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転校生君と夢見


おまえのせいでしっぱいしたじゃない!

うぐっ…

あやが言うことをきかなくなったのはおまえがなまいきだからだろ

ぐぅっ…

おれが先に見つけたのに横取りしやがって!



1人の小さな男の子が複数の男の子や女の子に寄って集って何かをされている。

肝心な部分はぼやけてしまっているが、赤い液体が唇に鮮烈な紅を加えて白黒の地面に真紅の花を咲かせていく。



──!



光も届かない無の空間に虚しく響く音。

赤に染まった液体も徐々に色を失っていく。

顔をぐちゃぐちゃに鉛筆で塗りつぶしたような無個性な子ども達。その中心には、ぴくりとも動かなくなり色を失っていく小さな男の子。

放っておけばもう二度と再起できないと予感させる姿に音が荒れ狂う。

何か大切なものを失いそうな焦燥感を音が響かせる。だが状況は変わらない。



───!!



音には何もできない。その空間を無意味に揺らし、響かせることしかできない。

今も枯れゆく花には潤いが必要ではあるが、音には水を与えることが出来ない。

光さえ呑み込む無が侵食を始め、1人の男の子のまわり全てを呑み込んでいく。

そして……



──にぃ!






─────────────────────────








「かなにぃ!」



聞き覚えがある声がクラクラする頭に響く。

何もやる気が出ない体が言う事をきかず、四肢に力が入らない。それでも瞼だけはなんとか開きそうで、ゆっくりと開いていく。視界に飛び込んでくる蛍光灯の眩しさに顔を顰めて視線を逸らす。

逸らした先には、泣きそうになりながらこちらを見ている女の子の顔が目の前にあり、困惑した。



「良かった!目が覚めたんだね、かなにぃ……」



安堵した表情ながら、辛そうにしている女の子を脳がようやく認識し始める。

目の前の子は、妹の響だ。



「ごめんね。寝てた、みたいだ。我慢できずにリビングで寝るとかダメだな」



ソファーに横になってそのまま寝てしまったのだと思う。ただ学校から帰ろうとした時に比べて、気分が悪いのは変わらずだがほんの少しだけ楽になっているかもしれない。

身体を起こすにはまだ力が入らなくて、仰向けになり天井を仰ぐ。眩しさに対しては右腕で両目をある程度隠すようにしつつ、気力の回復を図る。

左手を動かそうとして、包まれるような温かな感触に動きを止める。



「ひびちゃん、左手に何かしてる?」

「あっ、ごめん!かなにぃがうなされてたから」



両手で僕の左手を包むようにして握っていたらしい。

慌てるように手を離してあたふたとしている響に少しだけ癒やされた。



「そんなに?」

「かなにぃ気付いてないの?泣いてるんだよ」

「え。あ、ほんとだ…?なんでだろ」



右腕に濡れた感覚がある。なにか良くない夢でも見たんだろうか。自分の事のはずなのに他人事のように、そんなことを思う。



「まあいいか。ありがとね、ひびちゃん。そろそろ起きないと」



ようやく力が戻ってきたようで、体を起こし、グッと上体を伸ばす。

そういえば母さんは?と思っていると玄関の方から物音がしているので、どこかに行っていて今帰ってきたのだろう。

僕が帰ってきた時にはいなかったのでそこそこ長い時間外に出ていたんだろうね。

時間は18時か。帰ってきてから1時間も寝てたんだね。



「むり、しないでね。いまは私も、お母さんもいるから頼ってほしい。それにお父さんも、心配してるんだからね」

「うん、ありがとう。頼りにしてるよ。顔がベトベトだし洗ってくるね」



妹の悲しむ顔はあまり見たくないのでなるべく明るく振る舞い、その場を離れる。



──つき



なにか聞こえたような気がしたけど、多分気のせいだろう。そう結論付けて無視して洗面所に向かった。






────────────────────────







母さんは何も言わないし、響も泣いていたことに関しては特には触れなかったけれど、目が充血しているのは母さんにバレていたかもしれない。

それでも触れないあたりは気を遣ってくれていたのだと思う。なにせデザートまで僕にくれたから。平日には絶対に出さないんだけどな、プリン。


自分の部屋に戻り、なんとなくでベッドにダイブして手足をジタバタさせていた。動かしたらちょっとだけ気分が晴れた気はする。

スマホを取り出し、日課のゲームをやろうとすると、3件メッセージが入っているのに気づいた。誰からだろうと見ると、新谷さんからだった。



『こんばんは。』

『初めてのメッセージってちょっと緊張するね?』

『(初めましてと書いてあるペンギンのスタンプ)』



何か用でもない限り送ってこないかと思ったけど。メッセージの時間的に学校から帰ってすぐに送ってくれていたのかな。まあ交換したばかりだし、挨拶くらいはしてくるか。



『こんばんは。初めてだからメッセージのやり取り確認?』



挨拶くらいはしとこう。多分今日だけだからちゃんと付き合い程度には返しておかないとね。

メッセージを送ってから数秒待たずにピコッとメッセージが送られてくる。レスポンス速すぎませんか?



『それもあるけど』

『中山君は今何をしてるのかなーって』

『(よくわからない落書きみたいな動物のスタンプ)』



動物好きなんだろうか?とかスタンプ多いなとか思ったけど、僕の事を聞いてくるのはちょっと意外というか。



『ご飯を食べたところ』

『今は部屋でゴロゴロしてるよ』



すぐに既読になり返事も飛んできた。やっぱり反応速度すごいや。



『一緒だね』

『私もゴロゴロしてるよ~』



そんな感じのなんでもないやり取りを続けて、気がつけば三十分経っていた。レスポンスが速すぎてメッセージ考える暇がない。女子って凄いな?

響が送ってくるときはわりと素っ気ない感じだけど、それは家族だからというのはありそうか。



『そうそう、明日といえばね』

『今度の課外活動で一緒になる子達で、食堂に集まってご飯食べるんだけど』

『中山君もどう?』


『そういえば集まろっかって言ってたね。』

『うん、大丈夫だよ。時間になったら行くね』



新谷さんからお誘いがあったが、特に断る理由もないので返事をしておいた。班の人の名前覚えられるかな……

後は一言二言やりとりをしてメッセージアプリを閉じる。



「意外に新谷さんって積極的なんだなあ。そんなに楽しみなのか、課外活動」



そういえばと教室の浮ついた雰囲気を思い返す。僕の事があってギスっとした空気になっていたけど、みんな誰と組むかとか仲良くなりたいだとか言っていたような気はする。

そうすると学校側の授業にならない課外活動も無駄にはならないということになるんだろうか。

真正のボッチとかにはかなり辛そうだけど、そういう子にはおいしいお肉を優先的に分けてあげよう。さり気なくしないと周りがうるさそうだけど。

そのくらいの楽しみがないとやってらんねーってなるだろうし。でも、大きなお世話って言われそうだなあ……。


どうせなら僕よりは楽しんでほしいよ、どの子も。僕のことなんか忘れてさ。



「さて、デイリーやらなきゃね」



日課にしているソーシャルゲーム3種のデイリーミッションをすべてこなして、今日はもう寝ることにした。


内容はあんまり覚えてないけど、無自覚に泣いてしまうくらいの良くない夢はもう見ないはずだ。多分。



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