②接触
「彼はそのようなことをする男ではないよ、ベルフォール」
そう言い切り、再び外に向かって歩き始める。
「………なぜ団長はそこまで奴の肩を持たれるのか」
ベルフォールは顔の中心にしわを集めながら小さく呟き、舌打ちする。そして溜息を吐き、心を無理矢理落ち着かせながら、彼の後に続いた。
テントの外は雲一つない晴天に恵まれていた。空気も温かく、鎧の中の汗がじわりと体を蒸していく。
「思ったより暑いな。騎士達の体調管理を怠るな」「………はい」
シーダインが掌で目の上に傘を作り、青い空を眺めた。
空には大きな翼をもつ影が一つ浮いている。
「バードマンです。珍しいですね」
ベルフォールも細目で見上げながら、青い海の中に漂う黒い影を追いかける。翼をもつ者は、空を一周するとそのまま何事もなかったかのように東へと飛び去って行った。
その時、野営の中から一際大きな声が上がる。
「敵襲!」
さらに笛の音が響く。
「ベルフォール!」
「はっ、確認して指揮を執ります!」
ベルフォールはシーダインの前で拳を胸の前で付けると、すぐに踵を返し、声の上がった場所へ向かった。
「報告します!」
入れ替わりに別の白凰騎士団の騎士がシーダインの前で膝をつく。
「紅虎騎士団、蒼獅騎士団共に斥候らしき蛮族の集団を発見! 敵本隊の位置を探るべく、追跡隊を編成するとの事です!」
「ふむ。流石に行動が早いな」
ならば、こちらに現れた蛮族も同程度の数だろうと彼は判断する。そして、蛮族が出た以上、討伐しなければならない。シーダインは報告した騎士に、蛮族の迎撃と併せて野営の撤収作業と、いつでも蛮族の追跡ができるように準備する事を各中隊長に伝えるよう指示した。
伝令の騎士が走り出し、シーダインが東に体を向ける。
「これだけの大遠征。誰もが功を取ろうと必死だな」
ここ数年大きな出動がなかっただけに、『色付き』の騎士団でも功績を立てようと誰もが必死になっていた。特に貴族出身にはその傾向が強く、蛮族を打ち取って凱旋して街を、王国を守った事を一族の誉れにするのだと毎日のように叫んでいた事を思い出す。
多少の緩みは目を瞑るしかない。シーダインは肩をすくめながら蛮族を追いかけようと各小隊が次々と移動している様を横で見続けた。




