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017 燐音の家族達のその後

「次の土日はオフだからしっかり休みなさいね」

「ん」

「聞いてるのヨルカ」


 家まで車で送ってくれるマネージャーから強く言われ、生返事で返す。

 あたし、葛西夜華は日本を代表するアイドルグループのセンターを任されて仕事は順調だ。少しずつ露出も増えて、女優路線も軌道に乗ってきた。

 仕事仲間やファンからの評価も上々。今ノリに乗ってると思っていいだろう。


「あなた……最近調子悪いわよね。分かる人には分かるわよ」

「うん……」


 今、あたしはメンタル面で不調を抱えている。何とかごましてやってるけど……マネージャーやトップクラスのアイドルにはバレてしまっている。

 原因は正直わかっている


「燐音くんはまだ帰ってこないの?」

「っ」


 ヨルカのお兄ちゃんである燐音が家出してもうすぐ1ヶ月になる。

 真面目で実直でいつも支えてくれたお兄ちゃんがいなくなってからその大切さに気づいた。


「あの子凄かったわよね。振りや台本だけじゃなくてメンバー全員の得意分野を覚えていて、取引先にまで気にいられていたもの。高校卒業したらウチに入れたい逸材だわ」

「……」

「あんまり言いたくないけどあなたのお母さんよりヨルカのこと見てたもんね」


 そう、お兄ちゃんはヨルカにとって一番大事なお兄ちゃんなんだ。

 でもお祖母ちゃんの葬式が終わってから姿を消してしまっている。定期的に連絡が来るから無事だってことは分かっている。

 でも……。


「到着したわよ」

「ん」

「あまり家に帰りたくないって言ってたけど。どうする? 私の家に来る?」


 今のあたしの家庭環境が良くないことをマネは知って気を使ってくれている。

 だけどここがあたしの家なのだから帰らないわけにはいかない。あたしまでいなくなったらもっと良くないし。ま、長男の御幸お兄ちゃんは帰ってないだろうけど。


 マネージャーを帰らせ、家に帰ると怒号が響き渡っていた。


「燐音はいつになったら帰ってくるんだ! おまえは母親だろ。もっと見てやらなかったんだ」

「私にばかり言わないで! あなただって一緒でしょ」


「くっ、燐音も燐音だ。何不自由もなく育ててやったのに……急に家出なんかしやがって」

「何が不満だったのかしら。私達は子供達を()()()愛していたのに」


「燐音がいないせいでフィギュアクラブの士気が下がってやがる。他チームからも燐音の情報分析に負けたって言われて、俺は我が子が評価されて本当に嬉しかった。だから燐音がもっと取り組めばもっと強いチームになってみんなが幸せになれる。あんなに求められてなぜそれを棒に振るんだ。あいつがいるから俺は総監督として一歩引いた立場でいられたのに今は昔みたいに全部見させられてる」


「こっちもそうよ。幾多の芸能プロダクションも燐音の働きを高く評価していたわ。それが嬉しくて、燐音の仕事を一杯増やしてあげてあの子が輝ける場を用意して、私は見守ることに専念したかったのに……いなくなったせいで私じゃこなしきれないのよ!」


