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転校生君と知らない誰かさん達


桜舞う季節。4月は出会いの季節とはよく言うけど、それは自分も例外ではない。


ざわざわと騒がしい教室に、薄く笑みを浮かべているような感覚がある。何がそんなにおかしいのだろうね、自分。



「はーい、静かにー。高校生活が始まったばかりで落ち着かないのも分からんではないが。早速、なんと言っていいかわからんが……そうだな、転校生を紹介するぞー」



担任の言葉に更にざわめいたり色めき立つ教室。

それはそうか。だってまだ入学式が終わって数日だ。これからって時にまた新しいやつが入ってくるなんて珍しいだろう。

かわいい女子かな?とか、いやいや男子でしょ!とか。


高校生にもなるとやっぱりみんな意識しちゃうものらしい。わからなくはないなあ。自分も高校生だしね。でも。






「中山奏です。みなさん、はじめまして。今日からよろしくお願いします」






期待に沿えずにごめんね。

僕は普通の陰キャなんだ。





-----






あれだけ騒がしかった教室がシン…と静まり返る瞬間は何回見ても面白いよね。


まあこんなところで笑っちゃうと目立つし嫌われちゃうけど。期待ハズレでごめんね。



「みんな仲良くしてやれー。さてと、中山の席はあの窓際の後ろだ」

「わかりました」



僕を見る視線は少なくなってる。それでも半分以上は興味を持ってるみたいで意外。


クラスの中にやんちゃそうな……所謂不良っぽい子はざっと見た感じいなさそうだし、後は賑やかし要員が何人いるかなってところだけど。


なんて考えながら席につくと、妙に隣から視線を感じる。隣を見て愛想笑いして会釈すると小さくて可愛らしいショートヘアの女子が驚いたような顔をした。



「……かな、で?」

「うん?ああ、うん。中山奏です。はじめまして。よろしくお願いしますね」

「え?あ、あの」



何か言いたそうな隣人をひとまず放っておいて、教壇に立ち話を始める先生の方を見る。


なるほど、今日は委員会決めかあ。明日転校なら良かったかな。

でも流石に転校生にクラス委員長なんて頼まないだろうし、図書委員辺りなら楽しそうだ。誰も立候補しなければ考えようかな。



「はじめまして……?」



隣からぶつぶつと聴こえてくるけど、この席もしかしてハズレなんだろうか。なんかクラスの色んな人にチラチラ見られるし。


転校初日からなぜか興味を引いてしまったみたいで、静かに過ごしたかっただけに、そっと溜息を吐いた。







──────────








結局話し合いにもならずに委員長は決まり、他の委員も決まっていった。

自分は結局図書委員になりたくて立候補してみたんだけど、もう一人の図書委員にお隣さんも女子で唯一手をあげていた。それをちらっと見た別の男子生徒がこちらを伺うようにして立候補してきたので、多分そういうことかな。

そんなの見たら譲るしかないよね?


譲ることを宣言したら何故かお隣さんとその男子生徒が……というかクラスの大半が驚いていたように見えたけど、物静かな転校生だからあまり注目しないでほしい。



「中山、転校初日から積極的みたいだな。そうだな……男子が誰も手を挙げなかった保健委員はやる気ないか?」

「そうですね、やってみます」

「ありがとう。これでクラスの委員割り振りは終わったな。後の連絡事項としては……2限目からは通常授業で今日は午前で終わりだが、各委員会の初回集まりがあるから、そこに委員は集合してくれ。場所はそこに貼り出しておく。よろしくな」



はーいと返事するクラスメイト達にみんな素直だなあとか妙な感心をしつつ、中学から上がったばかりならこんなもんかな?と授業の準備を始める。たしか2限目は現代文だっけ。苦手なんだよなあ。

