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009 クラスでの俺と姫乃

 姫乃と一緒にマンションを出て登校。途中まではそれで良かった。

 なのに学校に近づいてるのに姫乃は俺と離れようとしない。本当に姉弟と思うくらいベタベタしてくる。

 知り合いに見られたらどうするんだ。


 コンビニでトイレ行きたいから先に行ってくれと言い訳して姫乃を一人で先に行かせることにした。

 姫乃はすごく不満そうだった。

 遅刻ギリギリまで時間を潰し教室へ入ることにする。


「燐音っ!」


 教室に入ってすぐに聞こえてくる知り合いの声。

 そこには俺の友人の美田和彦(みたかずひこ)の姿があった。

 中学時代からの知り合いで介護と家のことで部活をやっていない俺の唯一の友人と言ってもいい。

 和彦が駆け寄ってきた。


「大丈夫かい? お祖母ちゃんの件があったから心配してたんだ」

「そういえば早退したもんな。いろいろあったけど大丈夫だよ」


 和彦は心優しく、俺の現状において気を配ってくれる。

 俺の心が壊れないのも学校で和彦がフォローしてくれるからって所が大きい。


「片桐さんおはよう!」

「おはようございます」


 姫乃もクラスメイトなので教室に入ってくる。当然だコンビニで時間潰した俺とは違う。

 ただ、その割に今着いたような感じだな。トイレでも行ってたんだろうか。


「今日の宿題出来た?」

「はい。難しかったですけど解くことができました」

「さっすが片桐さん! 見せて見せて」

「ふふ、自分で解かないと駄目ですよ」


 姫乃の方に視線を向ける。

 同じクラスメイトと仲良く話をしているようだが何か笑顔が固い気がするな。

 俺と話してる時はもうちょっと柔らかかった気が……。

 今までは姫乃のことを意識していなかったから改めて分かることってあるよな。


「燐音が片桐さんを見てるのは珍しいね」

「っ!」


 やばい見すぎて和彦にバレてしまった。親友といえど姫乃と家族になったことは言えない。

 どう返すべきだ。その時に近くにいた男子の声が聞こえた。


「ああ、やっぱりお姫様は今日もかわええなぁ」

「見てるだけで癒されるよ。告ったら付き合ってくれねぇかな。あんな子とデートしてぇ」


「無理だろ。野球部の部長とかサッカー部のエースとかみんな告ってるけど一字一句変わらずごめんなさいなんだぜ。オレらじゃ無理だっつーの」


 やっぱり姫乃は人気あるよな。

 まる二日半一緒だったけど……やっぱり言われるだけあって姫乃は本当に可愛らしい女の子だ。

 今、俺はその子に衣食住を養われているわけだが。


「胸もあるんだよなぁ。後から抱きつきてぇ」


 そんな失礼な言葉にイラっと来てしまう。そして同意してしまう気持ちが湧いてくるのも自己嫌悪だ。

 姫乃は家族なのだからそんなシモの感情なんて抱いてはいけない。


「燐音?」

「あ、ああ……彼女綺麗だなって」

「片桐家のご令嬢でお姫様だもんね。僕達とは住む世界が違うよ」


 今、一緒に住んでるんですけどね。

 だから学校では他人のフリをしよう。姫乃の家族愛が満ちるその時まで……そんなつもりだったのに。


「燐くん、お昼ご飯一緒に食べましょう」


 お昼休み入ってすぐに姫乃が弁当箱持って近づいてきたのだ。

 朝弁当を二つ作っていて俺の分ももしかして……と期待したけど渡されなかったので諦めたが、よりによってこのタイミングで持ってくるとは。

 どうするどうする。ほんとどうする。あ、和彦がこちらにやってきた。三人ならまだ。


「燐音、一緒にご飯……くるり」


 おい和彦方向転換するな。俺を一人にするんじゃない。

 姫乃は俺の机の上に二つの弁当を開いた。


