公爵令嬢フォレスティーヌが殺された。聖女マリリーナは友の為に奮闘する。
聖女マリリーナは大好きな親友、フォレスティーヌ・アルギヌス公爵令嬢と、カフェで待ち合わせをしていた。
豪華な馬車に乗って、現れたフォレスティーヌ。
マリリーナは思う。
美しき銀の髪を縦ロールにし、あのキツイ眼差しは、一見強気に見える女性だけれども、実は繊細で傷つきやすくて…
だから、守って差し上げたいと思った。
友として…
フォレスティーヌは優秀な公爵令嬢である。
かつてはこのゴレット王国の王太子の婚約者として、王妃教育も受けて来た令嬢なのだ。
「マリリーナ。お待たせしたわね。」
カフェのドアを開けて入って来るフォレスティーヌ。
マリリーナはにこやかに微笑んで。
「ちっとも待っておりませんわ。一緒にこうしてお茶が出来るのが嬉しくて。」
フォレスティーヌは目の前の席に腰をかける。
「ああ、そうそう、久しぶりにレオル様とグリード様もお誘い致しましたのよ。」
「まぁ、それじゃ四人でお茶を。なんて嬉しい。でもレオル様もグリード様もお忙しいでしょう?グリード様は週末まで仕事で手が離せないと言っておりましたわ。」
レオルはゴレット王国の宰相、グリードは騎士団長だ。
そして、レオルはフォレスティーヌの、グリードはマリリーナの婚約者である。
フォレスティーヌはにこやかに、
「わたくしとマリリーナの頼みだと言えば、断れませんわ。」
店員が紅茶を運んで、テーブルに置いた。
「いい香りの紅茶。」
フォレスティーヌが紅茶に口をつける。
そして…突如、血を吐き出した。
マリリーナは真っ青になる。
「どういたしました?フォレスティーヌ様。」
テーブルに倒れ伏すフォレスティーヌ。
すると、店員がオホホホホと笑って、
「私は貴方達のせいで破滅したのよ。いい気味だわ。」
あの女だ。変装していたのだ。
そして女は逃げて行った。
カフェの扉を開けて、レオルとグリードが飛び込んできた。
「何があった?」
マリリーナは叫ぶ。
「アメリアが毒をっ。店の奥へっ。」
グリードが頷いて、後を追ったようだ。
マリリーナはフォレスティーヌの傍に走り寄り、抱き起す。
息をしていない。レオルが医者を探しに外へ飛び出ていった。
自分は聖女だ。だが、豊穣と水を操る力しかない。癒しの力はないのだ。
― いやぁーーーーー。フォレスティーヌ様っ -
持てる力の全てを注ぎ込む。
豊穣の力を…
どうか、豊穣の力よ。フォレスティーヌ様の命を助けてっーーー。
マリリーナの強い願いが通じたのか、どーーーーーん、と音がして、
カフェの天井が吹っ飛んだ。
そして、マリリーナは意識を手放した。
夢を見ていた。
「フォレスティーヌ・アルギヌス公爵令嬢。其方は愛しいアメリアを虐めているようだな。だから其方との婚約を破棄する。」
「聖女マリリーナ。其方は愛しいアメリアを虐めているようだな。其方との婚約を破棄する。」
王宮の夜会で同時に婚約破棄を叫んだのは、ゴレット王国のハロルド王太子と、第二王子のコルドだ。
そして、二人は同時に叫んだ。
「「私は愛しいアメリアと新たに婚約を結ぶことにする。」」
そして、互いに顔を見合わせた。
「アメリアは私の物だ。何でお前が婚約を結ぶ事に?」
ハロルド王太子が叫べば、コルド第二王子も負けじと叫ぶ。
「何を言っておられるのです。私はアメリアを相思相愛なのです。」
「私だってアメリアと相思相愛だ。そうだな。アメリア。」
茶の髪を長く伸ばして大人っぽい雰囲気の、アメリア・チエーリ男爵令嬢はにこやかに微笑んで。
「嫌ですわ。ハロルド王太子殿下に決まっているじゃないですか。ちょっとコルド殿下とお茶しただけで、その気になってしまうなんて。もう…私が魅力的だからって、困りますわ。」
「そんなっ…」
がっくりと膝をつくコルド第二王子。
ハロルド王太子はアメリアの腰を抱き寄せて、
「そうだろう。やはりアメリアは私の事を愛しているのだな。」
