013 家族ごっこに慣れたころ
それから2週間ほどが過ぎ、未だ学校で俺と姫乃が一緒にいることを突っ込まれることが続く。
お昼休みも俺と姫乃が一緒にご飯食べていると男子生徒が寄ってきて姫乃に取り入ろうとしてくる。
俺と姫乃は恋人同士ではなく、遠い親戚という設定なのだからそこは仕方ない。
「葛西くんなんてぱっとしない男子、片桐さんには合わないよ」
「サッカー部の格好いい先輩に告白されたんでしょ。そっちの方が絶対いいって」
「燐くんにも良い所たくさんあるんですよ。特にあの声がいいじゃないですか」
「低くて良い声だとは思うけど……髪長くていかにも暗そうだし……」
同性からの話でも姫乃は変わらず躱していた。
好きな人を盗ったとか、媚びてるとか言われるよりよっぽどマシと言っていたので女の世界にもいろいろあるんだろう。
俺がもうちょっと兄貴や妹弟みたいに容姿が良ければ姫乃も強く言われなかっただろうに。陰キャですまん。
それはある日の夜だった。
「姫乃、ごめん……ちょっとテレビを見てもいいかな」
「ええ、どうぞ」
学校から帰った夜は二人でご飯を食べる。飯作りは交代制にしており、飯を作る時は掃除はもう一人が担当する。
ただ洗濯は姫乃一択となっている。それはしかたない。
「見たい番組があるんですか?」
「ああ、ちょうど続けてやるんだよ」
そんなわけで俺はフィギュアスケートのジュニア選手権の映像に切り替えた。
ちょうど良いタイミングだった。
まだ中学生でありながら大人顔負けの演技力をもつフィギュアスケーター。
端正な顔立ちと圧倒的な容姿の良さ。クールな顔立ちに女の子のファンが圧倒的に多いという。
観客席でキャーキャー言ってる女性は間違いなくあいつのファンだ。
音楽に合わせたスケーティングと演技力と高い回転のジャンプで高特点を叩き出した。
「上手ですね。去年くらいから話題になった方でしたっけ」
「ああ、本当にすごい。世界で一番格好いいと思う」
「燐くんがそこまで言うなんて……、そんなにこの選手のファンなんですか」
「ああ、よちよち歩きしてた頃からファンだからな」
「……もしかして、名前、そういうことですか」
その男の名は葛西朝也。俺の弟で現在中学生のフィギュアスケーターだ。
オリンピックを狙えるくらいの才能を持っており、親父が付きっきりでどこにでも同行している。
しかし今日の演技はいつものキレが無かったな。同年代では相手にならんからそれでも優勝するだろうけど。
「燐くんの弟だってバレたら大騒ぎになるんじゃないですか」
「うん、なので絶対に言わないでね。昔から似てないって言われるからバレることはないと思うんだけど」
「弟さんは短髪ですし、気づかないと思いますよ」
兄貴はまた違う髪なんだけどな。兄貴と弟は顔立ちがよく似ていて、マジで女子にモテていた。
「弟さんの映像を見るってことはご家族の中でも仲は良かったんですか?」
「ああ、双子の弟と妹は俺に懐いてくれててな。あいつらのためにしんどい想いするのは大歓迎だったんだ」
「自慢の双子さんだったんですね」
それでもあの二人はきっと俺の気持ちを理解できない。
俺は兄ちゃんだからそれでも構わない。
だから俺のことは考えず、そのまま突き進んで欲しいんだよな。
「あの二人から連絡が来た時はちょっと心が傷んだ。でも両親や兄貴が言わせてる感じもあったから……何も言ってない」
「そうですか。燐くんの弟と妹なら私にとっても弟と妹なので心配ですね」
「ナチュラルにすごい発言するよな、姫乃って」
そういえば姫乃って兄弟とかはいるんだろうか。
同じ母親の兄弟は多分いないと思うけど、異母兄弟はいるんじゃないかって思う。でもさすがに聞きづらい。
「朝也の奴、優勝したか。お祝いの連絡したかったな」
「燐くん」
「いいよ。あいつも中学生だしきっと分かってくれる。マイペースで毒な所もあるんだけど妹想いで優しいところもあるんだ」
フュギィアの中継が終わったので違うチャンネルへ変える。
するとちょうど音楽番組がやっていた。
煌びやかな衣装に身を包んだアイドルグループの女の子達が歌う準備をしている。
その真ん中にいるのは不動のセンター、ヨルカ。
「この真ん中の子も凄いですよね。まだ中学生なのに女優活動もしていて。見た目も良くて歌も上手い」
俺は懐からサイリウムを取り出す。
「燐くん何してるんですか!?」
姫乃のツッコミにも動じない。
俺は彼女を応援しなければならないのだ。
「ヨルカ! 今日も世界一可愛いぞっ! がんばれぇっ!」
ヨルカは踊りながら圧倒的な歌唱力で場を盛り上げていく。
複数人のグループだというのに視線は完全にヨルカの方にしかいかない。まさに最強で無敵のアイドル。
ヨルカのグループの歌が終わり、音楽番組はCMへと映る。すっきりしたのでそのままテレビのスイッチを切った。
振り返ると唖然とした姫乃の姿が。
「アイドルオタク……と思いましたけどあのヨルカって子。弟さんとそっくりでしたね。もしかして」
「ああ、あれが妹で双子の片割れ、葛西夜華なんだ。あ、これも内緒ね。こっちも大騒ぎになっちゃう」
「燐くんとんでもない双子のお兄さんなんですね。妹さんとは仲はどうなんですか?」
「夜華は世界で一番可愛いんだよ」
「それでわかりました。でも結構破天荒の性格だと噂されてますね」
「噂の倍、性格きついよ。葛西家の女王様だからな。でも寂しがり屋で兄想いな所があって可愛いんだよな」
今日も母さんが付き添っているんだろうか。
