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006 母さんからの言葉

 ドキドキ心臓が震える。世界で一番話している人なのになんでこんな血の気が引くような想いをしているんだろう。

 片桐さんは心配そうな表情で俺を見ていた。本来だったら家族間の会話だったら席を外すべきなんだろう。でも俺は立ち上がることができなかった。

 彼女に側にいて欲しかったことに他ならない。

 俺はスマホの通話ボタンを押した。


「もしもし」

『燐音! 今、どこにいるの。家事が終わってなくて心配したわよ』


 ああ、そうだよな。祖母ちゃんが倒れて忙しかったし、洗い物や洗濯がそのままになっていたのは当然だ。

 いなくなったことじゃなくてそっちを気にするんだからやっぱりと思ってしまう。


「……今、知り合いの家にいる」

『そう。もう遅い時間だし早く帰ってきなさい。みんな心配してるわよ。ごはんだってまだでしょ』


「別に俺がいなくたって飯くらい何とかなるだろ。双子だってもう中学生だし、母さんも昔は飯作ってくれてたじゃん」

『燐音どうしたの? あなたの良い所は家族を困らせないことじゃない。燐音らしくないわよ』


 俺らしくない? 俺らしさって何だよ。

 弁舌が上手くて引きつける喋りができる兄貴

 可愛らしい容姿と圧倒的な歌唱力と演技力を持つ妹

 容姿端麗の努力家でスポーツの才に溢れた弟。

 そして家族困らせないのが取り柄の俺。笑えてくる。


「早く帰るから……。心配かけてごめん」

『いいのよ。お母さん、燐音に頼りっぱなしで本当に申し訳ないと思ってる。お祖母ちゃんのこともあったし……燐音の気持ち分かってるから』

「母さん?」

『これからは燐音の時間もたくさん作ってあげられると思うし』


 俺の時間? じゃあこれからは俺のやりたいようにやってもいいってことだろうか。

 もしかしたら家出したことで両親も俺のことを考えてくれたのかもしれない。

 別に今までやってきたこと全部間違いとは思わない。弟や妹に手助けは特にしてやりたいと思ってたし。

 だからほんの少しでも自分の時間が持てれば。


『それでね。来月のお兄ちゃんの誕生日の話なんだけど』

「え」

『あの子ったら家に帰ってきて今年も宜しくってそれだけ言って帰っちゃうのよ。お父さんもお母さんも忙しいのに……本当にね。でもお兄ちゃんも頑張ってるからいつも通り燐音にお願いしてもいいかな』

「は?」

『燐音がやりたいことってこういうことでしょ』


 ああ、やっぱり変わらない。こんな会話を今まで何度も何度も続けてきた。

 いつものことだからと思っていた。でも今日は俺の誕生日でそんな日に頼み込んでくることに落胆を隠すことができなかった。

 今日、俺の誕生日なんだけどって言えば何というだろうか。きっと取り繕っておめでとうって言うんだけどそれだけだ。明日には忘れている。そして兄貴の誕生日の件どうなったって聞いてくるに違いない。もう分かっていた。


『燐音、早く帰ってくるのよ』


 もう何も期待してはいけない。だから心を無にして俺は……。

 口を開いた俺の手が突然引っ張られる。気づいた時には目の前の子にスマホを取られていた。


「申し訳ありませんが燐音くんをお返しすることはできません」


 さも当然に片桐さんは声を出していた。


『だ、誰!? 誰なの!』

「今日が燐音くんのお誕生日なのに、何も覚えてないご家族に返すくらいなら私がもらいます」


 片桐さんははっきりとした言葉で告げてしまった。


「燐音くんは渡しませんのでさよ〜なら〜!」


 片桐さんがぶちっと通話を切ってしまう。そしてそのまま電源まで落としてしまった。

 それ俺のスマホなんだけど。

 片桐さんは立ち上がり笑顔で俺に手を差し出す。


「燐音くん、やっぱり私と家族になりましょう。貸し借りとか関係ない。私はあなたを必要としています」


 なんということをしてくれたんだろう。

 でも長年言えなかったことを言ってくれた彼女の姿に清々しい気持ちになってくる。

 俺は自然とその手を掴んでしまっていた。そんな彼女と一緒にいたいと思ってしまったから。


 今日俺はクラスメイトのお姫様と家族になったのだ。


お姫様にさよ~なら~と言わせたかったエピソード。

母として子を愛してるつもりなんでしょうけど……理解はしていない。


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