「当然じゃないですか。愛しい王太子殿下…」
ああ、やはりお馬鹿だと思っていましたけれども、やっぱりやらかしたわね…
コルド様。
コルド第二王子に婚約破棄をされた聖女マリリーナ。
浮気者で女にだらしがなく、勉強の大嫌いなコルド第二王子は17歳。
聖女マリリーナは同い年である。
聖女は神殿に属していて、豊穣の力を持ち、水を操る事が出来る。
だから、王家は第二王子コルドの妻にと聖女マリリーナと強引に婚約を結ばせたのだ。
何故、コルド第二王子の兄であり、王位継承権第一位のハロルド王太子では無かったのかと言うと、権力者であり広い領地を持つアルギヌス公爵令嬢、フォレスティーヌと幼い頃からの婚約が継続していたからである。
マリリーナは思った。
自分は婚約破棄されても別に構わない。女にだらしがない大嫌いなコルド第二王子と縁が切れるのなら万々歳だ。
しかし、フォレスティーヌ様はどうかしら…
ちらりと見ると、真っ青な顔で見ているフォレスティーヌ・アルギヌス公爵令嬢の姿があった。
マリリーナも銀の髪にエメラルドの瞳を持ち、自分の容姿には自信があったがフォレスティーヌも同様に銀の髪にエメラルドの瞳を持ち、それはもう美しい令嬢で…
聖女マリリーナとて、コルド第二王子の婚約者として夜会に出る事があった。
その時に知り合ったフォレスティーヌはとても良くしてくれて…
マリリーナはフォレスティーヌの事が大好きになった。
フォレスティーヌは青くなった後、叫んだ。
両腕を組んで、銀のドレス姿でぎろりとハロルド王太子を睨んで、
「喜んで婚約破棄を承りますわ。しかし、わたくし、アメリアを虐めてなぞおりません。
象がアリを気にするでしょうか?わたくしにとってアメリアはアリですわ。アリを気にするなんて公爵家の娘として恥ですわ。」
マリリーナは胸が痛む。フォレスティーヌはハロルド王太子の事をとても愛していたから…
思わずフォレスティーヌに、
「お気持ちはわかりますわ。フォレスティーヌ様はハロルド王太子殿下がお好きでしたから。」
フォレスティーヌはマリリーナの言葉に更にイラついたようにマリリーナに向かって、
「わたくしは婚約破棄を承ったと言いました。ハロルド王太子殿下の事なんてなんとも思っておりません。」
アメリアの前に行くと、ぎろりと睨みつけ、
「それにしても、アメリア。貴方はハロルド王太子殿下のお心を弄んで。
許せませんわ。ハロルド王太子殿下はそれはもう、心優しきお方で。わたくしは初めてハロルド様を見た途端恋に落ちたのですわ。それなのに…貴方って人は他にも色々な男と付き合っていると言うではありませんか。あまりにもハロルド様がお可哀想。ハロルド様は国王陛下になるお方。そんなお方を…下賤な男爵令嬢ともあろう女に騙されて…ああ、そんな胸の谷間を見せていいと思っているのですか?女性はもっと慎みやかでないといけませんわ。」
アメリアがにっこり笑って、
「だって、胸を見せた方が喜ぶんですの。ハロルド王太子殿下も、コルド様も。」
コルド第二王子がぼそりと、
「見せてくれるのは胸だけじゃないんだけどな。ドレスの下も。」
フォレスティーヌが怒り出す。
「なんですって?結婚前の女性がドレスの下もって。まさかハロルド様。ドレスの下を見たのではないでしょうね。アメリア。往復ビンタだけではすみませんわ。地の果てまで吹き飛ばして差し上げます。その前に、鞭で百叩きの上、拷問ですわね。」
ハロルド王太子が青い顔でアメリアに聞いている。
「本当なのか?ドレスの下を他の男に?」
「嫌ですわー。噂を本気にするだなんて。ちょっとお茶するだけの男友達がいるだけです。」
「まったく、コルドっ。適当な事を言うんじゃない。」
怒られて肩を竦めるコルド第二王子。
コルド第二王子にマリリーナは思わず聞いてみる。
「まぁ、コルド様はアメリア様のドレスの下を見たのですか?」
「噂だ噂。それでもアメリアの可愛さに結婚してもいいと思ったのだ。それにアメリアは聖女の力を持っているとの事。君みたいなお堅い女より余程いい。」
