②茂みの中、男二人
魔王軍と名乗る蛮族達の出現。
今まで本能のままに行動していた者達が戦術を使い、群れをなしている。さらにはそれを率いる77柱と呼ばれる一際強力な魔物の存在。
タイサ達はその事実を王国騎士団に伝えたが、一笑に伏され、相手にされなかった。
「デルさんを助けに行くんでしょう?」
食べ物がないのに、どうやって助けに行くのかとカエデが腰に手を当てる。
既に王国騎士団は蛮族討伐を掲げて東へ出発しているとの情報を街で得ていた。魔王軍の存在を知らないまま彼らが戦えば、苦戦は免れない。それどころか壊滅の可能性すらある。
タイサ達は、先発した親友のデルを助けに向かうべく、また事実を伝える為に東へと向かっていた。
一時間後。
「………隊長、カエデちゃんって怖いんですね」
今夜の夕食を取り上げられたボーマは、同じく夕食を取り上げられたタイサの隣で呟く。二人は暗くなる前に自分達の食料を何とか確保しようと、森の茂みの中で息を潜めていた。
「手を出すなよ?」「いやぁ、無理ですね」
タイサの一言にボーマが即答する。
そして静かに獣が通るのを待つ。
「ボーマ、今のはどういう意味だ?」
「あ、いえ特に深い意味は………って、隊長! 武器は駄目、駄目です。良くないです。はい、はいぃ! そこは、しっかりとぉぉ~落ち着いてくださ~い!?」
腰の剣を抜きかけているタイサを前に、ボーマは全力で両手を振って彼の腕を押さえた。
タイサは口を尖らせながら剣を鞘に納めると、二人は揉め合う寂しさに包まれながら一緒になって溜め息を吐く。
「しっかし隊長、俺達は今どの辺にいるんですかい?」
再び茂みに隠れたボーマがタイサに尋ねる。
王国騎士団が向かった先は、カデリア自治領の東の果て。王都から最短で向かうためには、シモノフの大関所跡の街を抜け、さらに旧カデリア王国の中心であるブレイダスからさらに東、ゲンテの街を抜けていく事になる。順調な行程でも六日から七日はかかる。
対してタイサ達は、冒険者ギルドの依頼先だった南の街を抜け、それからはひたすら使われなくなった旧街道跡、馬車が一台通れる程度の森の中を進んでいた。
太陽の動きから東に向かっている事は理解できるとボーマが自論を話すと、タイサは彼の言葉を遮るように一本の指を自分の口元へと当てる。
「何か来る」
タイサの言葉にボーマは口を閉じ、奥の茂みで物音を立てている存在をじっと待つ。
茂みから出てきたのは、頭に白い角を生やした一匹の野豚だった。