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転校生君と課外活動4

遅くなりました。


「っ、そうか。憎くて嫌いか」



僕の言葉を受けて唖然としていた津田君は次の瞬間には何故か笑い出す。

なにがおかしいんだろうと首をひねる僕。



「無関心よりは嫌われていた方が良いと俺は思ってるよ。嫌いという事は好きになってもらえる可能性があるからな」

「え、やっぱり津田君……」

「違う。奏、こんな時に茶化すな。友達として、だ。川瀬も美山も、同じ気持ち……かは分からないが仲良くなりたいと思っているはず」



僕はなりたくない。そう話すのは簡単だけど、まだ話は続きそうなので聴いたままでいる。



「奏が憶えていないのは本当に残念だが、お前が転校するまでは俺、川瀬、美山と一緒に遊んだり、家に泊まったりしてたんだよ。それこそ、学校一仲が良いと言っても過言ではないくらいには心を許していたとは思う」

「……そうなんだ」

「だから、急に転校したって聞かされた時には俺らは動揺したし、美山なんかは昔からはとても考えられないほどに暗くなってしまったんだよ」



話を盛り過ぎなのではとも思ったけど、目を見てその考えを改める。よほどの演技派か、僕の目が節穴でない限りは真実に思える。

よく考えてみると、彼ら彼女らは僕に対しての踏み込みが強い。初日の事を思えば仲良しだったということに関しては納得が行くし、普段の生活でもお隣さんは僕や川瀬さん、津田君以外にはあまり口数は多くない。というか僕に対してはグイグイ来すぎなんだよ、あの人。パーソナルスペースというものを知らなさすぎる。



「そのくせ、お前の妹は小中と俺達と同じ学校だったみたいだし、本当に何があったんだよって気になるんだが……。俺達が話しかけるとはぐらかされるし」

「…手、出してないよね」

「そんな事するわけないだろう?」

「まあ、そうだよね。妹に手を出してたらキミを本気で殴らないといけない。いや、キミは特に声をかけるな」

「なんで俺にはそんなに厳しいんだ?」

「男なんて妹に集るムシみたいなものだからね」

「奏、いつの間にシスコンみたいなことを言うようになったんだ……?」



それだけの年月が経ったって事さと呟くとちょっと引かれる。冗談だとわかってほしいね。

お皿の上のお肉や野菜が無くなったのでどうしようかと考え始める頃に、誰かの土を踏みしめる音が近づいてくる。



「津田君」

「奏」



傍まで寄ってきた音と声が聞こえた方を見ると、川瀬さんとお隣さんだった。二人は当然のように僕と津田君の間と僕の左隣に座る。

なんでわざわざ間に座るんだい川瀬さん……?

女子に挟まれると悪寒が走る。というのは冗談だけど、ちょっと本気で勘弁してほしい僕は津田君の右隣へ逃げる。

遠くから僕を見る男子の目が剣呑になってるのがわかるからね。

津田君はやれやれと言っているかのような表情で、女子2人は落胆したかのような表情になっているのをチラ見して1つ息を吐く。



「定位置も、忘れたの?」

「定位置?あれが?勘弁してよ、お隣さん。僕クラスの男子以外に敵を作るつもりはないんだよ」

「どういう……意味?」



お隣さんは本気で何を言っているのか分からないみたいな顔をしているが、川瀬さんは恐らく理解した上でやってるし、津田君も苦笑いで誤魔化してる。

男の子には色々あるんだよ、なんててきとうな言葉を返して周りに目を向けると嫉妬やらなんやらの暗い感情の乗ったありがたーい視線をいただいた。

林道君はちみ姫さん達にまた詰め寄られてるし、赤羽君は上白沢さんに色々と話しかけて鬱陶しがられている……そういうのはまた別だけど。

どうやら女子……新谷さんや上村さんあたりも面白くなさそうに僕らを見ている。新谷さんに至っては僕が視線を向けた事に気づき、スマホを取り出して指差ししている。

見ろってことかな?


新谷さんのメッセージが入っているんだろうなとスマホを確認しようとして、津田君を挟んで向かい側から声が飛んでくる。



「ねえ、中山君」

「なに、川瀬さん」

「久しぶりだね」



幾分明るい声で言う川瀬さん。ただそこには様々な感情や意味が混じっているような気がして、つい問いかける。



「えっと、何がかな?」

「なんだろう?彩愛ちゃん」

「そこで彩愛にふるの?……4人で、こうして話す。とか」

「奏が逃げるし拒否するからな」

「そうだね。中山君逃げちゃうもの」

「奏、照れ屋だから」

「キミたちねえ」



何故かは分からないが、この場で3人に対しての嫌悪感も忌避感もない。昔の友達という僕が切りたいはずの繋がりに縋っているはずの3人にだ。

憎くて嫌いだと言っておきながら、自分の中にその気持ちも持っていたはずなのに。なんだろう、自分が自分じゃないようで気持ち悪い。

今も僕は、授業の愚痴や、部活、放課後何してるのかとか、3人が話している内容に時々返事をしたり、相槌を打ったり。

非日常の環境がそうさせているのか、覚えてないなりに無意識下で繋がりが残っていてそれを当たり前のように受け入れているのか、会話をしていて違和感がないのが違和感だった。そもそも奏呼びを許している自分に気が付き、それでも不自然に感じないのが変だ。


これ以上、余計なことを考える前に頭を小さく横に振って、新谷さんのジェスチャー通りスマホを確認する。

メッセージが数件入っていて、妹の響と母さん、そして案の定というべきか、新谷さんからきているようだった。



『私達の班なのに他の班に行っている中山君』

『私達にナイショで端の方に行っている中山君』

『かおりも私も怒っています!』

『(かわいらしく描かれたライオンがガオーと言っているスタンプ)』



スマホの画面から顔を上げて上村さんと新谷さんの方を見る。既読になったのは伝わっているのかこっちをジッと見ている。まわりが見てないことをいい事に、右目の下辺りに指を当て舌を出して『べー』とかわいらしく怒ったアピールしている2人。

