062 夢に向かって③
「最後の曲でーす!」
「えええええっ!」
鈴華の声にお約束の声が上がる。
でもこれは本当に惜しいと思っているのかもしれない。
このライブは映像化もしてるし、うまく編集して動画投稿したらもしかしたらバズるかも。
そんなことを考えていたら予想外のどよめきが起こる。
「なんだ?」
「みんな~~~! 最後の一曲はヨルカも一緒に歌っちゃうぞっ!」
「ぶっ!」
なんと夜華が鈴華と同じ衣装に身を包んで舞台に出てきたのだ。
日本のトップアイドルの登場に学校内は大混乱に陥る。
何で出てきたんだ。妹の考えが分からん。
「姫乃、伴奏開始して」
「は、はい!」
姫乃がピアノを弾き始め、釣られるように楽器隊も奏で始めた。
「鈴華、やれるわよね。ヨルカに付いてきて」
「え、ええ!」
急遽のコンビ結成にバンドメンバーも困惑している。
そんな状況でも鈴華は夜華にくらいついていた。
さすがトップアイドルの夜華はレベルが違うな。でも鈴華も決して劣ってはいない。
夜華に食われることなく、存在感を示し続けていたのだ。
そして3曲目が終わった。
「みんなありがと~! ここで突然だけど発表があります!」
夜華は大声を上げて、場をしんとさせてしまった、
「ヨルカはアイドルグループをもう一つ作ろうと思ってます。ヨルカともう一人の二人だけのグループ! オーディションしようかと思ったんだけど、たまたま逸材を見つけたのでここでスカウトします!」
ヨルカは鈴華に手を差し出す。
「ねぇ鈴華。ヨルカと一緒に天下を取らない」
「……わ、わたしが? でもわたし、ポンコツだし……姫乃の方が優秀だよ」
「姫乃は身長低くて、胸がデカすぎるのでバランスがねぇ」
歓声が大きいので至近距離にいる俺しか聞こえてないが姫乃が聞いたらぶち切れそうな言葉だな。
「それにあなたの方がバイタリティがあるし……上昇志向も強い。見返したいんでしょ。いろんな人を」
「そ、それは! でも、わたしバカだよ」
「安心しなさい。ヨルカだってバカだから!」
それは兄として複雑ともいえる。
夜華は鈴華に手を差し出した。
「もう一度聞くわ。ヨルカと一緒に天下を取る?」
その手に鈴華は両手で握りしめた。
「天下を取りたい! もう誰にも高級人形だなんて言わせない!」
「OK! 外にマネを待たせてるから行くわよ。んじゃお兄ちゃん後よろしく~!」
「おまっ!」
夜華は鈴華を引っ張って会場から出て行ってしまった。
「燐くん、これ……どうするんですか」
姫乃から問われ、俺は思わず頭を抱える。
「結局、後始末するのは俺じゃねーか!」
後の騒動は省略するがとにかくタイヘンだったのは間違いない。
◇◇◇
文化祭の行事全てが終わり、俺達はくたくたになって家へ帰ってきた。
鈴華はまだ帰ってきていない。
久しぶりに二人だけの晩ご飯を姫乃と取ることになる。
「鈴華さん大丈夫でしょうか?」
「夜華があそこまで大胆なことをするとは……」
母さんと揉めているって言ってたから独断……もしくはマネージャーと共謀してやってるな。
あいつのマネージャーはマジで優秀だからな。何度か高校卒業と共に就職を勧められたっけ。
「面倒なことにならなければいいが……片桐家的には大丈夫なのか?」
「そうですね。ただ……彼女は本家の令嬢です。彼女がアイドルに適正があると分かって良い方向に進むかどうか」
「鈴華はきっと本気でやるだろうな」
その時、俺達が取れる方法……家族として手を差し伸べた以上支え合わなければならない。
鈴華は今日は向こうで泊まるって話なので帰ってきたら詳しく話をしないとな。
「さて、鈴華さんの話はいいでしょう」
「へ」
姫乃さんがにっこりとした顔をする。
いつ見ても美しい金色の髪をした学園のお姫様。今日、ピアノを弾いている姿はとても美しかった。
「今日の23時にいつも通りお部屋に行くので寝ないでくださいね」
「は、はい……」





