠れる場所はなく、ただ蹂躙するだけの下り坂が待っている。馬の速度が上がれば、ゴブリン達を追い抜いて回り込む事で、奴らの逃げ道を塞ぐ事さえできる。
まさに生殺与奪の権利を得る。ベルフォールの口元が緩み始めた。
ついに草原の終点が見える。
「よし、全軍………」
草原を抜けた先に彼が見たものは、緩やかな坂の下で待ち受けていたゴブリン達が、何かの木筒を両手で構えている姿だった。
そして発光と空を切るような音が木霊する。
――――――――――
「何の音だ!」
馬に乗った矢先のシーダインは、遠くから何度も聞こえてくる陣太鼓とは異なる高い音や連続した音に声を荒げた。
「ほ、報告します!」
部下の騎士が慌ててシーダインの前で膝をつく。
「蛮族を追っていった副長達が、敵の待ち伏せを受けています!」
「待ち伏せだと!」
ありえない、とシーダインの顔が引きつる。そして残りの紅虎、蒼獅騎士団も同様に待ち伏せを受けていると聞き、意気揚々と向かっていた騎士達を咎めなかった自分の甘さに、思わず拳を握り締めた。
「敵襲!」
さらに別の騎士が声を上げた。
追撃の準備と野営の撤収を行っていた騎士達の間に、背の高い茂みから次々とゴブリン達が襲い掛かってきたのである。蛮族達は統一された革の装備で身を固め、先頭で短剣や片手剣を振り、後衛では魔法と弓を放ち、『色付き』の騎士達を次々と地面に伏せていった。
「蛮族が、組織的に戦っているだと! 馬鹿なっ!」
シーダインは剣を抜き、自身に飛んできた矢を全て打ち払う。




