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場所を移して、我が家の部屋の中に。


スーツのイケメンさんは、テーブルの上に敷いてあげたハンドタオルの上に正座で座っている。

そして私は、正面に向き合う形で、ちょこんと床に正座で座った。


まずは、お互いの事を知るために、自己紹介から。


「えーっと、依です。歳は25歳で、会社員してます。」


”あ、丁寧にどうも。私は、35歳で、名前は鉄平と言います。”


互いに、ぺこぺことお辞儀をして微笑みあう。

どちらも、癒し属性の雰囲気を持つ人間で、部屋の中はほんわかとした空気が流れた。


「えっと、お茶でも出そうと思うんですが、飲めたり食べたりできるんですかね?」


”すいません。わからないんです…。

お恥ずかしいことに、死んだこともわからなくて。気づいたら空に漂ってまして...。


途方に暮れていたら、依さんのおばあさまに話しかけられた次第でして...。

この体って、食べれるんですかね?”


逆に質問を返された。

本人がわからないなら、依にも、さっぱりわからない。

互いに首をこてんと倒して、見つめ合う。


「とりあえず、試してみましょうか?ちょっと待っててくださいね。」


すくっと立って、キッチンへ行ってお茶を入れる。


自分のはマグカップに入れるとして、鉄平さんのはどうしよう?


考えた結果、おちょこにお茶を入れてみた。

それを、鉄平の前に置いてみたわけだが、おちょこでも洗面器のようになっている。

そこからもわもわ湯気が立っていて、飲もうと試みるが躊躇する。


恐る恐る顔を近づけてみるが、火傷しそうだ。

そこで、氷をひとつ浮かべて冷ましてみた。


”では、飲んでみますね。”


神妙な顔で、口を水面につけすする。持ち上げて飲むことが、重くてできなかったからである。


ずっ、ずっと啜る音がして、無事に飲めたみたいだ。


「”飲めましたね…。”」


二人で目を見開き、この事実に驚いた。幽霊、飲食が出来るという新事実に驚愕だ。


”でも、これで飲むのはかなり大変ですね...。

なので、どうしようもなくのどが乾いたら、またお願いできますか?”


苦笑しながら鉄平がいうので、依もわかりました。といい、おちょこを下げる。

台所に片付けようとしたが、箪笥の上の簡易仏壇が目に入り、そこに置くことにした。

精霊馬もいるし、飲むかなぁっと思ったのだ。


コトンと、棚におくと、不思議なことがおきた。


シュンっと、鉄平の前に、彼の大きさに見合ったおちょこでお茶が現れたのだ。


「”…。”」


その現象に、沈黙が起きる。

鉄平は、おそるおそる自分の手でおちょこをもちあげる。そして、おちょこを繁々と観察した。

さっきまでのが、ただ小さくなっただけのようだ。

折角なのでとりあえず飲んでみることにし、ズズズっとお茶を飲み干した。

空になったおちょこをテーブルに置くと、シュンっとすぐ消えていく。


二人は、再び起きた不思議なことに、動きが止まる。

消えた場所を見続けながら、口を開く。


 ”.....。飲めました。”

「.....。お粗末様でした。」


二人とも真剣な形相である。


ちなみに、仏壇に供えたおちょこの中のお茶は、なくなっていた。


「なるほど?ここに供えたら、ちょうどいい大きさで顕現するということですね。わかりました。

鉄平さん、水ようかん食べます?」


おばあちゃんの為に供えていた水ようかんを勧めてみると、またポンっと鉄平の前にちょうどいいサイズで水ようかんが現れた。

どうやら、故人を思って供えたものが、現れるようだ。

鉄平が、水ようかんを持ったので、依は、慌ててスプーンもお供えした。


”わぁ。スプーンも私のサイズになるんですね。なんか便利ですね。”


ペリッと蓋をとって、もぐもぐ食べだした。

小さな小人が頬張る姿に、ほっこりする。

食べ終わるまで、まじまじと観察していた依だったが、ばちっと目が合う。


“そんなに、見ないでください...。恥ずかしいです...。”


