転校生君とお昼休みと生徒会長のお願いと
お久しぶりです。環境が変わってしまったので遅れました。
文化祭の出し物も決めて、さあ授業だと気合を入れたら体育が2時間連続の後に移動教室型の授業。
なんだかんだと慌ただしい午前中を終えた昼休み。
普段なら1人で食べている僕は、何故か複数人と一緒に食べることになった。
「はあ……」
どうしてこうなったのやら。
気がついたら囲まれてるんだもんね。いや、うん。他の子からの視線が凄いや。
机を3つほど借りて、僕の向かいは津田君。隣には美山さんで、美山さんの向かいには川瀬さんがそれぞれ座る。
僕のため息には一切気づかずに、川瀬さんがコッペパンを小さくちぎりながら話しかけてくるので、そちらに意識を向けることにした。
「中山君。体育祭は何に出るの?」
「さあ。何も決めてないね」
「奏、彩愛と一緒に二人三脚。出るから!」
「えっ?そうなの?」
「何勝手なことを言ってるのさ。あとさ、奏呼びはやめて中山って呼んでよって言ってるよね」
「聞こえない」
「……津田君、なんとかしてよ。キミのツレでしょ」
「言って聞くような奴じゃないが……美山。かな……中山が困ってるからその辺にしておけ」
「アーアー」
最初は渡貫さんに話しかけようとしたんだ。頑張って司会進行をして、クラスの意見を……僕は非常に不本意だけど纏めてくれたから、お疲れ様くらいは言おうとしてね。
午前中は慌ただしくて話す機会もなかったから、昼休みに入ったし話そうと思ったんだけど。そしたらさ、美山さんが僕の席に来たと思ったら『お昼、食べよう』って言ってきて。
当然、美山さんには関わりたくないので断わろうとはしたんだけど、その時の多々良君が僕に厳しい視線を向けてくるの。キミが引き取ってくれたら良いのにって睨み返してるうちに、川瀬さんがお弁当を持って寄ってきちゃった。
川瀬さんが僕の所にやってきたのを見て、林道君も僕を頼りに混ざろうとして知世さんと櫻井さんに止められたり。……知世さんからジト目で見られたのはなんでだろうね。
津田君は他の人に断りを入れてからこちらに来た。最初は2人を引き剥がそう(語弊があるかもしれないが)としてくれたんだけど、てこでも動かない彼女らに諦めて自分も混ざることにしたらしい。
彼や彼女らの取り巻きからは、なぜお前が、とか、身の程を……とか考えているんだろうなという蔑むような視線。……悪意に晒されるのには慣れないし、吐き気がする。考えたくない。
黒く澱んだ得体のしれないものが胸の奥でふつふつと湧いてくる感覚が、この場からの離脱を訴えかける。
「今からでも1人で食堂に行っていい?」
「「ダメ」」
「だ、そうだ。諦めろ、中山」
「……」
結局、逃避を試みた僕の案は却下される。関わりたくないって言ってるのに……なんて、溜息を吐きたくなる気持ちをグッと堪えて、お弁当箱の中身をつつく。
今日は冷凍グラタンと千切りキャベツにミニトマト、玉子焼き。それとアスパラの肉巻きだ。
母さんが作ってくれるお弁当は時々冷凍食品が入っているけれど、毎日しっかりと作るのは大変だからね。そういえば、この前テレビで冷凍餃子がどうのとか言ってたっけ。まあ僕はあまり気にならないけど。
冷凍食品の日もおいしくは頂くけど、全て手作りだった時はさらに格別だ。喜ぶあまりに思わず鼻歌なんて歌っちゃうせいで、隣の席のクラスメイトには『大丈夫かこいつ』みたいな視線をよくいただく。
自分で作って持ってきているらしいクラスメイトには畏敬の念を……あ、いらない?そうですか。
「中山?」
「ああ、うん。何?」
「何って、話を聞いてなかったか」
苦笑いをする津田君に頷き返す。聞く気がそもそも無いからね。なんて言おう物なら……いや、別に困らないか。
美山さんと川瀬さんは僕の態度がご不満らしい。話に寄せて来ようとはするんだけど割と強引というか、事あるごとに僕に意見や話のネタ振りをしないでほしい。
