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転校生君と班決め 1


昼休みって大体1時間くらいなんだけど、教師によっては短くされてしまうことがあったり、昼休みの間にご飯を食べないといけないから購買や食堂を利用する学生はさらに時間が減ってしまうし、もっと休み時間を増やしてほしいよね。

トイレに別に行きたくないのに行かされるのも……いや、これは自分が逃げ出したせいだけど。ともかく自分が欲しい時間って短く感じてしまう。


特に誰に見られてるわけでもないけど、言い訳が欲しくて時間潰し。トイレにある洗面所で手を洗って鏡で自分の情けない顔を見る。髪が伸びてきて目が隠れそうになっているのと、津田君達みたいな顔面偏差値上位組には一生勝てないだろうなという顔が見れていること。後は背が妹よりやはり低いなという事実に僕は泣きそうになった。なんでこんなところでダメージを受けにゃならんのか。


沈んだ気持ちに蓋をしてトイレから出ると、賑やかな声と明るい雰囲気が出迎えてくれる。なんか別世界に来たみたいだ。

廊下でも違うクラスの教室でも楽しそうに話しているグループがあれば、大人しく本を読んだりスマホを弄ったりして1人の時間を楽しんでいる人もいる。そういえばこの学校の図書室ってどうなってるのだろう?また今度覗いてみようかな。



「あの……うちに何か用ですか?」

「え?あ、ごめん。なんだか楽しそうなクラスだからつい覗いちゃっただけなんだ。不審者みたいなことしてたね……」



考えごとをしているうちに、自分の教室でない方のクラスを覗き込んでいた。そりゃあ知らない学生が覗きに来てたら不審な目で見られるよね。反省。



「そうでしたか。てっきり……椎名さんに告白しにきたのかと思いました」

「うん?だれ、それ?」

「え、冗談ですよね…?あれだけ噂になったのに椎名さんのこと、知らないはずは……」

「いや、知らないけど」



名もなき……って言うと語弊があるけど、応対してくれている女子生徒は驚きを隠せない様子であった。

有名な人なのだろうか。後で林道君に聞いてみようかな。



「あ、ごめんね。もう戻らないと授業始まっちゃう。それじゃ、お邪魔しました」

「あ……」



時計を見て残り5分。隣に自分のクラスがあるから間に合うけど、そういうことじゃない。準備とかもあるし。

何か言いたげな女子生徒に謝って、その場を離れる。



「まにあっ……た……?」



教室に入ると一斉にこちらに視線が集まり、部屋が静まり返る。もしかして間違えたかなと廊下に出て、扉の上を確認する。

1年2組。何も間違っていない。え、じゃあ何?



「えっと……?」



もう一度教室に入り、説明を求めるようにクラスメイトみんなを見る。返ってくるのは困惑や同情が大半で、中には怒りの感情が乗った視線も混じっているようだった。一体何があったんだと首をひねり考えを巡らせる。

すると1人の男子生徒が僕を睨みながら寄ってきた。確かお隣さんの委員立候補に合わせて手を上げていた多々良君だ。



「中山、課外活動の話だが。お前、班を別のところに移ってくれないか。あんなに落ち込ませるような酷い事をして美山や川瀬と一緒にいるのはおかしいだろ」



男子はウンウンと頷いていて、お隣さんと川瀬さんがぶんぶんと頭を横に振っているのだが、それには気づいていないようだ。

多分初日にあんな話をして次の日から様子のおかしい2人を心配してのことだろうとは思う。思うけど、誘われたの僕なんだけどなあ。でも、彼女達と離れたい僕には渡りに船というやつかもしれない。



「うん、分かった。じゃあ多々良君、交代しよっか!助かるよ、僕も気まずかったからさ!」

「え、なんでそんなあっさり。……ま、まあわかってくれるならそれでいいんだけどさ」



ポカンとした多々良君の顔と、クラスメイト達の『え?』って雰囲気が面白くていつもより3割増しくらい良い笑顔を浮かべていたと思う。

当然納得いかないような表情をしている川瀬さんとお隣さん、ついでに津田君か。林道君はいまだにポカンとしてるけど。


川瀬さんが何か言おうと口を開きかけた時に、別のところから声がかかった。



「じゃあさじゃあさ、うちらと組もうよ、なかやん!」

「はい?僕の事?」

「そーそー。ほら、あと一人うちらも来てほしかったからさ!ね、もえぴー」

「もえぴー…?」



声がかかってきた方を見ると、元気っ娘みたいなショートヘアでかわいらしくピンをつけてる女子生徒が、新谷さんの机の端に座っているのがわかる。

突然クラスの視線が集まって、新谷さんがちょっと恥ずかしそうなのはあんまり考慮されてなさそう。でもそうか、もえぴーって新谷さんのことか。



「ちょ、ちょっとかおり!いきなり何を」

「えー?だって、今の話聞いてたでしょ?なかやんフリーだからさ、チャンスだよ?」

「ちがう、そういうのじゃないって!」

「そういうのってどういうのー?」

「ああもう!かおりってばわかってて言ってるね!?」

「にししっ」



なんか小声で話してじゃれつき始めたんだけど。教室内がざわざわしてるけど、僕には全部聞こえてますよーおふたりさん。



「まあ、誘ってくれてるならいいよ。新谷さんが嫌じゃなければ、だけど」

「ほら、なかやんもそう言ってくれてるからさ!」

「嫌じゃないけど……」

「なら決まりだね!ということなんで、なかやんよろしくっ!」

「うん。よろしくね」



サムズアップしてニカッと笑うかおりさん?に苦笑いで返しておく。新谷さんを見るとはにかみながらペコリと頭を下げてきた。



「ちょっと待ってよ、私は」

「おー、おまえら席につけー。休み時間は終わりだぞ」



何かを言いかけた川瀬さんを遮るように授業の本鈴が鳴り、数学の先生が入ってきたのでみんな席に戻っていく。僕も戻ろうとすると川瀬さんには悲しげに見られて、お隣さんからは刺すように見られる。ただクラスメイトの大半は好意的に見てくれており、林道君は困惑した様子で僕を見ていた。



「えー、ここの数式は12ページの例文に」



授業は淡々と進む。先生に当てられる心配はないので林道君に即席の手紙で『勝手に外れてごめんね』と書いて机に投げ渡す。

一瞬ビクッとしたあと、意図を読み取ってくれて手紙を読んでくれている。そんなやり取りをお隣さんはジッと見ているような気がして居心地が非常に悪い。


林道君が後ろ手にさっきの手紙を渡してくれたので受け取り開けると、『こっちこそ、止められなくてごめんな。俺の事は気にすんなよ』と書いてあったので『ありがとう、川瀬さんとのこと、頑張ってね』と返答し、手紙を再び渡しておいた。



「ここ、テストに出すつもりだからしっかり復習するように。それと、中学時代の事も忘れるなよ。ありゃ基礎になるからしっかり把握しておけー」



なるほどね。数学の先生はしっかりその辺りを教えてくれるのか。

ノートをとりながら先生に感謝する。

中学時代、か。色々あってまだ拒否はしてないけど、2月あたりから一切連絡を取らないようにしたからあの人達怒ってるかな……。いい加減連絡先を消したい衝動が抑えられなくなってきたな。

それと放課後に詰め寄られないようになんとか逃げ出すかなあ。お隣さんと川瀬さん、それに津田君。この人達の僕への興味を薄れさせるにはどうすれば良いんだろ。


そんな事を考えながら授業を受ける僕は多分集中できてない。ノートに余計なことを書き始める前に頭を振って再び先生を見る。

数学苦手なんだよなあ。はやく終わらないかな。





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