①変人の工房
「バルザー爺さんが亡くなったって聞いたが………」
集落の奥。石造りの部分が他よりも多い家屋の中、石で組まれた炉、金床が置いてある部屋に案内されたタイサは、孫娘であるトリーゼから大体の事情を聞かされた。
「えぇ。といっても、もう去年の事よ………まぁ、好きなお酒で最期を迎えられたんだから、本人にとっては幸せだったんじゃない?」
タイサの後に続いて、エコー達も部屋の中に足を踏み入れる。
「隊長、ここは鍜治場………ですか?」
彼女が石机の上に置かれている何本もの剣を眺めながら尋ねた。
「そうよ。変人の鍛冶職人………バルザーの工房よ」
「バルザー………俺は聞いた事ないんですがねぇ」
トリーゼの言葉に、ボーマは垂れた顎に触れながら思い当たらないと唸る。
だがタイサは当然だと、彼女に代わって説明する。
「普通の武器は作らない。同じ武器も作らないをモットーにした完全個人向けの武具職人だからな………かくいう俺の騎槍も、この工房で作られたんだよ」
「………隊長の騎槍が、ですか」
エコーはその言葉を聞いて、一瞬身震いする。
タイサの騎槍の中には、この世とは思えない片刃の長剣が封印されている。その刀身は光すら吸収する程に黒く、あらゆる物を切り裂いて塵へと返す、存在を残さない呪われた武器。あらゆる状態異常を受け付けない彼だからこそ扱える一品である。
そしてタイサが王国騎士団を追われる原因になった武器でもあった。国家の正義を象徴し、国民を守る騎士団にとって、呪われた武具を使う事は御法度中の御法度だったのである。
「………その武器の事は爺様から聞いているわ。入れ物は爺様が、呪いを抑える魔法を紅の神官様が担当したって」
実際に見た事もないがと、半信半疑でトリーゼが会話に加わる。
「だが、バルザー爺さんがいないんじゃ………」
「私がやるわよ?」
タイサの落ち込んだ声に、彼女は自分を指さした。
「………何、その眼は。もしかして疑ってる?」
「そりゃぁ、孫娘とはいえ………ねぇ?」
苦笑し、肩をすくめるタイサに、トリーゼが眉をひそめて口を尖らせる。
変人とも扱われていたバルぜーの凄さは、凡人が想像もつかない作品を作り続けた事にある。中には誰が使うのか、人間が扱えるのかという武具もあり、本来の職人が極める『使い手に合わせた武具』作りではなく、『使い手を選ぶ武具』作りを生業としていた。
故に作品を扱える人間が現れると、彼はほぼ無償に近い額で作品を与えていたのである。