でもちょっと踊りにいつものキレが無い気がする。さっきの朝也のプログラムも優勝したけど何だか違和感があった。……心配だな。
何かあったんだろうか。
夜華の出演も終わったのでニュース番組にチャンネルを変える。
局のアナウンサー達に紛れて一人の男性に目がいく。さすがに今の状況だと苦笑いしかない。
「急に笑ってどうしたんですか? ああ、最近よく出てますよねこの方。スティーブンMさんですよね。……どことなく燐くんに似てるような気がしますがまさか!」
「兄貴です」
「燐くんのご兄弟ってどうなってるんですか。でも知りませんでした。燐くんって外国の血が入ってたんですね」
「入ってないよ。俺も兄貴も正真正銘日本人」
「えっ」
スティーブンM。 Mは葛西御幸のMから取っている。いわゆる芸名ってやつだよ。
生まれつき少しハーフっぽい顔立ちだったのを少し整形して整えたんだ。
とにかく口が上手くて、頭もいいからな。コメンテーターとして出演するくらいには有能だ。
「アメリカの大学を卒業して、今は院に進みMBA取得を目指している。仕事の度に日本へ帰ってきてるとか」
「全部嘘だよ。通ってるの日本の大学だし、何でバレないんだろうな。根回ししてんのかな」
「すごい虚言なんですね……」
「それを信じ込ませる話術はある意味才能だな。英会話が上手いのは本人の努力だし、そこは素直に優秀だ」
自分が優秀であることを全力でアピールをしている。
外面だけは完璧な兄貴だよ。中身が伴っている妹や弟とは違う。
「それを知ると何だか分かる気がしてきました。お兄さん、言ってることが普通というか。前、見た時はもう少し知的な所が見えたように思えたんですが」
「その知識を補うアドバイザーがいなくなったんじゃないか」
「なるほど。目立ちたがり屋な感じが見受けられるので燐くんも大変だったんですね」
「正直、家にいた時の苦労の半分は兄貴からの無茶振りだったよ」
著名人のリストを渡されて、話すネタをまとめてこいだもんな。
本読んだり、出演作見て調べてまとめて兄貴に渡してきた。
ま、それも今はやっていない。姫乃との生活が楽しくてそんな暇はないからな。
「燐くんってお兄さんも顔が良くて、弟さんも妹さんも容姿端麗ですよね」
姫乃が目を細めて俺を見ていた。姫乃は何が言いたいんだろうか。
兄貴も弟も妹も容姿端麗なのが何か問題なのか。ああ、今の俺が血のつながっているのに顔が良くないからか。
ごめんな……と思っていたら姫乃が突然俺の髪の毛を上げてきた。
「やっぱり」
「何が?」
「燐くん。今度、散髪しましょう。家事のせいで髪切る時間ないって言ってましたよね……。切りましょう」
「別に困ってないんだけど」
「……クラスメイトに燐くんが侮られて言われるのがいい気しないんです。私に釣り合ってない、そんなことないのに。それに髪あげた燐くん、……私の好みかも」
「それにの後が全然聞こえなかったんだけど……」
「何でもないです! 自分の魅力分かってないにぶちん!」
なんかよくわからないけど怒られた気がする。
その後風呂に入ってまったりと過ごしていたがやはり双子の弟妹のことは気になる。
あの二人には構ってあげるべきだろうか。でも家出した以上、関わるのは姫乃に対しても失礼だとおもうし。でも……。
「はぁ……」
ちょっと悩んでいる所、見上げたら姫乃がじっとこちらを見ていた。
「燐くん、思い悩んでますね」
「双子を思うとちょっとな。なんだかんだ可愛がってたから」
「……燐くんの今の家族は私なんですから私も可愛がってくれないと」
「また何か変なこと言わなかった?」
ぷいっと姫乃が視線を逸らす。何か家族になってからある程度時間は過ぎたがまだまだ姫乃のことを全て理解したわけではない。
かなり打ち解けていると思うんだけど。
「燐くんはまだ私のことを家族だと心から思っていないんだと思います」
「は、はぁ」
「お風呂入ってきます! ……思えるようにしてみせます」
最近思うんだけど姫乃って結構こだわりが強い感じがするよな。
こういう所は双子にそっくりで俺よりも似ているような気がする。姫乃って正直世界一可愛いと思っていた夜華に匹敵するくらい可愛いなって思うし。
こういう卑しい気持ちがバレてしまってるんだろうなって思う。
風呂上がりに姫乃は何をするんだろうか。ゲームでもするのか。
「アイスでも食べようかな」
ぼーっとスマホ見て時間を潰した後、昨日買った棒アイスを冷凍庫から開けて、口に咥える。キッチンからリビングに戻ってきたその時だった。
「お、お、お、お風呂上がりました」
「ぶぅっはっ!」
扉を開けてリビングに入ってきた姫乃の姿を見て、俺は棒アイスを吹き出す。
なんと姫乃は下着姿のまま出てきたのだった。
燐くんの兄弟の紹介です。
お兄さんの元ネタは……。この話書いてる時はそんな話題になってなかったんですけど、学歴詐称問題でタイムリーになっちゃいましたね。
まぁそんな感じです。
次回はイチャイチャ回です。やり過ぎると怒られるのでほどほどですが!
まぁ姫乃さんもだいぶ歪んでる子なので仕方ないですね。
「姫乃の姿にワクワク」「スティーブンMっておまっ」って思って頂けるならブックマークと下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」の評価を頂けますと楽しいイチャイチャが見れるかもしれないので良ければ応援して頂けると嬉しいです。