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「あら?立花ちゃん?」


買い物途中で、後ろから声をかけられた。


依は今、古着ではなく、キレイめカジュアルバージョンの鉄平の服を選び中だった。

手に持ってるのは、メンズの黒のスキニーパンツ。


後ろを振り向くと、会社の先輩 南がいた。


「あ、南さん!こんにちは。家族でお出かけですか?」


既婚の南の横には、息子さんがいて、ペコリと目礼された。

いつも、話題にあがる高校生の息子さんだろう。

好青年で、いい子そうだ。


「こんなところで、立花ちゃんに会えるなんて嬉しいわぁ。

偶然ね!

ほら、これ。うちの息子!!いつも話してるでしょ。どう?」


「どう?とは??」


「いやぁねぇ。息子の嫁にならないかって、いつもいってるじゃなぁーい。立花ちゃんが、娘になってくれたら、とっても嬉しいわぁ。」


南がパシパシと依の肩を叩きつつ、大口を開けて笑う。


その発言に鉄平は、ぎょっとし憤慨した。


”何いってんだっ!!嫁って!

こんな、高校生のっ、甲斐性もないし、将来性も不安定な小童に、依さんを任せられるわけがないだろうがっ!!

寝言は寝て言えっ!”と、口をハクハクわななきながら、心の中で南を罵倒していた。


それに対して、息子は冷静に母親に返す。


「母さん。何言ってんだよ...。

立花さんの手元見て見ろよ。男もんだろ?

彼氏がいるんだろ。俺は及びじゃねぇよ。」


南も、依もハッとする。


依は、今持っているスキニーパンツを、隠そうか置こうか畳もうか、ワタワタする。

この場をどう言い訳しようか、頭の中はパニックだ。


「あら、ほんと。男性用のズボンだわ。

立花ちゃん、彼氏いたの??知らなかったわぁ~。

ん?そのズボン、沢崎くんにしては似合わない....。ということは、相手は沢崎くんじゃない??

でもそうなると、沢崎くんは失恋??

あら?困ったわ。沢崎くんのモチベーション下がったら、仕事やりづらいわぁ~。」


困ったと言いながら、南は大して困ってなさそうだ。それよりも、完全に面白がっている。


「ひっ!!南さん、何言ってるんですか!?課長が、な、なんですっ??」


依は、顔を真っ赤にして動揺し、すっとぼけた。

そんな依に、人生の先輩南はフフフと笑い口を開く。

まるッとお見通しだ。


「もー。お盆休み前の二人の態度みてたら、おばちゃんわかっちゃったわよ〜。

沢崎くんが立花ちゃんにゾッコンだって。ふふふ、若いっていいわぁ〜。

もう少し、私が若かったら、沢崎くんを慰めてあげたんだ・け・ど♡」


依は、南の発言に居た堪れなくなり、真っ赤になった顔を両手で覆う。


「ふふふ、ごめんね。お休み中なのに、からかっちゃって!

真面目な話、どんな人と付き合ってるの?」


「あ、いや。あの、付き合っていなくて...。」


「え!?付き合ってないのに、洋服買ってあげてるの??

その大量の洋服の袋もそうでしょう??えっ??

立花ちゃんって.....ヒモでも飼ってる...??」


南は、また別の方向に面白がり出した。

その目は、興味津々で目が輝いている。


キャァーーーっ!!どんどん、悪い方向に想像されてるっ!!

否定しなくっちゃ!ヒモって!?ヒモを飼うような女に見られてるの!?

否定するにも、なんて言ったらぁぁぁ!!

幽霊飼ってます?とか…。そんなの信じてくれるわけないじゃない!

ますます、おかしな子になっちゃう〜っ!


依は、赤くなった顔を、青くしたり蒼白にしたり、目をキョロキョロさせて、忙しなく変化させる。

そんな依の姿をバックから見上げていた鉄平は、仕方なく助け舟を出す。


沢崎なる男が気になってムッとしていたが、好きな依が困っているのはほっとけない。


“依さん、依さん。お兄さんの服って言えばいいんですよ!!”


ハッと、依は鉄平の方を見た。

すっかり南に動揺して、鉄平の存在を忘れていた。

なるほど。兄。いい言い訳だ。


「あの、ヒモじゃなくて、兄です!!兄の服なんです!!

