短編 95 青いニンジン
異物には厳しい現代。まぁ昔から人間は異質な者を排除してきた歴史がありますがね。
そんなテーマで書いてみた!
ニンジンさんは、悪くない!
ニンジンだって愚痴りたくなる時もある。
そうさ。
俺はニンジンさ。
八百屋のザルに積まれた、ただのニンジンさ。
ただし、青いがな。
そう、俺は青いニンジンなんだぜ?
ニンジンなのに青いんだぜ?
黄色なら分かるだるぅ?
赤っぽいのも分かるだるぅ?
でも俺は青いんだー!
みどりじゃなくてブルーなんだー!
俺のブルーは、お空の真っ青系ブルーなのさ。
俺の先端から頭まで、このニンジンボディは余すとこなく全てがみっちりブルーなのさ!
ブルー……。
色が気持ち悪いそうで全く売れない。
もう三日は八百屋のザルの上で買われるときを待ってるのに。
青は食べ物の色じゃねぇ。
分かってるさ。
分かってたさ。
俺のようなパンクなニンジンが売れる訳がねぇってな。
でもよ!
俺はブルーなニンジンとして生を受けたんだ!
品種改良されまくった試験管ベイビーなんだけどな。
栄養も味も普通のニンジンと変わらないすごいニンジンなんだよ!
青いだけで。
カレーに良し! 福島郷土料理の『イカニンジン』にしてよし! ポトフにだって使えるぜ!
青いけど。
煮物にしても色は落ちない。鮮やかなブルーが煮汁に映えるぜ?
今の若い連中は『ばえー』とかで奇特なものが大好きなんだろ?
ほら、女の子特有の『かわいいー!』とかさ。全然そんな風に思ってないのに『かわいいー!』とか言ってくれねえかな、俺に対しても。
ブルーなニンジンかわいいー!
ばえー!
とかさ。そろそろ見切り品で処分されちゃうからさ。
八百屋の大将が俺を見る視線、これが日に日に険しくなるんだよ。
でも仕入れたのは、てめえだ!
責任持って食ってくれんのかねぇ。
多分馬も食わねぇぞ? あれだ、馬はニンジンが好きって思われてるが、決してそんなことはねぇ。
あれはニンジンを常食してる馬だから食べるだけで食い慣れてねぇ馬はそもそも食わねぇ。
馬的にはデザート感覚なんだぜ?
……それでもいい!
俺は誰かに食われて、この生涯を閉じたいんだ!
誰かー!
俺を食ってくれー!
青いけど。
味も匂いもニンジンなんだよー!
青いけど。
青いよなぁ。
青すぎる。
体に害は無いんだよ?
本当だよ?
あと言い忘れたが、葉の色は紫だ。
うーん、ミュータント感が満載。見るからに毒っぽい。
でもニンジンなんだよー!
紫と青のハーモニー。
ドクダミに親近感。
普通のニンジンからも、すごい目で見られてる。
おい、お前ら仲間じゃねぇか!
お前らは見た目で判断するような奴らだったのかよ!
あれ? 大将?
なんで自分をザルごと段ボール箱に?
……あれ? なんかこの箱の中……くちゃい。
……。
どらー!
捨てやがったな!?
俺を腐った野菜箱にぶちこみやがったな!?
まだ俺、腐ってないのに!
まだ食べられるのに捨てやがったな!?
ぬぉぉぉぉぉぉ!
目覚めよ我がポテンシャル!
手足を生やして、この外道に一発ぶちかまさねぇと気が済まねぇ!
ぬぉぉぉぉぉぉ!
目覚めよ俺のパワー!
そして翌日。俺は箱ごと生ごみの回収車に乗せられて焼却場で灰となった。
……力なんて目覚めなかったよ。そんなファンタジーはあり得ないってことさ。ははっ。
でも焼却場の煙突から青い煙は出しといた。ここはガッツを出してやったぜ。へへっ。
いつか人間も同じ目に遭え。
そんな想いを残して俺は青く高い空に消えていった。
空は青くて……あれ? 俺の最期は空と同化してて地上からだと見えてねぇのか!?
マジかー。
……マージかー。
来世は普通のニンジンが良いなぁ。
今回の感想。
スイカ怪人と似たような終わりになりました。うーん。工夫が足らん。