 毎晩帰ると両親が喧嘩をしている。

 家事を担っていた燐音お兄ちゃんがいなくなったことで家の中は無茶苦茶だ。

 業者を定期的に呼んだので綺麗にはなったけど余計なお金がかかったと両親は怒っていった。

 家のことはみんなお兄ちゃん任せだったので本当にたくさん問題が発生している。御幸お兄ちゃんなんて一切帰ってこなくなったし。


 なんでお兄ちゃんがいなくなってしまったのかは分からない。

 あれだけ家族のことが大好きだったお兄ちゃんが家出してしまった理由が本当にわからなかった。

 あたしのことをいつも第一に考えてくれた優しいお兄ちゃん。双子の弟の朝くんとお兄ちゃんを取り合ったくらいに好きだった。


「お兄ちゃんに話を聞いてもらいたいよ……」

「夜華」


 2階から声をかけてきたのは双子の弟の朝也だ。

 フィギュアスケーターとしてあたしと同じくらい忙しい日々を過ごしている。朝くんも最近調子を落としている。


「おかえり」

「お兄ちゃんから連絡ないよね?」

「あったらすぐに言うに決まってるだろ。はぁ……にーちゃんのメシじゃないと調子でねーんだよな」


 あたしも朝くんもお兄ちゃんありきで生活していたから。

 毎日メッセージを送っても全然帰ってこない。こんなの初めてでどうしたらいいか分からない。


「母さんが言ってたけど、にーちゃんが女と一緒に住んでる話、本当かもな。さすがに1ヶ月も帰ってこないのはありえないだろ」

「ヨルカの方が絶対可愛いのにどこの女よ、ほんと」


「張り合うなよ……。それにしたって醜いよな。父さんと母さんの喧嘩。にーちゃんがいなくなって忙しくなったって言うけど元々ほとんど役に立ってなかったじゃねーか」

「もう今は自分でできるしね。お兄ちゃんぐらいマネジメント力があれば頼りになるんだけど、二人とも最近は飲み会に参加して浮気してるだけだったもんね」


 昔は頼りになった両親もいつのまにかあたしや朝くんが稼いだお金を使って遊ぶようになっていった。

 仕事を取ってくるという名目で飲み会にも参加してたけど……今は参加することがメインになっていて両親も随分と変わってしまったと思う。両親がやってたことをお兄ちゃんがやってることに気づいてないのよね。

 親孝行といえばいいのかもしれないけど大変な仕事は全部お兄ちゃんに押し付けていた。お兄ちゃんはあたしと朝くんの付き添いもしてくれていたんだ。


「夜華、月末オフって言ってたよな」

「うん。久しぶりのね。朝くんは1ヶ月くらい合宿だっけ」

「にーちゃんがいねーから乗り気じゃねぇけどな。……時間あったらにーちゃんの学校に行って直接会って話してこいよ。夜華の話なら聞いてくれるかもだし」


 そうだその手があった。

 メッセージがダメなら直接会いにいくしかない。

 お兄ちゃんが今住んでる家は知らないけど学校はさすがに分かる。


「ヨルカ、お兄ちゃんに戻ってきてもらうように話をする!」


 ちゃんと話せば分かってくれる。あたしと朝くんがどれだけお兄ちゃんのことが大好きか。

 絶対戻ってきてくれるように説得してみせる。


 そして見上げて居間に飾ってある家族写真を見た。

 数年前に朝くんがグランプリを取った時のお祝い旅行撮った時の写真だ。

 そこには家族全員が写って……写って。


「なんでこの写真にお兄ちゃんが写ってないんだろ」

「え?」


 朝くんもびっくりして一緒に眺める。

 あたしと朝くん、御幸お兄ちゃん。そしてお父さんとお母さん。


「にーちゃんも……あの旅行一緒に行ってたよな」


 朝くんの言葉にあたしは何も言えなかった。

 胸に残る不安だけが……残っていたんだ。

この家族、まるで分かっていない。

こんなんでも燐音のことを愛しているつもりなんです。

今回のコンセプトは悪意ではなく善意での虐待って感じでしょうか。


仕事振ってきた人達もスポーツの仕事を手伝いながら芸能の仕事を手伝いながら、兄貴の仕事手伝いながら。家事して介護してるとは思ってもないことでしょう。

彼の扱いがどういったものだったか全貌が見えてきたのではないでしょうか。


双子姉弟はまだマシな方。それでもやっぱり歪んでしまっています。

さぁ次のお話です。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

久しぶりに現実恋愛ジャンルの月間1位も視野に入ってとても嬉しいです。


ただ日間順位が下がってきたのもあり、もちろん強制ではございませんが、ブックマーク頂けてここまで読んで頂けた読者の皆様への応援と期待も兼ねて下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けないでしょうか。

もちろん★1つでも構いません! お気持ちだけでも構いません!

どうか、お願いしますっ!!!


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