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転校生君とお誘いの放課後 4

新谷さんと一緒に帰ろうキャンペーン実施中(中山君専用キャンペーン)


静かとは言い難い帰り道。この時間帯でも車の往来はそこそこにはあるらしい。歩道を歩いているとはいえ、対向からの車のヘッドライトを見るとついつい身構えそうになる。



「……」

「……」



通りがかりのスーツのおじさんや、どこかに出かけるらしいカップル、家族連れ等。この辺では比較的大きな通りをそれなりの数の人が歩いている。ただ、すれ違う度に視線を感じるような気がするのは多分気のせいではない。

2人が横並びに歩くにしても、そう近くも遠くもない微妙な位置関係の僕らが終始無言で歩いているのは……なんとも奇妙に見えるのだろう。すれ違い様に『おかあさん、あれ』『人を指ささない!』というやりとりを聞いてしまった時には、現実にそんなの言われる事あるんだなあと妙な感動を覚えた。


……とはいえ、だ。別に僕はこの時間を苦痛には感じていない。元々僕は関わりを必要……とはしていない。新谷さんも他のみんなも一定ラインからこちら側には絶対に僕へと踏み込ませないように、クラスメイトという微妙な関係を維持するよう立ち回っている。多分。きっと。

ならば、最初から遊びに付いていくとか、会話をしないとかすれば良いじゃないとか。色々ツッコミどころがあるのは自分でもわかってるよ。ただ、僕は……



「中山君」

「……うん?」



思考の海に沈みそうになった意識を引き上げるように、新谷さんは僕にだけ聞こえる絶妙な声量で話しかけてきたので、数瞬おいて返事をする。もしかしたら何回も声を掛けてくれていたかもしれないけど、特に新谷さんは気にしていない様子だった。



「今日は楽しかった?」



歩きながらそんな事を切り出してくる。想像外からの言葉に思わず、といった感じで横をパッと見る。想像外から、というのは若干違うか。話を切り出したい時には常套手段かもと考えたけれど。

沈黙に耐えきれなくなったとか、なんとなくこのままは気まずかったとか、そういう意図での発言ではなさそうなのは穏やかな声色からわかったのでホッと息をつく。



「新谷さんは?」

「……私が聴いてるんだけどなあ」



ボヤくように返す新谷さん。そうだね。質問に質問で返答するのはあまり良くない。だから、



「楽しかったよ」

「そっか」



ごちゃごちゃと考えていた事は全て振り払って、簡潔でいてこの場で切り出すには無難な一言をもって返す。



「……」

「……」



ただ、そこから会話を広げようという意思は僕にはない。夜になり、歩行者よりは車の方が多くなったかなというところに意識を向ける。

普段は家族以外と学校外で長い時間関わることがないためか、倦怠感というべきか、何か身体も頭も重く感じる。僕の会話したくないが故の沈黙という意図に気づいているのか或いは。

彼女はそれでも僕との交流を諦めてはいないらしい。先程までは目もくれないほどだったのにも関わらず。

恐らくはスマホの充電が切れたか、アプリが起動出来ないほどに少なくなってしまったのだろう。手持ち無沙汰からかチラチラとこちらを見る彼女の視線を感じるが、それとは交わらないようにまっすぐ正面を見ながら歩く。



「……暑いね。中山君は大丈夫?」



パタパタという音がして反射的にそちらを見ると、新谷さんがカッターシャツの第2ボタンまで外し襟元を掴んで、中に空気を送っている。覗きこまない限りは多分見えないんだろうけど、それでも顔が熱くなって慌てて視線を戻す。何が見えるとは言わないけど、少しは警戒してくれたらいいのに。豊満とは言わないけどそこそこの……って考えるのはやめておこう。



「……うん。流石にもう7月だから暑いね」



ドツボにはまりそうな思考を無理やり切って、問いかけに返答する。不自然なくらい間が空いたけど、それを責めるような事は少なくとも言葉では返ってこなかった。



「アイスでも買ってから帰ろっかなー」

「ご飯もそれなりに遅くなりそうなのにアイスも食べるんだ?太るよ」

「むう、まだ7時だから大丈夫だよ」

「帰る頃には半時間分以上は進んでそうだけどね。帰ろうとした時には15分だったから」

「もうそんな時間なんだね。暗いはずだよ」



コロコロと笑う……という表現が正しいのかはともかく、彼女は弾んだような声色で僕との会話に臨んでいるようだ。ただ僕は先程の新谷さんの様子から視線を向けるのが憚られる。

