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【第一巻発売中】弱小世界の英雄叙事詩(オラトリオ)  作者: 銀髪卿
第八章 目覚めを叫ぶ英雄戦歌
221/274

箱庭の街

お久しぶりです。

大変お待たせいたしました、更新です。

 昨日までの出来事。

 『悠久世界』エヴァーグリーンと『海淵世界』アトランティスの戦争にて活躍した俺は、二つの七強世界によるリステルへの支援を勝ち取った。


 それでも旅は終わらない。

 『羅針世界』ラクランで俺に接触してきたイノリの義兄、シン。

 未来を見通す“観測の概念保有体”、フェレス卿が予言した『幻窮世界』リプルレーゲンにあるとされる義姉、リンネの手がかり。

 二人の行方を探すため、俺とイノリ、ラルフ、ストラの四人は救難信号を全世界に向けて発信した『幻窮世界』へと赴く。


 しかし道中、俺は《英雄叙事(オラトリオ)》に刻まれた英雄〈鬼王〉スイレンから、『幻窮世界』が二千年前に滅びていることを知らされる。


 さらに、俺たちは全世界と敵対する謎多き組織、【救世の徒】に所属するシーナによる精神攻撃を受け、彼女が生み出した夢の世界に囚われてしまった。


 右葉曲折ありながらも、俺は先代継承者ヘイルの手を借りて脱出。滅びたはずの『幻窮世界』リプルレーゲンに単身足を踏み入れた。


 そして——



◆◆◆




「どうして俺は敵組織の幹部と仲良く足湯に浸かってんのかなあ」

「どうして俺は〈勇者〉に楯突いた化け物と呑気におでん食ってんのかなあ」


 今現在、俺はなぜか現存している『幻窮世界』で、〈天穹〉の忌名を持つ【救世の徒】自称最高幹部の紅蓮と邂逅、呑気に観光ツアーに勤しんでいた。


 突発的に開催された『幻窮世界』観光ツアー2日目。

 この日は俺と紅蓮は案内人のエルリックに先導され、伝統温泉街に足を運んだ。


「お二人とも、湯加減どうですかー?」

「「サイコーでーす」」

「なら良かったです!」


 対面に座るエルリックの満面の笑み、眩しい。

 足湯の効能に目を通せば、疲労回復やむくみの改善、睡眠の質の向上など様々なメリットが提示されていた。

「んでよ、実際〈勇者〉と戦ってどうだった?」

「いざとなったら戦うけど、正直もう二度と会いたくない」

 話題は、〈勇者〉アハトの出鱈目さ加減について。

 熱々の餅巾着を頬張りながら、俺は戦争の記録を思い起こす。

「4対1でも完敗だった。俺が初見殺しを使いまくってようやく一太刀、だからな。それでも致命傷にはならなかったし」

「狂ってんなー」

 未来永劫アハトと手を組むことはないだろうとたかを括った俺は、奴の力を知る限り紅蓮にバラした。

 敵の敵は味方ではないが、利用はできる。

 『悠久世界』に全力で喧嘩を売ってしまった手前、もうこの際とことん敵対してしまおうという魂胆だ。


 あと、手の内を知られた程度でアレが負けるとは思えない。


「今更だけどさ、『湖畔世界』の空間断絶ってお前が主犯か?」


「いや? それについては俺じゃねえよ」


「んじゃあ《終末挽歌(ラメント)》か。お前らと《終末挽歌(ラメント)》って——」


「仲間じゃねえよ。アレとは一緒にすんな」


 食い気味に否定した紅蓮の表情は、嫌悪に満ちていた。

 演技で出せる嫌がり方には見えない態度だ。


「悪い」


「ああ、あの野郎はいつか潰す。必ずな」


 憎悪と怨嗟が詰まった声。

 殺気と共に僅か、心臓を滾らせた紅蓮からむせかえるような血の香りが漂った。


「紅蓮さん、のぼせたんですか?」


「……いや、違えけど」


 しかしエルリックの天然なのか狙ってなのか判別のつかない疑問に毒気を抜かれ、殺気はまもなく霧散した。


「まあ、あの野郎については俺も同意見だよ。機会があったら一緒にぶっ潰そうな。ほらおでん、大根美味いぞ」


「餓鬼あやす時の口調やめろ! 何歳だと思ってんだ俺のこ——いやめっちゃ美味いな!?」


 そう、出汁が染みてて非常に美味い。

 エルリックの選んだ店に間違いはなかった。


「〈猟犬〉印のおでんですからね! 『幻窮世界』が誇る、二千年前からの名物料理です!」


 赤い幟旗(のぼりばた)に描かれた、骨を大量に抱えた可愛らしいデフォルメワンコ(超笑顔)が途端に邪悪に見えてきた。

 旗の色は返り血だし、抱えた骨は多分獲物の末路だ。


「物騒な名前だなあ」


「むっ、物騒とはなんですか!」


 俺の呟きに、珍しくエルリックが怒り口調で反応した。

 両手を腰に当てて頬を膨らませる様は“ぷりぷり”と擬音が聞こえてきそうななんとも覇気がない。


「〈猟犬〉()はですね、『幻窮世界』が誇る“秘纏十二使徒”の一人なんですよ!」


「秘纏十二使徒?」


 聞き覚えのない単語に首を傾げる。

 随分と仰々しい名前だな——という第一印象は、果たして間違いではなかった。


「『幻窮世界』を最強たらしめた化け物十二人だよ」


 答えたのは、紅蓮。

 いつの間にか足湯から出ていた吸血鬼は、俺とエルリックに背を向けたまま晴天を見上げていた。


「全員が〈異界侵蝕〉級。リーダーの〈王冠〉は単身で数十万の軍勢を返り討ちにしたって逸話があるくらいの……下手すりゃアハトと張り合える怪物だよ。……まあ、全員もう死んじまってるけどな」