聖女の力がなんたるか解っていないわね…お馬鹿なコルド王太子殿下は…
マリリーナはにこやかに頷いて、
「解りましたわ。わたくしも婚約破棄を受け入れます。」
ハロルド王太子は二人に向かって、
「お前達は結局、アメリアを虐めていたのだな。」
フォレスティーヌは一言、
「象がアリを気にするでしょうか。」
マリリーナも頷いて、
「わたくしも同様です。」
こうして二組の婚約破棄は成立したのだ。
マリリーナはフォレスティーヌの事が心配だった。
だから、神殿から出てアルギヌス公爵家に転がり込んだのだ。
ノックをしてフォレスティーヌの部屋に入る。
声をかけた。
「しばらく隣国へ参りましょう。良い気晴らしになると思いますわ。」
「貴方はいいの?聖女としての仕事は?」
「聖女としての仕事なんて、年に一回の豊穣祭でしっかりと祈ればよいだけよ。傷心だと言って神殿から出てきたのですわ。それより…フォレスティーヌ様の事が心配…」
フォレスティーヌはマリリーナの手を優しく握ってくれた。
「わたくしは貴方の事が心配だわ…」
「わたくし?わたくしは婚約破棄されてさっぱりしましたわ。あんなのと結婚したらそれこそ…どん底ですから。」
「それならばよいのだけれども…」
「フォレスティーヌ様…」
「ねぇ…マリリーナ…どうしてわたくしはハロルド様に嫌われてしまったのでしょうね…心が通じていると思っていたのはわたくしだけ…わたくしだけの…」
ああ、フォレスティーヌ様が泣いていらっしゃるわ。
思わずマリリーナはフォレスティーヌの事を抱き締めた。
「ハロルド様も、本当に見る目がありませんわね。学園にいた時、勉学も一番で、王妃教育も終わっている優秀なフォレスティーヌ様の事を捨てて、アメリアごときに走るなんて…フォレスティーヌ様は悪くありませんわ。悪いのはハロルド様です。ええ。そうですとも。」
フォレスティーヌを懸命に励ます。
フォレスティーヌ様を悲しませるなんて、ハロルド様っ許せないわ。
もっと怒り狂っていたのがフォレスティーヌの父であるアルギヌス公爵だった。
「私の大事な娘を男爵令嬢ごときに浮気をし婚約破棄だと?王家へ乗り込んで苦情を言わねばなるまい。王家が我が娘を王妃にしたいと強引に婚約話を持ってきたのだぞ。」
フォレスティーヌは怒りまくる父を宥めるように。
「わたくし、隣国へ聖女様と共に旅行へ行ってこようと思いますわ。婚約破棄をされた令嬢として、社交界で笑いものになるのは嫌でございます。」
「いや、王家から我が家に正式に何も言ってきてはいない。王太子がお前に一方的に宣言しただけなのだろう?」
「ハロルド様のお言葉は王家のお言葉…わたくしは婚約破棄を受け入れようと思いますわ。ただし、向こうが有責で。」
使用人が客が来たと報告してきた。
王家から使いがきたのか。客間へ通してみれば、銀の淵の眼鏡をして、鋭い眼光。黒髪の背の高いいかにもやり手と言う雰囲気を醸し出している彼は若き宰相レオルだった。
そして、茶髪で髭面の大男、騎士団長グリードも一緒である。
二人はアルギヌス公爵とフォレスティーヌの姿を見ると、揃って床に手を付き土下座した。
レオル宰相は土下座し、頭を下げたままフォレスティーヌに向かって、
「どうか、ハロルド王太子殿下の言葉を本気で受け取らないようお願い致します。」
グリード騎士団長も同様に頭を下げたまま、
「それがしからもお願い致す。どうか…どうか…この国の王妃にふさわしいのはフォレスティーヌ様しかおりませぬ。あんな脳みそがスットコドッコイの男爵令嬢なんぞ王妃になったら国が終わりますっ。」
レオル宰相は頭を下げたまま言葉を続ける、
