③引かれた糸の先に
「成程。腕も知識もバルザー爺さんに引けを取らない様だ」
「分かってくれて嬉しいわ」
話がまとまった所で、タイサは背中に背負っていた騎槍をトリーゼに預けた。
「随分と使っているみたいね………それと、一度中身を出してる」
ぐるりと見回しただけで武器の調子を読み取った。タイサは騎槍のゆがみを直し、左右のバランスを整えて欲しいと依頼する。
「それと、騎槍以外の武器と盾が欲しい」
そもそも騎槍は騎馬に乗ってこそ真価が発揮される。馬に乗らなければ武器特有の重量は死重となり、かえって邪魔になる。これから大量の蛮族達、さらには強力な魔物と戦うには、市販の武具ではなく、使い手に合わせた装備が必要だった。
「奥に倉庫があるから適当に見繕っていいわ」
「分かった。ありがとう」
騎槍に何度か金槌を当てて音を確かめたトリーゼは、倉庫を指さしてタイサ達を案内する。
「そういう訳だ。お前達もついて来い」
「は、はい」「了解でさぁ」
タイサはエコーやボーマ達にも声をかけた。
奥行きのある倉庫の中は、まるで博物館のように様々な武器防具が並べられていた。タイサが言ったように、同じものは一つとしてなく、中には使い方すら迷う物も見られる。
「へぇ………ここまでくると本当に凄いって思いますよ」
ぐるりと壁や木箱の上に並べられた武具を見回りながら、ボーマが素直に感心する。
「残念。弓はないのね………」
カエデに扱える武器がない事に、彼女は不満そうに息を漏らした。
「いや、昔はあったぞ? 気になるなら彼女に直接聞いてみな?」
「本当!?」
自分だけの武器が手に入る。カエデは目を輝かせながら鍜治場に戻っていった。
「………隊長、気になった事を言っても良いですか?」
「何だ藪から棒に」
構わないから言ってみろと、タイサは傍にいるエコーに返す。彼女は手に取っていた短剣を手前に戻すと、武具を確認し、共に回りながら言葉を続けた。
「王都から受けた南の街に荷を届ける依頼。もしかして、ここへ向かわせる為の口実ではありませんか?」
「まぁな」
タイサは隠さなかった。
「俺もそれに気付けたのは、街で荷降ろしを終えた時だ。依頼人から報酬と一緒に、ギュードの名前の入った手紙を預かった」
タイサは腰に付けた小物入れの蓋を開けると、何度も折って小さくなった紙をエコーの掌に落とす。
「読んでいいぞ」
彼女が紙を開くと、そこにはバルザーの鍛冶職人から必要な装備を受け取り、さらに東に向かう為の移動手段を確保しろと書かれていた。
「どこまで先を見通しているのか分からない奴だ」
手の平の中心に乗せられて腹も立たない。タイサが鼻で笑う。
「ですが、助かっているのは事実です」
「勿論だ」
エコーの純粋な評価に、タイサも素直に認める。




