閑話 結晶塔への帰り道
「結局、終わってみたら大失敗じゃねーか」
結晶の尖塔への帰り道。
乱雑に瓦礫を避けただけの道とは到底言えないそんな廃墟の只中を進みながら、【救世の徒】所属の紅蓮はブツブツと愚痴をこぼした。
「『幻窮世界』は事例が特殊すぎて再現性なし。“無限の欠片”を回収できねえどころか、新しい概念保有体を敵に回す始末。イノリちゃんの勧誘にも失敗するし……一年かけて得られたのがエトの左腕だけじゃねーか」
「その左腕も、エトならなんとかしそうなのがね……」
エステラも珍しく、疲労から来るため息をついた。
まさに徒労としか言えない結果に、これからのことを考えるとかなり憂鬱な気分だった。
憂鬱な帰り道、エトラヴァルトがこれを見れば『筆記試験後の俺かよ』と、絶妙にわかる人間が少ないツッコミを入れたことだろう。
「最高幹部五人を投入してこの始末……」
エステラに首根っこを掴まれながら雑に引きずられるジークリオンが瞑目する。
「他の者に示しがつかん」
「キミが一番始末に負えないんだけどね」
エステラ左手で顔を覆って反省会を開く。
「今回はオズマ以外、個人の事情に傾倒しすぎた。流石にもう寄り道は許されないよ」
自分もまた私情に寄りすぎた、と反省するエステラ。だが、
「後悔はしてねえ」
紅蓮はキッパリと言い切った。
「後悔はない」
ジークリオンは誇らしげに頷いた。
「楽しかったー!」
シーナはとてもやり切った感を出していた。
「ああもう、これだから……」
エステラは一人で頭を抱えた。
仕事人とも言えるオズマは、黙って最後尾を歩いていた。
「——でもよ、イノリちゃんのことはどうする?」
ふざけた調子から一転。紅蓮は真剣極まる表情でそう切り出した。
「保留でいいんじゃなーい? 盟主、シスコンだし許してくれるよー」
「いやまあ……そうかも知れねえけどよ」
シーナの言葉に同意しつつも、紅蓮は険しい表情を崩さない。
「意思を尊重っても限度がある……そうだろ、ジークリオン」
「ああ。時間がないのは事実だからな」
ジークリオンが目を閉じて回想するのは、エトラヴァルトがシンシアを“記録”したあの瞬間。
「あの時、エトラヴァルトは確かに“イルル”の名を呼んだ。『魔本世界』から連なる五千年の宿痾、その決着が近い」
厳かに息を吐いたジークリオンだったが、自虐気味に『胸に穴があっては締まらん』と苦笑した。
「決着の形がどうなろうと、その時、我が友が躊躇う最後の枷がなくなる」
「だね。でも今は……みんな揃って盟主に怒られに行こうか」
「憂鬱ー」
任務を事実上の失敗で終えた五人の足取りは、しかし、それほど重いものではなかった。
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明日以降はエピローグを更新していきます。