それにだ。僕が何かしら反応するたびに『ギリッ』という音が教室のどこかから聞こえるのは、恐らく気の所為ではないだろう。僕の事を面白く思わないのは何も多々良君だけじゃなくて、津田君や川瀬さんの取り巻きや美山さんに好意を持っている人もそうみたいで、矢のような視線がグサグサと突き刺さる。
「ところで、文化祭の話だが」
「楽しみだね!津田君もそうだけど、中山君のチア姿を早く見たいよ」
「モドキだし、それ以前に僕は見たくないんだけど……川瀬さん変わってるね」
「普段しないことを、みんなで頑張るのは楽しいからね!」
満面の笑みで明るく言う辺りは、流石きらきら女子。眩しい笑顔に僕以外の男子も目を焼かれるらしく、『目が……目がああ!』なんて声も聞こえる。僕とみんなとでは焼かれるの意味が違うんだろうけど。
あまりに大げさなリアクションを取るクラスメイト……あれは、林道君か。彼を見ていると苦笑いが溢れる。この高校に来てから大体は苦笑いしてるよな、僕。
内心で自分のことを振り返りながら、プクッと頬を膨らせている知世さんに絡まれている林道君へと視線を向けて、アスパラの肉巻きを口に放り込む。
別のことに意識は向けていたけど、横からジッと見られているのに気づくまではそう時間はかからなかった。
「あんまりジロジロ見ないでほしいんだけど」
ジト目になっているであろう自分を認識しながら、僕から視線を外そうとしない美山さんに話しかける。こてっと小首を傾げられても別に可愛さを感じない。
「奏、どうして応援?」
「本当に話を聞かないよね、キミ。それと、聞かれていることの意味が良くわからないんだけど?」
多分だけど、文化祭と体育祭に向けて応援のような事をしようと意見した事についてだろう。
なんてアタリをつけながら、もぐもぐと白米を咀嚼する。少し甘みがあるような気がする……母さん、お米をいつものから変えたのかな。
「文化祭の、出し物。応援団にしたのは、どうして?彩愛のチア、見たかった?」
「まったく。これっぽっちも思ったことはないよ」
「無慈悲だな……」
「彩愛ちゃん、よしよし。中山君は照れてるだけだよ。衣装が完成したら一緒に見せようね!」
僕の言葉にぴしりと固まったように見えた美山さんは、向かいの席に座る川瀬さんへと席を立って近づき慰めて貰おうとする。その川瀬さんも受け入れて美山さんを抱きしめ、頭を撫でる。
言いたい事は多いんだけど、とりあえずこれだけは言っておきたい。
「食事中にはしたないよ、キミ達」
何故か、彼女らは僕に白い目を向けていた。
……僕、間違ってないよね。
「大丈夫だ、間違ってない。美山?」
「……」
僕の顔を見て理解を示した津田君が諌めるように言うと、仕方ないなと言わんばかりの態度で席に戻って来る美山さん。ふてぶてしいなあ。
お昼ご飯をはやく済ませて離席したい気持ちと、母さんのお弁当を味わう事もせずに雑に食べて良いのかという気持ちで揺れて、結局ゆっくり食べることにした。無言で食べ進めようとして、ふと気になった事を口にする。
「ところで聞いておきたかったんだけど、部活や塾に通っている人達については練習時間をどうやって確保するつもりなの?」
いくら人気者というか発言力があっても、人の時間をどうにかできるような方法は無いはずなんだけど。
そんな僕の質問に川瀬さんは『大丈夫!』と力強く答える。
「どうしても時間が取れない人達には、学校で取れる時間の限り小道具作りや音響機器の操作を覚えてもらおうかなって。……と言っても、あんまりそっちに人数取られちゃうと困るから、多かったら説得頑張ろうかなー」
説得苦手なんだけどなーとあははと笑いながら、ぱくりと小さな唐揚げを一つ口に入れる川瀬さん。
津田君も『まあ確かに川瀬には無理だろうな』と頷き、『なーにー?』と脇腹を肘でコツンと小突かれていた。
そんな2人のやりとりを見たのか、周りはヒソヒソと話している。好意的というか、なんというか。