「そしてマリリーナ聖女様を説得して下さいませ。姿が神殿から消えたのです。フォレスティーヌ様ならご存知でしょう?彼女がどこへ行ったのか。もうすぐ精霊王に豊穣を願う儀式をやらねばなりません。あの男爵令嬢に聖女様の代わりが務まるとは思えない。精霊王様に豊穣を願えなかったら、我が国の農作物の収穫はどうなることか。お願いです。どうかどうかっ。ハロルド王太子殿下と再び婚約し、聖女マリリーナ様を説得して下さいませんか?」
アルギヌス公爵は不機嫌に、
「我が娘はありもしない罪を着せられ、ハロルド王太子殿下に婚約破棄を申し渡されたのだ。」
フォレスティーヌはレオル宰相とグリード騎士団長に向かって、
「ともかくお二人とも顔をお上げになって。象がアリを気にするでしょうか。と言いたい所ですけれども、キツイ物言いをしたり、取り巻き達に文句を言わせたり致しましたわ。でも…それでわたくしの事を婚約破棄をするだなんて。アメリアと浮気をするだなんて…なんてハロルド様は酷いお方なのでしょう。わたくしはこの国の為にハロルド様と並び立つ為に努力をして参りました。辛い王妃教育にも耐えて来たのです。それなのに…ハロルド様は。昔のハロルド様はとても優しかった…わたくしは…愛しているからこそ、許せないのです。隣国へ参りますわ。傷心を癒す時間が欲しいのです。」
レオル宰相は立ち上がり、真剣な眼差しでフォレスティーヌの顔を見つめながら、
「貴方が隣国へ行っている間にあの、男爵令嬢がハロルド王太子殿下と婚約してしまったらどうするのです?あんなお馬鹿を王太子の婚約者だと、諸外国に、臣下達に紹介できますか?外国からはゴレット王国自体も馬鹿にされ、国内では王家も馬鹿にされて国は乱れます。
ですからどうかどうか…隣国へ行くのはおやめください。ハロルド王太子殿下との婚約を継続して下さい。」
フォレスティーヌはレオル宰相に再び訴える。
「わたくしの心はどうなるのです?」
「国はどうなるのですか?この国はっ。私はゴレット王国を愛しているのです。馬鹿な男爵令嬢の為に国を滅ぼしたくはありません。」
グリード騎士団長も立ち上がって訴えて来た。
「それがしもレオル宰相と同様です。この国を愛しております。ですから、どうかどうかっ。フォレスティーヌ様。ハロルド王太子殿下と再び婚約をっ。」
アルギヌス公爵はレオル宰相に向かって、
「肝心の国王陛下は今回の事。どう言っておられるのか?貴殿達は国王陛下の使いで参ったのか?」
レオル宰相は頷いて、
「私達は国王陛下の使いで参りました。しかし、ゴレット王国を愛する気持ちは嘘偽りはありません。フォレスティーヌ様。貴方はこの国を愛していないのですか?」
「わたくしは…ハロルド様と共にこの国を良くしたい…そう思っておりましたわ。でも…」
その様子をそっと扉の隙間から覗いて聞いていたマリリーナ。
思わず扉をドンと開けて、中に入り。
「わたくしはコルド殿下の元へ戻るなんてまっぴら御免ですわ。レオル宰相。貴方は王位継承権第5位でしたわね。」
レオル宰相は頷いて、
「確かに私は第五位だが…国王陛下は叔父上に当たるからな。」
「でしたら、貴方が王位につけばよろしくて?あの人達はいらないわ。そう思いません事?」
マリリーナはフォレスティーヌの手を両手で包み込んで、
「フォレスティーヌ様。しっかりと夢から覚めて下さいませ。レオル宰相はいまだ独身。
レオル様。フォレスティーヌ様を娶るのは如何です?」
「わ、私は結婚等、忙しくて考えた事もなく…」
アルギヌス公爵は頷いて、
「大きな声ではいえないが…そなたが王位につくと言う気概があるのなら、くれてやってもいい。我が娘を…我がアルギヌス公爵家はこの度、ハロルド王太子殿下が我が娘に突き付けた婚約破棄を受け入れる。いかに国王陛下の頼みだとはいえ、今回だけは譲れない。新たな婚約者は其方にしよう。どうだ?考えてみてはくれまいか。」
レオル宰相は眼鏡に手をかけて、鋭い眼光で、
「ハロルド王太子殿下、コルド第二王子、ミルフィーナ王女を追い落とせば、我が父へ王位は回って来よう。我が父は私に王位を譲ってくれると思う。田舎でのんびりと暮らしたい性分だからな。解りました。レオル・マルグリブルク大公として、フォレスティーヌ嬢に婚約を申し込みたい。」
