⑧東西の事情
「成程ね。こいつはフォースィの弟子か」
タイサとエコー。そしてタイサにしがみついたまま泣きつかれて寝ている青い鎧の少女、その他冒険者と黒銀の鎧の騎士達の大勢が小さな焚火を囲み、互いの事情を確認し合った。
代表者の位置付けにされていた戦士の冒険者は、ブレイダスよりも東の地にあるゲンテの街に、魔王軍を名乗る蛮族の軍勢が現れ、命からがら逃げてきたと説明する。
「そうか、ゲンテの街にも魔王軍がか………」
「あれ、随分と驚かないんですね」
彼は到底信じてもらえないだろうと思いながら話していただけに、すんなりと受け入れたタイサとエコーの感覚に驚いていた。
「まぁ、こっちも同じような目にあったからな」
タイサは東のアイリスの街でも同様の事態が起きていた事を話す。冒険者達は西でも同様に魔王軍が出現していた事に驚き、互いに顔を合わせた。
「隊長、つまり王都は魔王軍に東西を敵に挟まれたという事になるのでしょうか?」
冷静な素振りを維持しつつ、エコーがタイサに尋ねる。
だがタイサは即答せず、黒銀の騎士の一人に確認を取ろうとした。
「銀龍騎士団の………シュベット純三等騎士といったか。デルの、君の団長の動きについて聞きたい事がある」
タイサの問いに、シュベットは立ち上がって胸の前で拳を重ねると、タイサの名前はデル団長から聞いていると話し出した。
「我々銀龍騎士団は、東部方面に大量に現れた蛮族を討伐する為、先遣隊として出発を命じられました。ですが、東部方面の前線で我々の到着を待っていたカッセル副団長が蛮族達の襲撃を受けて苦戦しているとの報を受け、デル団長が少数の騎士で先発する事を決定、早々に出発されました」
「そして、翌朝に街が襲撃された、と」
「はっ、その通りです!」
全てを報告し、シュベットは再び座り直す。
「………西は陽動だったな」
挟撃するにしても東西の戦力差も距離も開き過ぎている。タイサは両手を軽く開いて自分の考えを披露する。
「しかし隊長。隊長の言うように、王国の東西ではかなりの距離があります。陽動だったとしても、どうやって彼らは連携が取れていたのでしょうか?」
「そう難しい話ではない。事前に日時を決めていれば、細かい連携は特に必要ない。一日、二日ずれたととしても、王国側の戦力を分散させるという点においては成功する。つまり―――」
この戦いは、魔王軍によってかなり前から計画されていた。タイサの言葉に、全員が息を飲んだ。
戦術だけでなく、戦略すら魔王軍は人間を凌駕している。魔王軍の存在が、ただの実力者が集まっただけの集団ではなく、さらに上位の組織が指揮しているのではないか。タイサは新たな情報からさらに思考を巡らせ、いくつもの可能性を訴えた。
炎の中の薪が少し崩れ、火の粉が舞い上がる。
気が付けば夜はさらに深まり、随分な時間が経っていた。
「エコー。とりあえず馬車の中からあるだけの食事と水を彼らに分けてやってくれ。それと女性は倉庫の中で、男性陣には悪いが、ここで休んでもらう」
「分かりました」
エコーは立ち上がって馬車へと向かった。冒険者の女僧侶と弓兵の男が手伝おうと言って慌てて立ち上がり、彼女の後を追いかけていく。
「………一体この世界で何が起きているんだ」
タイサは焚火の炎を眺め、そして空の星々を見上げた。