少なくとも悪感情は持っていない周りの会話を聞き流しながら、僕も美山さんも黙って食べ進める。
「ごちそうさまでした。じゃあ後は3人でごゆっくり」
ぱぱっとお弁当箱を片付けて席を立つと、左の袖を引っ張られるような感覚。
そちらに視線を向けると、美山さんが何かを言いたげに僕を見上げている。ただ、口を開こうとして躊躇するように口を閉じてしまう。
「なにかな?」
その手を離してほしいんだけど?と言外に含みを持たせて問いかけるが、その状態から動くことはなく。流石に困って助けを求めるように周りに目を向ける。
……あ、ダメだ。誰も助けてくれそうにないやつだ。
せっかくの昼休み、あと25分は残っている貴重なお昼の時間をこのままこの3人と過ごすのは嫌だなあ。
なんて、座らないという選択をもってささやかな抵抗を試みていると、教室の扉付近がざわつきだしたのに気付いた。
「なかやまくーん」
「生徒会長が訪ねてきてるぞ、何やったんだお前」
助かった。驚いた美山さんが掴む力を緩めてくれたので、隙をついて離れ、教室の入口に向かう。
名前の知らないクラスメイト……というのは冗談で、ななしさんこと瀬賀さんとその彼氏さん(周りには隠しているらしい)が僕を呼んでくれた事に感謝しつつ、生徒会長さんに向き合う。
「すまないな、中山君。お昼の貴重な時間に」
「こんにちは、中山さん」
一條生徒会長だけかと思ったけど、どうやら西園寺先輩も訪ねてきたらしい。何の用だろう?
ただ、教室の入口で話すのは他の人の迷惑になるので、廊下に出て話すことにした。
「コホンっ」
廊下に出ると、たまたま通りがかった生徒がこちらを2度見する珍妙な光景を目にした。周りからも何事かと伺うように見られているためか、生徒会長さんは咳払いをする。その行為に周りの生徒は視線を逸らして気まずそうにしていたが、聞き耳を立てているのはバレバレだ。
気づいているだろうに、その事には触れずに一呼吸をおいて、改めて口を開く生徒会長さん。
「夏休みの学外活動について、放課後にお時間をいただきたくて」
「学外活動?」
「ほら、生徒会のお手伝いをしてくださると。覚えていませんか?この前言っていたではありませんか」
この前?
「その顔は思い至らないと。そうですか……」
右手を立てて、まるでチョップでもしようかという構えを僕に向けて行っている。『いやいや下級生とはいえ、みんなが見てる前でそんなまさか』と思うものの、念の為に一歩後退り問いかける。
「その手はなんですか、生徒会長さん」
「頭へ物理的に刺激を与えれば、思い出してくださるかなと思いまして……痛ッ」
「やめんか、愁歌」
やはり僕にチョップを喰らわせようとしていたらしい。
そんな僕に対して行おうとしていた額への一撃を、呆れたような表情で西園寺先輩が生徒会長さんにかわりに打ってくれた。
「後輩に暴力を奮おうとするんじゃない」
「あのですね、暴力じゃなくてこれは善意……」
「愁歌?」
「いえ、何でもありません」
西園寺先輩はどうやら一條生徒会長より強いらしい。
肩をビクッと跳ねさせた後に、僕に対して『すみませんでした』と謝ってきた。
今回は別に何もされていないので『大丈夫ですよ』と返答しておく。
「ところで……西園寺先輩はどうしてここに?生徒会長さんはわかるんですけど」
「愁歌がどうしても1人では1年生の教室へ行きづらいと言い出してな。仮にも生徒会長が何を言っているのか、と思うのだが」
西園寺先輩は生徒会長に呆れたような目を向けながら、僕に話してくれた。
「正確には中山さんに会いづらいと言いますか……」
「僕に?……あの生徒会長さんが、今更?」
「どういう意味ですか、それ。確かに私は考えなしな事が多いですけれど、そんな風に言わなくても良いじゃないですか」
口先を尖らせて、拗ねたような言い方をする生徒会長に、教室内がざわついたような気がした。扉は閉めてるし、聞こえてないはずなんだけど。
