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004 祝ってもらう

「マジです」


 学園お姫様が誕生日を祝ってくれる……? なんだそのボーナスデーは。


「なんで」

「お誕生日と言えば家族イベントの一つでしょう」


 確かにそうだ。俺も実家にいる時は両親や兄弟が誕生日の時は盛大にパーティをしたもんだ。間違っちゃいない。


「私、ずっと一人で過ごしていたので家族に誕生日を祝ったり、祝われたりした記憶が無いんです」

「だから誕生日を祝ってみたいのか」

「ダメでしょうか?」


 ダメなはずがない。俺だってここ数年誕生日を祝われた記憶がない。俺は誕生日を祝われたい。片桐さんは誕生日を祝ってみたい。

 今日一日限定の家族だけど願いは叶えてあげたい。


「分かった。誕生日パーティをやろう!」

「わぁっ! 楽しみです」


 本当に嬉しそうな顔をする。

 でも……その気持ちは分からなくもない。俺だって弟や妹に喜んでもらいたいから誕生日会を開いてきたわけだし、目の前の彼女はそんな機会すらもなかったのだろう。


「片桐さんって誕生日いつ?」

「秋前ですけど。どうしてですか」

「……そんなの決まってるじゃないか。祝ってくれるなら、その時は俺が祝ってあげるから」

「ふふっ、楽しみにしてます」


 その時は家族じゃないと思うけどお返しは絶対したいと思った。


「じゃあ、さっそくお出かけしましょうか」

「何か買い物?」


 片桐さんはふぅっとため息をつく。


「今日は葛西くんのお誕生日を祝うって言ったじゃないですか。夜ご飯の買い出しと誕生日プレゼントも買いたいです。本当は事前に準備したい所ですけど……時間が無いですからね」

「プレゼントまでくれるの!?」

「プレゼントを一緒に選ぶのも家族っぽいじゃないですか」


 それは間違いではない。

 現時点で片桐さんの行動原理は家族ごっこをしたいだけなんだ。

 だけどこの状況、二人きりで買い物に行くってほぼデートじゃないか。

 俺だけドキドキするのは何か悔しい。


「じゃあ着替えてきますね」


 片桐さんが自室へと行き、俺も休んだ部屋へと戻る。

 昨日は気づかなかったけど布団も着替えもしっかり用意されていたんだよな。

 一人暮らしだが誰かが泊まれるよう準備はされていた。今着てる寝巻きは片桐さんが着れるような服ではない。

 男性用の服まで置いてるなんて、これは誰用に買ったんだろうか。


「……着信はなしか」


 昨日はいい時間だったし、俺の家族達は外食して帰ったんだろうか。

 連絡が無いってことは俺のことを忘れているんだろうな。

 でも多分夜には連絡があるはずだ。家事が終わっていないと俺に任せっぱなしなことを謝罪しながらも文句を言う人達だから。


 その時、俺はどんな顔をして対応すればいいのだろう。

 まぁいい。片桐さんが用意してくれた外行きの服に着替えるとしよう。身一つで着てるからな。下着はコンビニで買えたけどアウターはどうにもならん。

 大人しく借りよう……。


 ん?


「こ、これは!」


◇◇◇


「お待たせしました」


 早々に着替え終えた俺は片桐さんの着替えを待っていた。

 自室の扉を開けて、玄関へと向かった彼女の姿はおっふ、と言いたくなってしまうほどであった。

 華やかな花柄のワンピースに身を包み、学園のお姫様は可愛らしく着飾っていた。

 長い金髪はクラウンハーフアップでまとめて、小さいブーツと真っ白く細い足は本当に目映い。

 こんなに可愛い子を見たことがあっただろうか。

 見惚れるというのはこういうのを指すんだなって思う。


「……」


 そういう片桐さんも俺の姿を見て呆けているようだ。


「葛西くん、すごく良く似合っています。すごいです!」

「お、おう」


 これはとても複雑である。

 俺が来ている服は黒のジャケットに似た色のデニムパンツだ。

 これを見た瞬間、親父が着るような服だなと思ったのは言うまでもない。若干大きいし。


「昨日の寝間着もそうだけど……もしかしてこれって片桐さんのお父さんが着ることを考えて揃えてた?」

「……」


 嬉しそうに微笑む片桐さんの表情が沈む。

 俺に背を向けるように振り返った。


「ええ、父が泊まりに来た時用ですね。……一度もこの家に現れたことはありませんが」

「聞いたら駄目かもしれないけどお母さんは一緒にいれないのか」

「母は母国に帰っています。大金握らせて2度と日本に来るなって言われたらしいのでもう来ることはないでしょう」


 マジかよ。そうなるとこの家に来れるのは片桐さんのお父さん。恐らく片桐家の当主だろうか。

 この家族ごっこを本当にしたい相手、それは片桐さんのお父さんなのだろう。

 サングラスまで揃えて父と一緒にいる日を心待ちにしていたのか。


「俺は君のお父さんにはなれないよ」

「……それは分かっています」


 片桐さんの声は沈んでしまっている。そんな声は聞きたくない。


「でも今日、君と俺は家族だからさ。俺達らしい家族をやってみようか」

「はい、そうですね!」


 この家族ごっこ、俺も全力で楽しもうと思う。

 と思っていたんだけど……。


「あの片桐さん……」

「なんですか? 今日はいい天気ですね」


 なぜ俺はお姫様と手を繋いで歩いているのだろうか。



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