照れ照れと、鉄平が照れて俯く。


「か、可愛いぃ!!鉄平さん、すっごく可愛いですね!」


きっと、等身大の状態なら、惚れ惚れするほどかっこ良く感じるのだろうが、ミニマムサイズの鉄平にはキュンキュンする。


実際、鉄平も、依の反応が新鮮で、どうしたらいいかこそばゆく感じていた。

普段は、何をするにも、鉄平が動けば「ほぉわぁ〜...♡」と、見惚られることが大概であった。




鉄平は、生まれた家がお金持ちだった。

それゆえに、英才教育を小さな時から受けさせられ、文武両道のハイスペックな男に成長した。

しかも、見た目がすこぶるよく、俳優ばりに整っていた。

それゆえに、寄ってくる女性は星の数ほど。列をなしているのが常。

鉄平が肉食男子ならば、つまんでポイポイすれば良かっただろうが、小さな時のトラウマで恋愛ごとには消極的であった。

お付き合いした人が今までいなかったという訳ではないが、信用できず結局別れること数回。

35歳の現在では、絶食男子と言われるほどに、女性とは一定の距離を保っていた。特に、目に欲を浮かべているような女性は、苦手であった。

仕事も責任ある役職に就いていたため、ただひたすらに、会社のために満身していたので、寂しく感じることもなかった。

だが、こうやって死んでしまった現在。後悔が押し寄せる。

暇を作ろうと思えば、作れたのだから、もっと自分のために時間を使えばよかったと思っていた。

死んだら何も残らないというのは、本当だな...と、苦笑を漏らす。


「そういえば鉄平さんは、いつからお空に?」


“うーん、そうですね。10日ほどだと思います。

最初は、ぼーっとしてたので時間の経過がわからなかったのですが、今日がお盆入りなら10日くらいになるかと。最後の記憶が2日ですから。

その日に、確か...父とある方と会食する予定で....。

あっ、そっか。

その会食に行く途中の車で記憶が途切れてる...?

もしかしたら、そこで事故にでも遭って死んだのか??“


徐々に生前の記憶が戻ってきているようだ。


「交通事故ですか?きっと、痛かったんでしょうね。」


依は、へにょりと眉を下げ、傷ましそうな顔をする。

そんな依に向けて、ブンブンと首と手を振る鉄平。


”本来なら、痛かったんでしょうが、気づいたときには空にいたので、痛みに喚くことなく死んだのかもしれません。

だから、依さんがそんな痛そうな顔しないでください。

私は、全然平気ですよ。”


泣き笑いのような顔をしながらも、依を思いやるセリフに、胸にせつないものがささる。鼻がつんとなった。

絶対、死んだ鉄平のほうが、つらいはずなのに、ここに来てからずっとやわらかい笑顔で接してくれている。

きっと、強い人間だったのだろう。

依は、そんな鉄平の為に、ある決意をした。


「わかりました、鉄平さん!!ここにいる間は、私が全力でサポートします!!任せてください!」


ドンと、胸を叩き意気揚々と宣言した。


依の勢いに、鉄平は一瞬ポカンっとしたが、プハッと笑いをこぼし、クスクスと笑い続ける。


”ふは!ははは!いきなりどうしたんですか?

依さんはお人好しなんですか!?

全然、知らない男の、しかも幽霊なのに。

全力でサポートしてくれるんですか?ふふ。“


「そうです!全力ですよ!

ご家族が、鉄平さんの道を作ってくれるまでは、私と過ごしましょう!

たとえ、道ができなくても16日には天国までの道を私が責任をもって!送り火をご用意しますっ!」


“ははっ!天国までの道を用意してくれるなんて、最高じゃないですか!

今まで生前に頂いたものの中でも、比べられないほど最高です!

