⑥魔剣との出会い
「隊長、聞いても良いですか?」
炎の温かさを受け入れるように、エコーは両膝を抱える。
「隊長の武器………騎槍の中にあった呪われた剣。あれはいったいどこで見つけたのですか?」
普通に生活して出会える武器ではない。理を外れた攻撃速度と全てを切り裂く威力、しかしそれに応じた呪いの異常さ。触れた物全てを黒塵と変える呪いに、状態異常すら受け付けない『鉄壁』の二つ名をもつタイサでさえ、必死の形相で耐えていた。
「………王城の地下さ」
「そんな所にですかっ!?」
驚くエコーの顔を見て、予想通りの表情になったとタイサは小さく頬を緩める。
「あれは、俺がまだ王国騎士団の見習い騎士として務め始めた頃だ」
国王陛下からの直々の命令で、地下最下層に眠る魔剣の調査に携わったとタイサが話し出す。当時の同行者の中には、熟練の騎士や上級冒険者、そしてデル、フォースィ、ギュードも含まれていた。
「フォースィって………あの『十極』の神官ですか?」
「あぁ。彼女とは、冒険者時代からの腐れ縁さ。デルやギュードも良く知っている」
タイサが話を続ける。
「今でこそ病で伏せているが、当時の陛下は王国領土をさらに拡大しようと、能力の高い人間や強力な武器を国内外を問わずに集めていた………反対する者もそれなりにいたが、どちらかといえば少数だったな」
そんな矢先。国王の耳に祖先の残した遺物に強力な魔剣が眠っていると聞き、回収する事となった。
「フォースィが言うには、既に何年も前から調査を行っているが、その度に多くの人間が還らなかったそうだ。ようやく分かった事は、魔剣には凄まじい呪いが込められていると情報だけだった」
そして目を付けられたのが俺だと、タイサは自分に親指を向けた。どんな攻撃でも傷付かず、毒や麻痺といった状態異常を受け付けない体質を利用して魔剣を回収させる。その任務に選ばれた。
「………だからあの時、ギュードさんが驚いていたんですね」
魔王軍との戦いの後、ギュードと偶然出会った時の顔をエコーは思い出す。
「ま、回収に成功したのの、余りに呪いの力が強すぎて誰も扱えず、保管すらできなくてな。結局その効果を調べるという名目で俺の手元に残り続け、いつしかその名目すら風化してしまったという経緯だ」
国王が病に伏せた以上、そしてこの件を知る者達が殆どいない以上、今更返せというような命令が出される事もないだろうとタイサは鼻で笑った。
「そうだったのですか………」
話を聞いたエコーは、彼の軽い雰囲気に対して返せる言葉が見つからず、再び弱くなった火の中に薪を放り込む。
木が折れる音がほぼ同時に複数響く。
「隊長!」
「ああ、分かっている」
乾いた音はすぐ背後にある森の中からも聞こえてきた。エコーは一番長い薪を掴むと、既に立ち上がっているタイサの横について身構える。
虫の音がよく聞こえてくる。焚火の炎がタイサ達の半身を温めるが、正面は今まで温まっていた体が急速に冷えるのを感じる。
虫の声が止み、茂みの音すらしなくなった。
相手も気付いたと、タイサ達は小さく頷き合う。