レオル・マルグリブルク大公。歳は27歳。フォレスティーヌとは歳が9歳離れている。
フォレスティーヌが赤い顔をしているのをみて、マリリーナはやったとうれしかった。
手をパチパチと叩いて、
「まずは、いかに男爵令嬢アメリアが無能か皆に知らしめないといけませんわね。レオル様。今度の夜会、フォレスティーヌ様をエスコートして差し上げたら如何?」
レオル宰相に手をフォレスティーヌに差し伸べる。
「フォレスティーヌ嬢。今度の夜会で私との婚約を発表しよう。アルギヌス公爵家との婚約は、そなた程の優秀な令嬢をこのゴレット王国に留める事が出来るのだ。そう国王陛下には報告をする。」
「解りましたわ。」
アルギヌス公爵も頷いて、
「私からも、国王陛下に報告しよう。新たにマルグリブルク大公と我が娘フォレスティーヌが婚約を結ぶとな。国王陛下は嫌な顔をするだろうが…」
マリリーナは嬉しかった。
フォレスティーヌには幸せになって貰いたいから。
自分にはやる事がある。
「わたくしはあのアメリアの行動を調べてみますわ。」
騎士団長のグリードが、
「それがしも、手伝ってよろしいだろうか?」
「騎士団長様が手伝って下さるのですか?」
「グリードでいい。聖女様は神殿に戻らなくてよいのか?もうすぐ豊穣祭だろう?」
「そうね。一度、神殿に戻って、神官長の許可を得てから、わたくし、アメリアの行動を調べてみますわ。」
「よし。一緒に頑張ろう。」
黒髪でいかにも堅物そうなグリード。
何回か、豊穣祭の警護をしてもらって顔を合わせた事がある。
神殿に戻れば、神官達も調べるのに協力してくれると言う事で、調べまくった。
そうしたら、アメリアと言う女、色々な男性と付き合って身体の関係があると解ったのだ。
その事を詳細に文書にして、国王陛下はあてにならないので、王妃様へ提出した。
ユリーナ王妃は怒り狂って。
「あのアメリアと言う女とハロルドを結婚させるわけにはいかないわ。有難う。グリード騎士団長。そして聖女マリリーナ。良く調べてくれたわね。」
どうも、フォレスティーヌとレオルが出席した夜会で、元自分の婚約者コルド第二王子と控室で、アメリアは男女の営みを行っていたらしい。
それをアメリアは、コルド王子に無理やり襲われたと訴えて、国王陛下は女性に甘いので、うやむやにしようとしていたのだが。
ユリーナ王妃は二人の息子達に対して心を鬼にした。
「お前達は修道院へ行くがいい。二度と王都の土は踏ませぬ。そうね。お前達の妹、ミルフィーナは優秀だから、良い婿でももらって、王位を継がせるのも悪くないわ。」
ハロルド王太子とコルド王子は、王妃のドレスに縋りついて、
「母上お許しをっ。」
「お許し下さいっ。どうか、お願いですから…」
「あんなメギツネに騙されて。じっくりと反省しなさい。」
二人は修道院へ送られた。
マリリーナはアメリアに聖女の力を使う事にした。
男爵家の敷地内の水と言う水を奪い取ったのであった。
今、男爵家は砂漠と化している…
男爵の髪の毛も水分を失い、頭髪も砂漠と化しているようだ。
そして、アメリアも…
「何よっ…私の肌…しわしわっ…水、何でうちの屋敷、水が出ないのっ??これじゃ…男の人と遊べないじゃないっ…」
そう、これですべては終わった。
終わったはずだった…
マリリーナは、騎士団長グリードの誠実な人柄に恋をするようになっていた。
「グリード様。わたくし、貴方の事が…好ましく思いますの。」
「それがしもです。でも、豊穣の祭をしっかりと行って頂かないと。」
「解っておりますわ。幸い、わたくしの力は結婚で失われるものではありません…平民の出ですけれども、グリード様とわたくし…」
二人で夜の街を歩いていたら、豪華な馬車が近づいて来て、レオルとフォレスティーヌが降りて来た。
レオルが声をかけてくる。
「やはりここにいた。グリード。そしてマリリーナ。共に夕食でもどうだ?」