1限目がかなり早目に終わったおかげで、こちらの教科書を読める。買ったばかりの教科書はなんだか独特な匂いがして、自分が本当に新しい学校に来たんだなって思うよね。


ポワポワした陽気に眠くなりつつ、外に目をやる。

1年の教室なので1階にあるからか景色はあんまり良くない。中庭が見えるくらいでちょっと悲しいけど、窓が近いのはいい事だ。



「ねえねえ、中山君。2限目始まるまでちょっとだけお話しない?」

「へ?ああ、うん。いいよ」

「やった!津田君、みんな、いいってさ!」

「ホントか川瀬?ちょっと聞きたいことがあったんだけどさ」



お、おう……意外とみんなグイグイくるね……

たまたま学校に来るのが親の関係で遅くなってしまっただけで、陰キャの自分に話しかけてくるとかみんな優しすぎない?というかクラスの仲良すぎでは……なんか涙出てきたよ。


そんなことを内心考えて質問に応対しようとすると、最初に話しかけてきた女子──川瀬さんが不思議そうにこちらを見てきた。



「中山君ってさ、友達にもそんな感じだっけ?」

「え、川瀬さんと中山君って知り合いだったの?」

「そうだな、隣の美山にもなんだかよそよそしいというか、あんなに仲良かったはずなんだけど。それに俺達にもなんか壁を感じるというか……」

「津田君に美山さんまで?!」



集まった何人かが驚いたように川瀬さんと隣人の美山さん、それに津田君を見ている。

……なんか自分への視線がちょっとキツくなったなあ。でもそうか。なるほどね?



「小学校も途中まで一緒だったし、よく遊んだのも覚えてる。奏、転校先でなんかあったのか?」



心配するようにこちらを見る津田君。

津田君の言いたいことを理解したけど、いやあ、これ言ってもいいのかなあ。初日なんだけどなあ。

なんて思いつつ、口を開く。それがどういう事になるかもしっかりと理解して。






「あー、たしかにこの辺に住んでた事はあるね」

「でもキミたちの事は知らないなあ。はじめまして、だよ?」






ちょっとだけ茶目っ気を出して言ったつもりなんだけど、教室がシン…ってなっちゃった。みんな聞き耳立ててたな?盗み聞きは良くないよ!


人が凍りつく瞬間っていつ見てもクスリと笑えてしまうんだけど、3人が固まった瞬間に周りが気づいていないのも面白いよね。



「は、はは……冗談だよね、中山君。わ、私だよ、川瀬美稲だよ!」



いち早く氷が溶けたのは川瀬さん。流石自分に話しかけるような変わり者だね!

なんて心の中で思うけど、切羽詰まったというか切実なというか、そんな顔をかわいい陽キャキラキラ女子にされると罪悪感を覚えちゃう。でもね。






「ごめんね、本当に知らないや。友達なんて居なかったから覚えてないよ。あ、もしかして気を遣って仲良くしてくれようとしてた?知らない人相手に優しいね、ありがとう」






今度こそ完全に動きを止めて俯く川瀬さん。

教室内が致命的なまでに悪い空気になってるなあと思いつつ、所詮は他人事だなと思考を止める。

冷えた空気を切り裂くように授業開始のベルと先生が入ってきたことで集まった子達は自分の席に帰っていった。


授業が始まっても、隣人がぶつぶつ言いながらこっちを見てくるのは怖いし、何人かの強い感情が乗った視線が突き刺さってくるのも勘弁してほしい。というか放っておいてくれないだろうか。

うまく行かないもんだなあとさっきの川瀬さんを盗み見たら暗い雰囲気を纏っていて、そっちもどうしたんだって感じだ。



「まあそれも自分のせいなんだけどね」

「…ぇ?」



隣人が驚いたように眉を上げるのをチラ見して、声が漏れたのを理解する。

あんまり良い癖じゃないし気をつけないと。


現代文の授業を聞きつつ、先程のやり取りを思い返す。ふと授業用ノートの端に突然思い浮かんだある言葉を書きなぞる。

今の自分には相応しく、そして小さい頃からずっと根付いている言葉。



『リセット症候群』



と。





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