「ややっ!? 紅蓮さんは物知りですね!」


 英雄、なのだろう。

 自世界の有名人を紅蓮が知っていたことが嬉しかったのか、エルリックは鼻息荒く何度も首を縦に振った。


「そう、そうなんです! 皆さんすごい人なんです! 僕たち『幻窮世界』が誇る、最高の英雄なんです!!」


「それじゃ、このおでんは……」


「はい!〈猟犬〉様がレシピを考案したものです! 他にもあそこのお饅頭なども、〈猟犬〉様が考案なされたものなんですよ!」


 野生的な異名とはかけ離れた、なんとも家庭的な人だったようだ。


「さて、そろそろ移動しましょう! 伝統工芸を体験できる施設があるんですよ!」


「了解だ。紅蓮、行くぞー」


 俺の呼びかけに、紅蓮は軽く右手を振って反応した。

 らしくない、静かな背中だった。



◆◆◆



 壺の作製体験を終えた後は温泉街を引き続き散策。ハイテンションなエルリックと、昨日と比べて明らかに静かになった紅蓮に挟まれながらの観光になった。


「知り合いでもいたのか?」


 畳に敷かれた布団に寝転がりながら、俺は紅蓮の不可解な沈黙の意味を探る。

 直球の質問に紅蓮は少し沈黙した後、ため息混じりに口を開いた。


「長いこと生きてると色々あんだよ」


 その色々を聞きたいんだが、という言葉を飲み込む。

 到底話してくれそうな気配ではない。


「俺も俺で、これでも結構混乱してんだよ」


 それっきり、紅蓮が口を開くことはなく。

 2日目は最低限の情報交換すらせずに、俺たちは布団の中で横になった。



◆◆◆



 ——『幻窮世界』リプルレーゲンが保有する無限の欠片を奪取せよ。

 それが今回、紅蓮に与えられた役割である。

 〈竜人〉ジークリオン、〈冰禍〉エステラ、〈仇花〉シーナの三名はそのための()()()()

 あくまで作戦の中心は紅蓮だった。


 【救世の徒】が先の戦争に介入しなかった対価に得た一つの情報。

 〈覚者〉シンシア。

 無限の欠片を保有している人物の名前である。


〈旅人〉ロードウィルから得た情報は、紅蓮に衝撃を与えるには十分すぎた。


「——誰だよ、〈覚者〉ってのは」


 ()()()()()に、知らない名前の誰かがいる。そして、


「どこだよ、ここ。俺が知ってる幻窮は、こんな()()()()()なんかじゃねえぞ」


 自分の故郷が、箱庭のように整然と並べられた()()になっていたことを知った。


 『幻窮世界』は滅びている。

 これが覆しようのない事実であることを紅蓮は知っている。

 なればこそ、今自分が踏み締めている大地は、触れ合っている人々は、目に映る記憶に焼きついた景色と瓜二つの街並みは。

 一体誰が、なんのために生み出したというのか。


「確かめてやるよ、必ず」


 未明、まだ陽が登る前に目を覚ました紅蓮は、世界全体を覆うシーナの夢境に亀裂が入り始めたことを察した。


()()()()、最期は看取ってやらねえとな」


 自らの手で故郷に引導を渡すと、〈天穹〉紅蓮・ヴァンデイルは。

 記憶に焼きつく朝日と寸分違わぬ別物に誓った。

改めまして、お久しぶりです。

一ヶ月もの間、更新を空けてしまい大変申し訳ございませんでした。

以下、言い訳パートです。


タイトルにもあります通り、本作、書籍化が決まっております。レーベル等は、すみませんまだ言えません。

しかし、裏ではしっかり進行中なのです。

はい、今回の長期間の空きは、「書籍化作業してたんだなー」と思っていただければ幸いです。


また、今後の更新日程なんですが、第八章の複雑さも合わさってかなり不定期になりますので、気長に待っていただけたら嬉しいです。作者も試行錯誤して挑戦中です。できる限り良いものをお届けしたいと思いますので、よろしくお願いします。

あと、諸々の現状報告などは作者の活動報告でも行っていく予定ですので、そちらの方もよろしくお願いします。


それでは今日はこの辺りで。

本日の更新、読んでいただき誠にありがとうございました。引き続き、女児詩(旧題)をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 温かい風景からの紅蓮の過去。 紅蓮、滅びたはずの自分の世界とは独立して生きているのか。
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