フォレスティーヌもマリリーナの手を取って、
「わたくしもご一緒したいわ。あの悪女をやつけたのは貴方達のお陰。お礼をしないと。」
豪華なレストランに入り、四人で食事を楽しむ。
グリードがレオルに、
「マリリーナと結婚しようと思うんだ。」
マリリーナはどきりとする。
「先程、思いを打ち明けて。まだ正式な話ではありませんわ。」
顔がほてる。グリードの事が愛しくて。とても真面目な方。
頼りになって…
フォレスティーヌが祝ってくれた。
「まぁ、それはおめでたいですわ。マリリーナ。良かったわね。」
「フォレスティーヌ様に祝って頂けてとても嬉しいですわ。」
レオルが酒を注文し、
「今宵は我が親友、グリードと聖女様の幸せを祈って、大いに飲もう。」
「ああ、友よ。飲もう。」
四人で食べて飲んで、とても幸せな時間を過ごした。
そして…正式にグリード騎士団長から、神殿へ、マリリーナとの婚約の申し込みがあり、神官長も渋々了承した。しっかりと豊穣の祭りをやる事を条件に。
マリリーナは幸せの絶頂で。
そして冒頭のシーンへ戻る。
久しぶりにフォレスティーヌとカフェで待ち合わせをして、色々と話をしようと思っていたのに…
まさかアメリアに毒を盛られるとは…
大事な親友、フォレスティーヌ…わたくしの力を全て注いで、どうかどうか死なないで…
★★★
あれから、一ヶ月が過ぎた。
美しかった銀の髪を短く切った。
真っ白になってしまったから…バサバサになってしまったから、切るしかなかった。
聖女マリリーナの存在はあの日から消えた。この世界では元から聖女マリリーナはいないことになっていた。誰もマリリーナの事を覚えている人はいない…
でも、後悔はない。
だってフォレスティーヌは生きているのだから。
マリリーナの聖女の力も失われ、聖女の力を持つのはフォレスティーヌだった事になっていた。アメリアはフォレスティーヌに水分を取られて、しわしわになった末に、ある日、男爵家の自分の部屋で変死したそうだ。
アメリアが死んで、ホッとした。
もう、フォレスティーヌに害をなす輩はいないだろう。
グリード様も自分の事は覚えていないに違いない…
四人で話したあの夜…そして、グリードと結婚出来ると言う幸せ…
全て失ってしまった。
今のマリリーナの仕事は酒場の掃除だ。酒場が始まる前に、店に入って綺麗に掃除するのである。貧しい生活だが仕方がない。
マリリーナは満足していた。
とある日、驚いた。
グリードが、騎士達と共に酒場へやってきたのだ。
掃除が終わって帰ろうと裏口から出たら、グリードを見かけた。
涙がこぼれる。
グリード様と結婚したかったわ。
今の自分は昔の美しさもない、貧しい平民の女だ。
グリードと目があった。
グリードは目を見開いて…そして叫んだ。
「マリリーナっ。探していたんだ。」
「何故?覚えているの?わたくしはいなかったものにされたのに…」
「それがしは忘れてはいない。君と過ごした日々をっ。結婚するのだろう?マリリーナ。あああ…神よ。感謝しますっ。マリリーナは夢ではなかった。それがしのマリリーナ。」
ぎゅっと抱き締めてくれた。
マリリーナは嬉しかった。
「わたくしもお会いしとうございました。」
それから程なくして、フォレスティーヌとも再会した。
フォレスティーヌの世界にはマリリーナはいなかったけれども、それでもフォレスティーヌは、
「何だか貴方とは初対面な気がしないわ。わたくしとお友達になって下さる?マリリーナ。」
「わたくしは平民ですわ。」
「関係ないわ。とても懐かしい気がするの。」
そう言って、嬉しそうに手を握り締めてくれた。
マリリーナはレオルやフォレスティーヌに祝って貰いながら、グリードと結婚し、可愛い子供にも恵まれ幸せに暮らした。
聖女マリリーナの存在は語り継がれる事はないけれども…
騎士団長夫人マリリーナの事は、健気に夫を支え、国の為に尽くしたとゴレット王国歴史書に記されている。