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誰もわかってくれない

作者: 宮野ひの

 私のことを誰もわかってくれない。当然だ。誰かのことを本気でわかろうとしないからだ。


 みんな自分の人生を生きるので精一杯。やっと心の余裕が生まれたら、他人のために使わず、スマホを見て時間を潰す。ああ、今日も一日が終わったと、嘆きながら、眠れない夜をベットの中で寝返りを打ちながら過ごす。


 ぽっと出の人が「君のことをわかっている」と言うならば「嘘だ」と感じるだろう。だけど、相手から目を離すことができない。睡眠不足で弱気になっている時こそ、「助けてほしい」と返してしまうだろう。


 妹の春香が「私のことを誰もわかってくれない」と言った。気持ち悪い。同じことを考える。さすが姉妹だ。


 自分が心の中で思う分には、恥ずかしい気持ちも忘れられる。だけど、形になって目の前で見せつけられると、全身が熱くなり、どうしようもなく情けない気持ちになる。


 大人気ないと思いつつ、春香の言葉を無視した。「そんなことないよ」という薄っぺらい言葉は言えなかった。「何かあったの?」と聞く心の余裕もなかった。


 私のことを、最初に誰かにわかってもらえないと、春香をわかってあげる立場に回ることができない。


 悲しげに俯いた春香の手には最新型のスマホが握られていた。目は潤んでいるのに、表情はかたい。右手の指先だけが、上に動いたり下に動いたりと忙しない。


 もしかすると自分の気持ちをSNSに投稿しているのかもしれない。世界に向けて発信しても、心無いあたたかい言葉をかけられるだけだ。それで、本当の気持ちは満足するのだろうか。


 春香こそ、本当はお母さんとお父さんに、一番にわかってほしいのではないか。だけど今この場所に、その二人はいない。毎日顔を合わせてはいるけど、言葉を交わすことは少ない。


 誰もわかってくれないと、軽々しく口にできるけど、誰かをわかりたいと思ったことはない。自分の考えを話したところで、その言葉の裏には愛されたい気持ちが隠されているだろう。


 何気ない日常の会話も、第三者からすると「受け入れて!」「愛して!」と、隠語のように聞こえているだろう。


 誰もわかってくれない。それは、救いなのではないだろうか。世界中にいる人たちが、私のことをわかってしまったら、私は行き場がなくなる。何をしてても本音を見透かされてしまうだろう。私が好きな男の子の前で素直になれないのを、外野がニヤニヤした目で「わかってる」と言うのが、耐えられるだろうか。


 誰もわかってくれない。私の気持ちを私の言葉にしたところで、相手の中で相手の都合の良いように解釈されてしまうだろう。どんなに多くの言葉を使っても、自分の複雑な気持ちを表現できない。そこには必ず誤解が生まれるだろう。


 誰もわかってくれない事実を素直に受け入れたら、世界の何もかもが輝いて見えるだろう。不完全な世の中だから、何が起こってもおかしくない。良いことも悪いことも。


 誰かがわかってくれるのが当たり前だと思うからこそ苦しくなる。いつから私は、こんなに傲慢になってしまったのだろう。


 また、誰かにわかってもらえるのが幸せにつながると、何を勘違いしていたんだろう。私が私のことをわかれば良い。そして、そんな気持ちを周りにわかりやすくアピールすることなく、胸の内にしまっておけば良い。


 私は春香を姉のような顔で見つめた。しかし、目が合うことはなく、スマホに夢中になっている姿を、見守ることしかできなかった。

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