「今日は美味くできたと思うんです。燐くんがお弁当の具材とか教えてくれたおかげですね」

「ソウデスネ」

「どうしたんですか変な顔をして」

「まわりの視線に気づいてないのかな!」


 そう、クラスメイト全員が俺と姫乃に視線を向けていた。

 皆、驚き戸惑っている。男子生徒のいくつかは敵意も感じる。学園のお姫様とお昼一緒なんて夢のシチュエーションだ。

 俺も全部見たわけではないが。姫乃が男子とご飯を食べた光景を見たことはない。


「あ、でも本当美味そうだ」

「会心の出来だと思います」


「片桐さん……なんで葛西と一緒に! そんな冴えない奴なんか片桐さんに合ってねぇよ!」


 冴えないは余計だろう。強い口調で申してきたこいつは確か姫乃に告白したクラスメイトの中で顔良しの運動部の奴。

 姫乃じゃなければすぐにでも彼女ができる部類だろう。


「まさか付き合ってるんじゃ!」

「付き合ってませんよ」

「おおっ」


 クラス中がざわつく。

 姫乃が箸を取り出し、弁当にある卵焼きをつかんだ。そして俺の口元へ持っていく。


「……何しようとしてるのかな」

「昨日、燐くんが卵焼きを作ったじゃないですか。あれは確かに美味しかったです。絶妙な砂糖加減、私が初めて敗北を感じたかもしれません」


「さようで」

「ですが今日の卵焼きは会心の出来です。なので燐くんに食べさせてあげようかと。はい、口を開けてください」

「今じゃなくてもよくね!?」


「姫が葛西にあーんしてる……。これで付き合ってない?」

「嘘だろっ! ありえねぇ」


 会話は聞こえてないと思うがこの状況は隠すことはできない。

 姫乃を好きだった奴らが息してないぞ。

 何で姫乃はこんなことをするんだ。完全に変な噂になってしまうじゃないか。仕方ない、俺が言うしかない。


「片桐さん……こういうことは止めた方が」


 その時、姫乃は立ち上がり大声をあげた。


「何でそんな他人行儀なんですか! 燐くん、昨日は姫乃って言ってくれたじゃないですか!」


「もうすでに名前で呼び合う関係!?」


 うーん、この騒ぎが大きくなる状況わざとだろうか。

 ここまで大騒ぎになってしまったら下手な言い訳はかえって良くないかもしれん。


「わけわかんねぇ……何でオレがフラれて葛西なんかが姫に好かれるんだよ。くそっ!」


 苛立ちを見せるクラスメイト達。不愉快な言葉ではあるが怒りは出てこない。

 むしろ恐怖に肝が震える。正面にいて皆に後を向いている姫乃の表情が明らかに変わったからだ。

 姫乃は箸を置いて振り返る。


「私のやることに何か文句があるんですか」


 姫乃の声にはドスが効いていた。好きな子にこんな言葉を投げかけられたらつらいだろう。


「いや……葛西みたいな暗い奴よりオレの方が君に相応しいだろ!」

「無理ですね」

「何で!?」

「あなたのような耳触りの悪い声を聞いていたくありません。聞くなら燐くん一択です」


 明確な拒否にクラスメイトの男子は項垂れてしまう。

 みんな知らないだろうな。このやりとりだとクラスメイトのイケメンより俺の方が魅力的だと姫は言っていると感じている。

 しかし本心は俺の声色が姫乃好みだったからにすぎない。

 お父様系が好きなお姫様は低音足りた声が好きなんだ。すまんなイケメン。


「はぁい、燐くん。あーんです。美味しいって言ってくださいね」


 姫乃は騒然となったクラスでも気にせず俺に箸で掴んだ卵焼きを差し出してきた。

 もはや食べるしかないと……姫乃のあーんを受け入れる。

 卵焼きを噛むと絶妙な美味が広がる。思わず口に出してしまうほどに。


「美味しい」

「でしょ〜」


 姫乃は本当に嬉しそうだった。


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