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第九章「それぞれの道」
ピンポンピンポーン
〜ユナイテッド航空728便 ロサンゼルス行きは
間もなく皆さまを機内へご案内致します〜
〜キィーーン・・・〜
(女性の声)「ほんと凄いよ。」
(男性の声)「渡米する勇気、オレにはないね。」
(男性の声)「確かに日本の大学の授業だけでも
付いていくのが精一杯なのにな。」
友人5人が集まり、彼女を見送る。
関西国際空港の展望デッキ、
スカイビューからの眺めは、どこまでも高く、
大きく羽ばたける、そんな希望に満ちていた。
2年前、彼女の癌はオレに転移した。
オレは抗がん剤治療を継続しつつ
学生生活を送る。
だがこの状況では医師を目指すのは
不可能と判断し、今は臨床心理士を
目指し心理学を学んでいた。
彼女は椎間板ヘルニアの手術を終え、
高度技術の抗がん剤治療の研究を決意。
単身でアメリカへの留学を決めた。
「必ず帰るから。」
「今度は、私があなたを救うから。」
別れは辛い・・・
また、いつか会える日まで。
だから春は嫌いなんだよ。