依さん。なるべくご迷惑にならないようにしますので、よろしくお願いします。”


本気で笑いすぎて目に涙を浮かべる鉄平の姿に、ホッとする。

死んでも悲観せずに明るくいられるなんて、なんて素敵な人なんだろうと依は思った。


「鉄平さんは、素敵ですね。前向きで、他人を思いやることもできて。


しかも、笑った顔が可愛いです。なんだか、ポカポカします。

鉄平さんって癒し系ですよね。きっと、お友達も多かったんじゃないですか?」


鉄平は、依の言葉が嬉しかった。

大体いつも鉄平のことを言われる場合、顔が綺麗だとかカッコいいとか容姿を褒められる。次は、仕事の能力とかだろうか。

なのに、今は内面を褒められた。顔も、笑顔がいいと言われただけ。目に情欲もない。


”ありがとう。なんか、嬉しいな。

いつも女性から褒められる時は、顔の造形を褒められることが多くて、ギラギラというかねっとりとした視線が、ぶつけられてうんざりするんだよね...。

でも依さんは、最初から僕を見ても普通でしたよね。

だから、安心して笑えたんです。

僕ね、会社では『笑わない王子』って言われてたんですよ?“


「えっ、笑わない!?信じられない!ずっと、笑ってるじゃないですか?

あと鉄平さんって、僕派だったんですね。なんだか似合います。俺って言わないのが、正解です。

鉄平さんは、押せ押せな強引な感じがしませんもん。

それに...。

私が鉄平さんに反応しなかったのは、近くに俺様系の人外系美形の上司がいるからかも....。」


鉄平は、依のゆったりとした雰囲気に絆されて、ついつい自分を曝け出してしまい、普段から使う一人称になってしまった。

依に、指摘されて、かぁっと顔が熱くなった。


そして、依のほうも話の途中で課長を思い出してしまって、かぁっと顔が熱くなった。


二人で赤面して俯く。はたから見れば、初々しいカップルのようだ。内情は、全く違うが。


”人外系美形の俺様ですか?僕の知り合いにもいましたよ。

別の会社で働いていた方なんですが、期待されてるエースということで、いろんな懇親会パーティーに参加されてて知り合いました。“


「へぇ〜。じゃあ、鉄平さんもエースってことですね〜。

すごいじゃないですか。」


依は、ニヤニヤと笑って、鉄平の横腹を人差し指でツンツンとして揶揄う。


”あっ。そういうことになっちゃいますね....。まいったな。

決して、自慢じゃなくてですね。僕の場合は親の七光なんですよ。

親が、社長だったんで、僕がたまたまいい役職に就いてたってだけで。“


鉄平は、後頭部を触りながら苦笑した。


だけど、ちょっとした時間だけだけど、話した感じ頭の回転は早そうだし。

言葉の言い回しもしっかりしてるし、普通に仕事できそう。

きっと七光りじゃなくて実力なんだろうな。と依は思ったのだった。


「ふーん。でも、きっと、そんなことないと思うけどな。鉄平さんの実力だったんじゃないかな。

まあ、今はそういうことにしておきましょう。

それに!今はそんなこと、どうでもいいです!

あと、数日は全力で遊ぶんですから、何するか決めなくちゃ!

今まで、仕事ばっかりで遊んでなかったんじゃないですか。

『笑わない王子様』(笑)?」


鉄平は、二つ名で呼ばれて、きょとっとする。

揶揄われたことに、新鮮さを覚える。

今まで女性に、こんな扱いを受けたことがなかった。

なんだか嬉しいような気持ちが溢れてきてムズムズする。


そして、鉄平もふざけてみたい気持ちになり、ワザと至極真面目な顔をつくり、すごく大事なことを言うように話し出してみた。


”そうですよ。

笑わない王子は、仕事ばっかりでしてまして。

今時の人気スポットとか、全く知らないんです。“


そして、フハッと一つ破顔すると、ニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべ、依に向き合う。


”なので、僕にいろんな経験をさせてくれるんですよね?()()()()()()?“


片膝をつき王子のように恭しく手を差し出す。

そして、トドメに依をまっすぐキラキラした笑顔で見上げた。

全力で、王子っぷりを発揮してみた。


黙って見つめ合う二人だったが、同時に我慢できなくなって笑いが込み上げる。


「”ははははは!!“」


「癒しのお姫様って!!何それぇ〜、鉄平さん!

しかもっ、王子様のポーズがはまりすぎなんですけどっ!!ヒィ〜!!」


お腹を抱えて依が笑う。


鉄平も、自分が進んで王子ヅラするようになるとはと、ありえない出来事に笑いが止まらなかった。



そのあとも、依と鉄平は、夜が更けても話を続けた。

今日初めて会った気がしないほど、一緒にいるのがしっくりして、話も笑いも尽きなかった。





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