転校生君とクラス委員長
渡貫さんと話すだけでなんにも進展しない回
席替えというサプライズ……はさて置き。
特に他は何事もなく、昼休みに突入。お気に入りの窓からの景色は見られなくなってしまったけど、別に今の席も悪くはない。ど真ん中で先生に注目されやすいというマイナス点を除けば、だけど。
周りの席は見事に知らない人、というより交流をしたことのない人が集まっている。真後ろの席に渡貫さんがいるだけマシかな。
僕は早々にお弁当を食べ終わり、久しぶりに本でも読むかとカバンから取り出したところで、後ろの席にいた渡貫さんに背中をちょんちょんと指で押される。
確か新谷さん達とご飯を食べていなかったっけと疑問に思ってそちらを見ると、どうやら何かを必死でノートに書いている事から、次の時間の宿題をやるために解散したんだなと理解する。
ちなみに新谷さんは運が良いのか悪いのか、席替えをしても廊下側の一番前の席になっており、全く場所が変わっていなかった。
少しだけ思考が逸れたけど、渡貫さんに呼ばれたのでどうしたんだと振り返る。別に知らない仲でもないし、適度な距離感を保ってくれそうな人でもあるから話すのは苦ではない。
「どうしたの?」
「特に理由はないけれど……何かお邪魔してしまったかしら」
「ううん、本でも読もうとしてただけだから大丈夫だよ」
「本?何を読むの?」
委員長を立候補して頑張るくらいの真面目そうな渡貫さんには悪いけど、今日はそういう人達が触れなさそうな物しか手元にない。偉人伝とか歴史物とか雑学本とか花言葉図鑑とか……今日は持ってきてないんだよね。でもまあ、渡貫さんはそういうのも流石に見ないか。
「その日によるけど……今日はライトノベルって世間では言われてるやつかな」
「……異世界物とかチートとかそういう類の物かしら」
「まあ僕が読んでるのはちょっと違うけど……そういうの、わかるの?」
「妹が大好きでね。私も読みはするけれど……」
「ふーん?渡貫さんがこういうの読むのは意外かも」
「貴方の中にある私はどんなイメージなの。それで、どんなものを読んでるか見せなさい」
「別にいいよ。はい」
拒否したあとのやり取りを考えて面倒くさくなったので素直に渡す。今の僕が読んでいるのは、幼馴染の女の子と主人公の甘酸っぱい恋愛模様を描いた全8巻の人気作品だ。その1巻を読んでいる。林道君達の関係を見ていたら、なんだかコレが読みたくなったんだよね。ただ物語と林道君達の違いは両片想いか一方通行かというところだけど。
律儀に最初から読んでいる渡貫さんの頬が少し赤くなっているような気がする。かと思えば眉を顰めたり、眉を上げて驚いたり。
「……」
「いや、何その顔」
「……」
「な、なにか言ってよ、渡貫さん」
「……返すわ」
「あ、うん……」
気に障るような内容だったのかな。確かに僕が読むような本の内容は男性向けというか、こう、男から見てグッとくる女の子が気がついたらグイグイ来る感じのものなんだけど……
「そういえばいつかの時は新谷さんを」
「渡貫さん、本当に勘弁してください。アレは事故と言いますか、普段はそういう風に見てないんですよ」
「まだ何も言ってないのに墓穴を掘っていくのは面白いわね」
「うぐっ……」
自己紹介の時の話が頭を過ぎり、咄嗟に口に出た言葉を後になって後悔する。照れ隠しにからかっているとか、そういうのかな……?表情からは分かりづらい。
本をカバンの中に戻して、これ以上は変な事を言わないように気をつける。渡貫さんもそれ以上蒸し返すつもりもないのか、別の話題を口にし始めた。
「それにしても、まさか中山君と近くの席になるなんてね」
「そうだねえ。でもほら、課外活動の帰りは隣の席だったからさ。その延長だと思えば」
「なにそれ。その理屈だと赤羽君や上村さんも近くに居ないといけないわよ?」
「あー……うん。あの2人は別にいいや。特に上村さん」
「……気持ちは分からなくはないわね。あのテンションとウザ絡みは、本当になんとかしてほしいとクラス委員長として思う」
友達とやらのはずなのに割と辛口コメント。
いや、同じ中学というだけで、本来はみんなの言っている友達という物未満の関係なのかもしれない。そう考えると僕が見ていた渡貫さん達の今までのやりとりもなんだかハリボテのように見えて、スッと胸の奥が冷えていく感じがした。
「何を勘違いしているのかは知らないけれど、私と上村さんは別に仲が悪いわけではないわよ。お互いにお互いの事を知った上で、色々言い合えるの。私も勿論、堅ぶつだなんだと言われるわよ。客観的評価ができる視点は、たとえ友達だとしても必要でしょう?」
僕の目を真っ直ぐに見て言い放つ渡貫さんにドキッとする。そんなはずは無いと思うが、もしかして僕の心が読まれている……?