周囲から見たらうぶな学生カップルか何かに……は見えないな。うん。



「さっきから百面相してるけど何かあったの、中山君?」

「百面相してるなんて言い方はあんまり聞かないなあ」

「やっぱり私には理由を答えられない?信用ないなあ、私」



『ヨヨヨ……』と言いながら制服の袖で顔を隠すように、いや、あんまり隠れてないけど。とにかくそんな様子で僕を……うーん、責めてるのかな。

あんまり言いたくないと思いながらも、周りに泣かせてると誤解されるのも嫌なので、視線を合わせるように彼女に向き直り立ち止まって目を見てお伺いを立てる。



「……理由を聞いて、引かない?怒らない?」

「え?うん、そんな事しないよ。で、なにかな?」



泣き真似……をやめて、笑顔で僕を見る新谷さんに内心舌打ちしたくなった。だけど言質もとったしと、覚悟を決めて口を開く。



「ちょっと僕には目の毒かなあって」

「何が?」

「それがだよ」

「だから!何が……」



言いながら視線を目から少し下に。そしてカッターシャツの第1ボタン辺りを指差す。

それだけで察したのかはわからないけど、新谷さんは一瞬固まってそれから第2ボタンを再びつける。

怖くて顔が見られないので、横並び状態だった彼女から帰り道の方へと向き、ほんの少しだけ早歩きになる。



「ほら、帰るよ新谷さん。もう時間も遅いんだ。理由も知ったでしょ?ほらほら、早く行くよ」



彼女を放置することになりかねないけど、動かない方が悪い。街灯がそれなりにあって明るい道をスタスタと歩く。目的だった神社も見えてきたから歩調を緩めるなんてしない。今立ち止まったら彼女の罵声を聞くことに……いや、問題の先延ばしになるだけかも……。



「……はっ!?」

「新谷さん、ここまででいいよね。ほら、神社も見えてきたから、僕は帰るよ。じゃあまた学校で!」

「ま、待って、中山君!話を聞いて……こら待て、中山奏!」

「だから言いたくなかったんだよ、怒ってるし。すまないとは思ってるけど待たないよ!」

「怒ってないし、女の子を1人で帰らせる気!?」

「多分今のキミは僕の数倍強いから大丈夫だよ!」

「そういう話じゃないでしょ!」

「そういう話だよ!」



近所迷惑も顧みず、僕らは大声でやり取りしながら走りだし追いかけっこの開始だ。小学生でもこんなやり取りしないよなあと思いながらも新谷さんとこうして走るのは、理由はともかくちょっとだけ楽しく感じてしまった。

すれ違う人達みんなこっちを見てたなあ……うるさくしてごめんなさい。






───────────────────────────






で。



「はぁ……はぁ……」

「ひ、ひど……はぁ……はぁ……」



思った以上にしつこく追われたので、神社近くの公園まで走ってきてしまった。というか、ぴったりと距離を離さずに着いてこれてるのすごいね、新谷さん。この場合は僕の体力が無さすぎるのが問題か。物を運ぶのは大丈夫だけど、走るのはちょっと……

内心で新谷さんを褒めながら、2人して息を整えながら中に寂しく置いてあるベンチに座る。その間も僕は新谷さんの顔は怖くて見られない。



「あー、捕まるとは……。わかった、煮ても焼いても好きにして。僕は敗北者だ」

「何を言ってるの中山君……私は別に怒ってないんだよ」

「怒ってる人はみんなそう言うんだ。信用できない」

「だからあ!」



プンプンなんてあざとくかわいい擬音はつかないけど、呆れたようでそれでいて怒りを抑え込んでるような、そんな声色だ。そんなのを聞かされて形だけの怒ってないよ宣言を信用できるわけがない。