え、急に何?かわいい。写真撮っとこ。



「奏?何して」

「よお、お前たち。青春してるな」



お隣さんが僕の行動に何かを言おうとして、掛けられた4人以外の声に驚いて口をつむぐ。



「あれ、八宮先生?どうしたんですか?」

「いや、やけに目立つ4人組がいると聞いてな。ところで中山」

「なんです?」

「スマホ、この時間中は使用禁止だったはずだが、手に持って何をしてる?」



川瀬さんが疑問を投げかけると先生は答えてくれたが、その先生は僕のスマホを見る。

そういえばしおりかなんかに書いてあった気がするなと今更ながらに思い出し──



「よし、中山。今回は不問にしてやるから少し手伝え」



ニヤリと笑いながら言う先生に『わかりました』と肩を落としてついていく事になった。






────────────────────────────






「それで?こんなところに連れてきて何を手伝わされるんですか、僕」



駐車場の1画。自販機とベンチが場違いかのように置いてある、そんな場所。みんなからはだいぶ離れて声は届かず、姿も見えない。

先生は自販機で2つ購入し、僕に対してそのうちの1つである微糖の缶コーヒーを一つ投げ渡してくる。



「え、コーヒー……後でお金返しますよ」

「いらねえよ。大人からのプレゼントだ。そのかわり秘密にしておけよ?バレたら怒られるしな」



ならありがたく頂戴しよう。

そう思い、缶コーヒーのプルタブ……いや、ステイオンタブって言うんだっけか。それをつまみ飲み口を開ける。

安物!だけど安心するコーヒーって感じの香りが鼻をくすぐる。



「で、話を戻しますが」



なぜ呼ばれたのか。そう目で訴えると先生は表情を崩し、妙に心配したように口を開く。



「ただ話を聞きたかっただけだよ。……中山、お前大丈夫か?」

「なにがですか。」

「いや、なんだろうな。お前が津田や川瀬、美山ともめていた事を聞いたからってのはあるんだが……」



頭をガシガシ掻きながら、煮え切らない様子で僕に対して話す先生。

そんな先生に首を傾げつつ次の言葉を待っている。



「まあ、あれだ。友達は大切にしろよ。何かあった時はその人との繋がりを大切にして頼れば力に」

「なりませんよ」

「中山?」



断定した言い方に思わず僕を呼びかける先生。

僕もなんで否定をしたのか、自然と口が開いた。そう答えるしかない。



「先生。友達という関係だけじゃない。人との繋がりは容易く切れます。たった一つの誤解や昔の過ちなんかで本当にあっさりと切れます。だから薄っぺらいんですよね、同級生達が使う友達という言葉は。僕がどれだけ叫んでも、訴えても。助けて貰えなかった。気づいても貰えなかった。見て見ぬふりもされた。だから友達という言葉に魅力も感じないし、そんなくだらない関係の事を言われても響かないんですよ。あの3人だけじゃない。新谷さんも林道君も利害の一致で付き合っているだけに過ぎません。僕はもう決めているんですよ、深い関係は作らないって。繫がりは作らないって」



勝手に口をついて出る言葉に、胸の奥にある衝動に身を任せて目の前の先生にぶちまける。黒い粘着質のあるドロドロとした感情が零れて、取り返しの付かない色へと自分を染めていくような感覚に魅了される。

先生は僕に対して何かを言っているけど、それは僕の耳には届かない。意味をなさない言葉にしか聞こえない。それでも訴えかける先生の表情に、言葉に乗った感情に何かを感じなかったわけではなく、



「中山。お前が何を抱えているのかは分からない。分からないから今は中山に対して何もしてやれない。だから相談してくれ。大人を頼ってほしい。中山のその考えは将来絶対に後悔することになる。人との繋がりは」



意味のある言葉として耳に入って来るものもあったらしい。

先生の言葉を途中で遮るように、手のひらを先生の口の前に持っていく。面食らい、一歩後ずさる先生に歪んだ笑みを向けている自分がわかった。



「先生。僕のことを考えてくださって、悩んでくださってありがとうございます。先生があの時に傍に居てくれればちょっとはマシだったのかな?……あの時っていつだろ?まあいいか。僕の考えは前から変わってませんが、ビジネスライクな付き合いが無くなれば僕はもうそこまでと割り切って関係は解消しますよ。中学時代の仲が良かった子達へ連絡を取る手段は全て削除しましたし。そうそう、先生の言葉の続き。人との繋がりは大切にしなさいってことなんでしょうけど」



ポツ……ポツ……と雨粒が落ちてきて、まだあと少しもちそうだけど、そろそろ片付けないと雨が本格的に降るかもしれないですよ。

先生にそう告げて僕はゴミ箱に飲んでいたコーヒー缶を捨ててみんなのところに戻る。先生も同じようにして僕の隣を歩く。まだ話をききたそうにしている先生に最後に告げようと口を開く。



「さっきの続きで、これは答えを僕に返さないで欲しいんです。多分これは僕自身が納得するまで永遠に問い続けないといけないですから」



そう前置きをしてクラスメイトとの距離が後少しのところに立ち止まり、聞き耳を立てるような人がいないことを確認し、口を開く。




「繋がりって切るものじゃないんですか?」




そう発言した僕をなんとも言えない表情で見ている先生を置いて、クラスメイトがしている片付けに参加しに駆け出した。




読んでいただき、いつも本当にありがとうございます。

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