⑦お父さん(仮)
「どうしますか?」
「待つ」
エコーの問いに、タイサは慎重に答えた。
わざわざ暗い森の中に入る必要はない。タイサはエコーから薪を受け取ると、茂みに向けて腕を振り上げる。
その瞬間、茂みの中から蒼い塊が飛び出してきた。
「速いっ!」
タイサは振り上げた腕を構え直す暇もなく、青い塊に間合いの中に入られ、腰に両腕を巻かれる。
「しまっ………!」「お父ざぁぁぁぁぁぁん!」
青い塊はタイサの胸と腹の間で号泣した。
「「はいぃぃぃぃぃぃ!?」」
タイサは身動きが取れないまま、エコーは前のめりになって大声を上げた。
「お父ざぁぁん! ようやく会えだよぉぉぉぉ!」
蒼い鎧を纏った少女、羽飾りのついた軽兜の上からは白髪だが所々茶色い髪の毛が見える。子どもではないが、鎧を纏うには若すぎる少女が、タイサの服を濡らしながら顔を何度も擦り付けている。
「………おいおいおい。一体何が」
訳が分からない。取り敢えず敵ではないのだろうとタイサは少女の頭を撫でてなだめる事を試みた。
「隊長?」
「ひっ!?」
焚き火のせいで顔の掘りが深くなっているエコーが、褐色の拳を震わせながらタイサを笑顔で睨みつける。
「お子さんがいたとは………副長の私は全く知らなかったのですが?」
「お、おう。待て、話せばっ! 話せば分かる………って俺は何を言っているんだ!? 待て、そういう意味じゃない!」
タイサが両手を全力で左右に振りながら否定するが、エコーは肩を上下させる程に呼吸を荒くさせながら一歩踏み出る。
「お父さぁぁん」
「お前は誰だぁぁぁぁぁぁ!」
狙ったかのように、蒼い鎧の少女は甘えた声でタイサに抱きついたまま離れようとしない。
「隊長、誰の子どもですか?」
「し、知らない! いや、エコー、その顔は違う意味でとらえている………だっはぁぁっ!」
タイサは右頬に鋭い一撃を受けた。
響く音と共に、森の茂みの中から大勢の冒険者と騎士が姿を現す。
「お、イリーナ嬢ちゃん。お父さんは見つかったのかい!」
戦士風の男が良かった良かったと、汚れた体で頷きながら喜ぶ。
「お前達も誰だぁぁぁぁぁぁ、ぐはぁぁぁっ!」
タイサは反対側の頬にも褐色の拳がめり込んだ。