周りを見ると、どうやら他の生徒も驚いたようにこちらを見ているようだった。そんなに驚くことかなあ。
周りに見られているのを意識してか、コホンと咳払いをして僕の眼前に人差し指を突きつけてくる。
「とにかく。放課後にお時間をくださいね。生徒会室に来ていただければ良いですので。あなたが来るまでいつまでも待っていますから!」
「そんなに念押ししなくても、ちゃんと行きますけど」
「言質取りましたからね、やっぱり止めたとか言わないでくださいよ?」
「言いませんて。少なくとも西園寺先輩の前で嘘はつかないです」
西園寺先輩は仕方ないなと零しながらも照れたように頰を指で掻いている横で、面白くなさそうに西園寺先輩を見てから僕を睨む生徒会長さん。
そんなに睨まれても、西園寺先輩にはよくしてもらってるし、生徒会長さんは色々と信用できないし……
「何かあれば私を頼ってくれたら良い。メッセージを送ってくれたら、生徒会室に向かう事にするから」
「どうして、なっちゃんまでそんな事を言うんですか?いくら頼りなくても生徒会の仕事はしっかりこなしますよ!」
「そこは心配していないが……」
周囲を気にしてか、言い淀む西園寺先輩。まあ、あの件で僕に対して当たりが強かったのを知っているからこそ、生徒会室という密室で当事者が2人いる中で話すという状況は心配なのだろう。……いい人すぎないか、西園寺先輩。僕なんかを心配しなくてもいいのに。いや、友人である『一條愁歌』を心配な気持ちの方が強いだろうけど。
「もう。怒られたのに、何回も繰り返すような馬鹿じゃないですよ、私。……中山さん、本当に力を貸して欲しいんです。身勝手なお願いだとは思いますけれど、でも」
「はい、目を見ればわかります。……真剣に頼まれたら断らないですから、心配しないでください。それより良いんですか?お昼の貴重な休み時間を僕に取られすぎてますけど」
本当は断りたいところだけど、真剣な眼差しで見られると断れない。……本当に手を借りたいみたいだから、それを断るのも悪い気がする。
それはともかく、今教室に戻れば、あの3人に絡まれそうな僕は勿論、物理的な意地悪をしてくる生徒会長さんはどうでもいい。だけど西園寺先輩も巻き込んでいる以上は、あんまり僕のことで迷惑をかけたくなかった。
「……はあ。まあ、良いです。本当に、ほんと〜に!お願いしますね?行きましょうか、夏葉さん」
「ああ、昼休みにすまなかったな、中山君。ところで、愁歌。さっきみたいになっちゃんとは呼ばないのか?」
「よ、呼んでないでしょう!人前では──」
一礼して西園寺先輩と一條生徒会長は、外野からは仲が良さそうにじゃれ合い……話しながら、自分達の教室へ帰っていった。
あんなに仲が良いのに、内心ではドロドロとした物を抱えていた一條生徒会長を知っているからこそ、なんとも言えない気持ちになるのは許してほしい。
でも、なんだか最初に2人が話していたところからすると、憑き物が晴れた……わけではないにしても、軽くはなったのだろうか。じゃれ合いの中で、ちらりと見えた横顔から察する笑顔は、混じり気のない純粋な物だったように感じた。
「良かったですね」
おそらくは聞こえないだろう2人の背に向かって、安堵したように零れる。廊下にいる生徒達も好意的に見ているから、概ね僕と同じような事を感じたのだろう。少なくとも関係が悪化してなかった事を、改めて感じられたので僕のあの時の行動は間違ってなかったらしい。それがわかっただけでも、良かったなって。
それにしても、文化祭や体育祭だけでなく、生徒会の手伝いかあ……。
夏休みを前にして、どれにしても先行きが見えないことに不安を覚えつつも、なる様にしかならないかと心の中で結論付けた。
お読みいただきありがとうございました。
更新前に、キミだけのハッピーエンドを!という短編を投稿しています。ただの導入だけで起承転結の起の部分しかないですが、良ければ見てくださると嬉しいです。
以上宣伝でした。




