④杭打ち
もう一度手紙を読み込み、彼女は首をかしげた。
「装備のことは分かりましたが、手紙の後半にある移動手段とは何でしょうか?」
すでに馬車は手に入れている。それとも馬車を失った時の保険の為に書かれた文なのか。エコーは思いつく事を口にしてみる。
タイサは彼女から手紙を摘まんで取り上げると、どれも違うと肩をすくめた。
「それは見てのお楽しみだ」
意地悪く、笑ってみせる。
「分かりました。せいぜい隊長の期待に沿えるよう驚いてみせます」
エコーも同じように笑い返した。
話に丁度区切りがついた所で、タイサはそういえばと周囲を見渡す。
「ボーマの姿が見えないぞ?」
あれだけ大きな体を見失う訳がない。タイサはもう一度倉庫を一周するが、姿どころか声すら聞こえてこない。
「彼なら、早々にいくつか武器を見繕って外に出ていきましたよ」
「そうか、珍しいな」
エコーの言葉に、タイサは眉を上げる。
「どうだい? 気に入った武器はあったかい」
トリーゼが倉庫に入ってくる。
「使えそうなものがあれば、持って行ってくれて構わないよ」
「本当ですか?」
エコーが驚き、鍜治場に置いてきた例の武器に視線を送ると、トリーゼもその意を察して、短く乾いた声で笑った。
「ああ、レイリーピアとあの短剣がいいのかい? 構わないよ。私も見た所、あんたなら使いこなせてくれそうだ」
短剣の背に存在する溝の使い方が分かったら教えるという条件を付け、彼女はエコーに武器を託した。
「それで、タイサはどうする?」
トリーゼがタイサの顔を覗きこむ。
「そうだな………」
騎槍の中の魔剣は、簡単に使う訳にもいかない。かと言って、ただの剣では決定打に欠ける。何より、命中率の悪い自分でも当てる事ができる武器が必要だった。
そこに、壁にかかった大きな盾に目が留まる。
一見、どこにでもある角張った大盾だが、縦の表面をくり抜いたような溝が中心に一筋できていた。
この窪みの意味が分からず、タイサは顎に手を置く。
「こいつかい?」
トリーゼが物好きだなと笑いながらタイサに近付き、腰に手を当てて説明する。
「こいつは『杭打ち』。攻撃と防御を一体化させようと爺様が異国の本を基に考えた最後の作品だよ。あの溝に槍のような尖った武器を設置し、持ち主の操作で武器が射出されて相手を貫くって絡繰りさ」
「文字通り、相手を串刺しにさせるのですね」
エコーの言葉に、その通りとトリーゼが悪い顔で笑う。
「とんだ変態さ。重さだって馬鹿にならない。第一、敵と触れ合える距離まで接近しないと使えないときた。威力は保障するが………間合いを無視した武器なんて誰も使いたがらないよ」
「………使えないのか?」
「使う人間がいない、が正確な表現かな。まぁ、うちとしては毎度の理由さ」
さらに言うならば、射出に耐えられる武器がないと彼女が理由に付け加える。どんなに実験をしても、市販の槍や騎槍では、射出の勢いと相手との衝突に負けてしまい、一度放つ度に交換が必要になる。
「つまり、文字通りの『杭』に値する頑丈な槍が必要、という訳か」
「そういう事」
だからこの装備は使えないとトリーゼは掌を天井に向けた。
「………あるぞ」「は?」
タイサの言葉にトリーゼは理解できずに眉をひそめる。エコーはタイサの言葉の意味に気が付き、口を開けて驚いた。
「頑丈な杭になる素材が、馬車の中に入っている」
タイサの言葉に、トリーゼは人が変わったように倉庫を飛び出していった。