「……」
「……」
「まあ、そういう事だから。貴方だけのものさしで私達を見ないでほしい。そんな顔しなくても、安心なさいな。何も警戒心が高い貴方に無条件に信じろとは言わないけれど、私はクラス委員長だもの。少しは信用してほしいわ」
「クラス委員長ってそんなに信用してる人いないんじゃない?厄介な役職を押し付けられた可哀想な人種と憐れまれてそうだけど」
「それは困ったわね。私は進んで立候補しているのだけれど」
「よくやるよ。僕は任された保健委員で手一杯」
「図書委員に立候補していたのを私が知らないとでも?貴方もよくやる側じゃないかしら」
「なんのことやら。良い風に取ろうとしなくていいよ」
「せっかく繋いだ縁だもの。良いところを見つけて、悪いところは一緒に直していって。私は貴方ともそういう関係になりたいわ」
「わお。それって愛の告白?」
「今ので告白ならカップルでこの世の中溢れているわね。それはそれで幸せそうな世界だけれど」
「全員が全員受け入れるわけないと思うけど」
「貴方みたいな人とかね」
「キミみたいな人もね」
渡貫さんが一体何を考えて僕なんかと交流しようとしているのかは分からないけど、心配はしてくれているのかもしれない。たった一度の課外活動での交流でそこまで人を想えるのは、なるほど。苦労しそうな人だね。
教室でこんな話をしている僕達はさぞおかしなものを見る目で見られていることだろうと周りを見ると、意外と誰もこちらを見ていないし気にしていない。急にキョロキョロしだした僕に渡貫さんは小首をかしげている。流石に自意識過剰だったな、反省。
反省したところで予鈴が鳴り、お昼休みを謳歌していたクラスの人達はそれぞれ席へと戻っていく。上村さんや林道君、川瀬さん、お隣さん……じゃないや、美山さんも教室外に居たらしくて教室に戻ってきている。
僕も次の時間の準備をするかと前を向こうとすると、渡貫さんが『待って』と声をかけてきたので、『なあに?』と渡貫さんを見る。
「私がしたかった話は最初から全て違うのだけど……いえ、本の話に行く前に話せばよかったわね。これから少しの間、隣人としてよろしく、中山君」
「じゃあお隣さんって呼んで……いてっ!わかってるよ……よろしくね、渡貫委員長」
「ええ、それならまだいいわ」
名前はしっかり呼んで欲しいらしくパシッと叩かれた。2代目お隣さんの称号は誰の手に?なんてバカなことを考えながら、午後の授業へと意識を向けた。
ちなみに新谷さんは宿題の提出は間に合ったらしい。メッセージアプリのグループチャットに、ドヤ顔の新谷さんと上村さんの写真が送られてきていた。
たまに変になるよね、新谷さん。
いつも読んでいただきありがとうございます!
マイリス、評価、いいね、いつも本当にありがとうございます!
良ければこれからも読んでいただけると嬉しいです。




