②その名はレイリーピア
「いいわ。これを見ても同じ事が言えるか試してみなさい」
トリーゼは悔しがる事もなく、むしろ『見ていなさい』と小馬鹿にするような笑みで奥の部屋へ入ると、一振りの長剣と短剣を持ってくる。
タイサは長剣の方を手に取った。
「随分と細い剣だな」
片手剣にしてはやや長いが、騎槍程ではない。むしろ驚くべきはその細さにあった。剣の幅は親指の半分程しかなく、見た目よりも重い。振れば、その勢いで根元から簡単に折れてしまう不安を感じさせる一品だった。
「持ってみるか?」
「わ、私ですか?」
タイサはエコーに剣を渡す。彼女もその細さと形状に驚きつつ、剣を何度か振ってみせた。
だが、彼女は数回の素振りで眉をひそめ始めた。そして何かを思いついたのか、エコーは何度か突きを放つと、剣はしなる事なく、空気を切り裂くような直線で軌跡を描いた。
「正解よ。その剣は突く事を極めた武器なの………文献によれば、剣の名前はレイリーピアというらしいわ」
「すごい………この細さなら、どんな鎧でも隙間を縫って貫けそうです」
エコーは武器に目を奪われ、何度も突きを試す。次第に扱いが分かってきたのか、体の構えや立ち位置まで様になっていく。
「………トリーゼ。文献といったが、それはバルザー爺さんの秘伝書か?」
「えぇ。あらゆる世界の武器が記された異国の本よ」
未だに多くの文字を読む事はできないが、まるで本物のような絵が貼られたページのみを参考に試行錯誤を繰り返し、武具を実現させる。トリーゼは、祖父から秘蔵の書を受け継いでいた。
「エコーさん、実はその剣はもう一つの短剣と組み合わせて使うらしいの」
そう言って残った短剣をエコーに手渡す。
エコーが短剣の鞘を抜くと、レイリーピア以上に複雑な形をした刀身が姿を現した。短剣は両刃ではなく片刃、だが反対側の刃には無数の溝が彫られている。
「その溝の理由も剣の名前もまだ分からないけど、絵にはこの二本の剣を持つ様子が描かれていたの。どう、何か思いつきそう?」
エコーが両手に二本の剣を構える。両手に武器を持って戦う方法や流派がある事は、剣を持つ者達にとって随分と知られているが、攻撃に偏る分、防御が疎かになる。利き手に長い方の剣を使うのだろうとまではエコーにも理解できたが、それ以上は分からなかった。
「でも、この短剣だけでも非常に強力だと思います」
「そりゃそうよ。南の山を越えた砂漠にいる砂蠍の一番鋭い鋏と一番硬い尻尾の素材だけをふんだんに使っているんだもの。その辺の店売りの剣なんかまとめて四、五本は折れるわね。保証するわよ」
どちらも自慢の一刀だとトリーゼが胸を張る。
エコーがタイサの顔を見ながら頷く。その意味にタイサは彼女の腕に理解を示した。