「私が怒っているのはね、私の話を聞いてくれないからだよ?」

「やっぱり怒ってるんじゃない」

「もう、それはいいんだってば!」



『揚げ足取らないでよ』なんて言われたけど、そんなつもり無いんだけどな。



「せっかくスルーしようとしたのに……」

「だ、だって!中山君、私の……その……」

「ああ、うん。何がとか言わなくて良い。それに見えてないから大丈夫だよ」

「目の毒って言ってたのに。目の毒……毒なんだね……」

「……なんで落ち込んでるの?」



よくわからないけど肩を落としている新谷さん。赤くなったり暗くなったりなんだか忙しい人だ。



「中山君のバカ。目の保養とか眼福だとか言えば良かったのに……」

「ストレートな罵倒な上に見えてないんだから目の毒でいいんだよ」

「なんでそう冷静に返すの……」

「ほら、『聞けば気の毒、見れば目の毒』って言うじゃない?心が惑わされるから勘弁してほしいなって」

「聞いたことないけど、あんまりいい言葉じゃなさそうだね……」



なんだか更に暗くなってしまった彼女。太もも辺りへ肘を置いて器用に頬杖をついて……暗くなったというよりはふてくされた感じに見えるな。

制服のスカートがどんな生地でできているかは分からないけど、肘が滑ってガクッとなり舌を噛みそうだなあという感想を抱きつつ、いつの間にか新谷さんをジッと見ていたらしい。その事に僕がいち早く気づいて、慌てて視線を逸らす。



「どうかした?」

「いや、帰らなくて良いのかなって」

「……そんなに一緒に居たくないなら帰るけど」

「親が心配するでしょ?」

「まあ、そうだね」



溜息を零し、ベンチから立ち上がる新谷さん。視界の端の動きにつられて隣に目を向けると、彼女はぐっと月にまで届かせるように限界まで伸びをして3秒程で脱力する。



「中山君。せっかくだし家に来る?」

「ううん。母さんと妹が心配してるから帰るよ」

「……そ」

「うん。家の前までは送るよ」

「ありがとう。さっきまで私のここを覗き見ようとしていた男の子だとは思えない紳士っぷりだね」

「……」



強調するように指し示す新谷さんの手を無言で下げさせる。



「冗談だよ?」

「笑えないなあ……」



ほんの少しトゲがあるような口調に言葉を詰まらせる僕に対して、自分の唇に人差し指を当てて小首を傾げる新谷さん。笑えないのはある意味で自分の内心で思ったことを当てたからというか。

そんな僕にくすりと微笑みかけてどこか上機嫌に見える新谷さんは、一般的で堅実なという呼称をつけたくなるガレージつき2階建ての一軒家の前に立ち止まって『ここだよ』と教えてくれた。

改めて家に寄らないかとお誘いを受けたけど、丁重にお断りさせていただいたら先程のやりとりで答えはわかっていたからかすんなりと。



「今日はお疲れ様、新谷さん。また週明けにね」

「うん、ありがとう中山君。今日は楽しかったよ。またね」



中に入ろうとしている彼女を見て、僕も帰るかと背を向ける。背を向けてすぐにまた『中山君』と声をかけられたのでそちらを見ようと……



「実はアレ、わざとだからね。私と話そうとしてくれない中山君が悪いんだから」



なんて言われる物だから一瞬硬直してしまう。アレ、が指すものはたくさんあるけれど、今までの流れから汲み取るに、ボタンを開けて襟元をパタパタとしていた件だろうか。それでも、真意を問おうともう一度新谷さんの方を向こうとして。



「じゃあおやすみな……」



扉の奥にさっさと引っ込んだみたいで姿は見えなかった。挨拶も途切れていたから言いながら入ったのだろう。



「……はぁ、帰ろ」



女子って。いや、新谷さんってよく分からない。






───────────────────────────






 「……」

 「な、何言ってんの私〜!」

 「いくらなんでも変な娘だって思われたよ!絶対!」

 「暑かったからって本当に魔がさしたよ……うう〜どうしよ、どうすればいいだろ……」

 「中山君も中山君なんだからね!私は無視するのに櫻井さんと知世さんには色々話してー!」


 「萌、玄関先で何喚いているの!帰ってきたなら、早く手を洗ってうがいしなさい!ご飯が冷めるでしょう!」


 「ご、ごめん!今すぐやるからー!」


 「お父さんも待っているのよ、はやくなさいな!」


 「はーい!……そういえば、なんで中山君と私を遊びに誘ったんだろ?」

 「うーん……知世さんもどうして3人にはナイショでって、あのタイミングで話してきたのかな?」

 「……部屋に戻った時も何か話していたみたいだし、あの時も櫻井さんと中山君だけだったよね」

 「……まさか、ね」


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