忙しい兄なので、定期的の洋服送ってあげてるんですっ!!」


フーフーっと、慌てて言い募る依だったが、そこもバレバレ。


「うん、わかったわ。お兄さんのなのね!

そっか、そっか。ふふふ。

もう直ぐ休み明けね!早く()()()()と立花ちゃんと働きたいわぁ〜。ね?」


わざわざ、課長の名前を出す南。兄は嘘だと絶対わかってる。

じゃあねぇ〜っと言うだけ言って、依の心を引っ掻き回して、南は去っていった。


ぐったりとする依。

南のおばさまパワーに、脱帽だ。

まさか、こんなところで知り合いに会うとは......


“依さん。今のは、職場の方ですか??”


「あ、そうなんです。鉄平さん、うるさかったですか??」


“いえ、楽しそうな職場でいいなっと、思いました。

依さん、可愛がられているんですね。

わかります、依さんみたいな部下がいたら、僕も可愛がります。

食事にどんどん誘ったり、同行の仕事入れちゃうかもしれません。”


「え?嘘...。本当に?」


鉄平の顔が冗談のように見えず、どこか真剣で、依はドキッとした。


“本当ですよ?自分の部下に依さんがいたら、毎日癒されて楽しかっただろうなぁ。

...ところで、依さんは年下の男性が好みなんですか?”


「??

あっ、南さんの息子さん!?違いますよ!!

違うってのも違うか?あのですね、私に年齢の縛りはないんです。人柄が良くて、素敵な人なら年齢は関係ありませんよ。」


その答えにホッとする鉄平だった。


”そうですか、では、僕は許容範囲ですか?”


「当たり前です!許容範囲どころか、ドンピシャです!鉄平さんは素敵すぎます!」


”本当に?結婚してもいいくらい?”


「ええ。もう少し、鉄平さんの容姿が3割ほど不細工になってくれたら、いう事なしですね!」


”不細工に?今のままでは、好ましくない?”


「隣に、並ぶにはハードルが高そうですね。私が、頑張らなくてはいけないでしょ?」


”頑張る?どう頑張るんですか?”


「ん~。そうですね。まず、仕事を頑張ってお金を稼ぐ。

次に、体のメンテナンスをするために、エステに通って老廃物をだしたり、ボディクリームとか化粧水をいいものにする。

顔のつくりは変わりませんから、肌とかはすべすべしっとりしたいですねぇ。

あとは、内なる美を磨くために、マナー教室や、ウォーキング教室などに通うとかでしょうか?」


鉄平は、ぽかんと依を見つめる。


こんなところまで、依は、今まで出会った女性と違う…。そのことに心が震える。


鉄平の事を、当たり前のように見せびらかすアクセサリーのように扱う女性でもないし、自分を卑下して私なんかと言って鉄平自体の存在を認めないで去っていく女性とも違う。

鉄平を丸ごと認めたうえで、隣に並び立つための努力をしてくれるなんて最高過ぎる。


鉄平はすごく苦しくなって、胸を抑える。

涙もでてきそうだ。

好きがどんどんあふれてくる。

好きで好きで、たまらない。口に出して叫びたい。


だが、そんなことを言ったら依が困る。


自分は、もう死んでいる。

天国に行った後も依の心を縛りたいけど、依の幸せも願っている…。


依は、きっと素敵な妻にもなれるし、優しくて慈愛にあふれた母にもなれるだろう。


なぜ、自分は死んでしまったのか。

なぜ、依の横に立つべき男になれないのか。

チャンスすら、今の自分にはない。


「鉄平さん?」


鉄平が泣きそうになってるので心配で顔を寄せる。


「大丈夫ですか?なにか、私嫌なこと言いました?」


”違います。依さんが、素敵すぎて…。嬉しかったんです。”


鉄平は、依にむけて、ほわりと笑った。

その笑みは、暖かく、心に小さな灯がともるようなホッとさせるものだった。

依の心の深いところに、刻まれる。


そして........、


“依さん…、あと3日しかいられない僕に、せめてこのくらいは許してください…。”と、鉄平は心の中で謝罪しながら、目の前の依の顔に小さな手を掲げて、唇をよせる。


そして、チュッと、依の口の端ぎりぎりにキスをしたのだった。













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