第七章「甘い香り」
雨から雪に変わった今日の空気は
心に刺さりそうなくらいに冷たかった。
オレは彼女と特別な関係で結ばれた。
ベッドに横たわり小さな肩を抱き寄せた時、
甘い香りがした。
その香りでふと少年時代に奇妙な体験をした事を
思い出した。
「話して良いかな?」
少年時代に奇妙な体験が2度あった。
1度目は小学5年の体育の授業中で。
サッカーの試合中、ゴール前にふわりと浮いた
ボールにヘディングをしようと。
しかし、同じく同級生の友人も。
二人は交錯し、額が激しくぶつかる。
倒れ込む同級生の額からは流血が。
とっさに額の傷口を手で覆い、
頼む止まってくれ・・・
その瞬間、強烈な耳鳴りと共に額に激痛が走る。
翌朝、額には身に覚えの無い傷が。
2度目は高校1年の夏。
友人3人と祇園祭へ出向いた時の事。
〜コンチキチン〜コンチキチン〜
山鉾巡業に見とれていたオレは、
すれ違いざまに女性とぶつかる。
転んだ女性の浴衣が、膝下ではだけている。
大きな擦り傷、そして右膝から流血が。
とっさに「ごめんなさい。」
そう言って、女性の傷口を手で覆う。
同世代だろうか、その女性は頬を赤らめ
恥ずかしそうに「大丈夫です。」
「私の方こそ、ごめんなさい。」
そう言ってはだけた浴衣を整え立ち去る。
その去り際に甘い香りがした。
その瞬間あの時と同じく、強烈な耳鳴りと
右膝に激痛が走る。
そして、やはりあの時同じく翌朝目が覚めると
「傷が癒えていたの」
!?
「なぜ君がその事を?」
そう翌朝目が覚めると、オレの右膝には
大きな擦り傷が。
そして、彼女いわく昨夜の擦り傷が癒えており
浴衣には流血の染みすら無かったと。
涙が溢れてきた、とめどなく溢れてきた。
オレは彼女と5年前に出逢っていたんだ。
あの日、彼女は友人3人と京都を訪れており、
祇園祭へ出向いていたと。
当時彼女は14歳の中学2年生で、
不思議な出来事だったので鮮明に記憶があると。
この時から、二人が出逢う事は決まっていたのか。
それは必然なのか。
彼女の右胸にある抗がん剤投与のベース
を手で覆い強く念じた。
病を取り払い彼女に未来を・・・
その為なら、オレの身を捧げても良い・・・
何に願ったのか?
誰に願ったのか?
神?そんな事を考える余裕すらなかった。
しかし・・・
耳鳴りはしなかった。