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短編コメディ―

密着!! ジャガトマ警察24時

作者: ななみや

――小説の描写に矛盾は許されない



「いや チョコレート食べてもいいじゃないですか」


「ダメだよ~ だってここ雪に覆われた国でしょ? 流通網も無いのにどうやってカカオ豆手に入れてるの」


「それは…… 魔法の力で……」


「魔法あるの? 今まで一回も出てきてないのに? だったらちゃんとそれ 描写しなさいよ」



――web小説界が誇る精鋭達の現場を追う



「数字おかしいでしょ? 小麦の年間生産量5億トンて現代地球の数字じゃないんだから」


「……」


「大体どうやって億トン単位の生産量把握してるの 中世ヨーロッパベースの社会にそんな計量技術あるわけ?」


「いや ありますって あります」


「だからどうやって とにかくね 話は署で聞くから乗って パトカー乗って」



――密着!! ジャガトマ警察24時!





*****************************





――深夜の警察署


――街が寝静まっていても彼等が眠ることはない


――それは一本の電話から始まった



「シロ(白菜)出ました 歴史文芸 戦国時代です」


「戦国にシロ(白菜)了解 場所は?」


「日間歴史87位です」


「歴文87ね 了解」



――市民からの通報を受け警察署はにわかに慌ただしくなる



「道具持った?」


「持ちました」


「じゃ 行こう」



――現場に駆け付ける警察官


――そこでは一人の男が米と共に白菜の漬物を食べていた



「はいはい お兄さん ちょっといい? それなに?」


「え? あの 夜食ですけど」


「その漬物なに? 材料は?」


「え? 白菜です 白菜の漬物」


「ダメだよー 白菜はー」



――男はこの小説の主人公


――現世から転生してきて 九州の城持ち大名になったばかりである



「白菜はねぇ 戦国時代にないの お兄さん知ってるでしょ?」


「あ いえ そうなんですか?」


「白菜は明治時代に入ってきたの 有名な話でしょ」


「いえ 知らないです 知らないです」



――戦国の世で白菜の漬物を食べていた不逞な男は あくまでしらを切り続ける



「とにかくね 白菜ダメだから変えて 別のに変えて」


「あ はい ええ…… それじゃあ たくあんとかでいいですか」


「たくあんもだめよ 梅干しとかにして」



――警察官の指導の元 男は白菜をやめ梅干しに切り替えた


――今回男に常習性はなく悪質ではないと判断されたため その場の注意だけで済まされた


――しかし下調べが充分でなかったのは男の落ち度である


――男が警察官にこってり絞られたのは 言うまでもない





*****************************





――ハイファンタジー沿いで張り込む警察官


――ここは特に違反者が多いことで有名である



「はいちょっと 止まって止まって」



――この日も連載作品の登場人物が一人 警察官に止められた



「なんだよ 何もしてねぇよ」


「してるでしょ ほら見せて 鍵括弧の中見せて」


「『呉越同舟』ね これ ダメだからね」



――男はどうやらその世界にない地名を使っていたようである



「はぁ!? 普通の言葉だろうがよ! 普通に使うだろうが!」


「この世界に呉も越もないでしょ 地の文だったらいいよ? だけど 現地の人が使っちゃダメでしょ」



――強面の戦士を前にしても警察官が怯むことはない



「あっちの奴は『四面楚歌』使ってるぞ!? 俺はダメであいつらはいいのかよ!」


「今あなたに関係ないでしょ ほら 誤字報告しておいたから 言葉変えて」


「いいや 俺は悪くないからな」



――男は尚もゴネ続けた


――しかし警察官の粘り強い説得に 男も折れる



「いいよ 分かったよ あんたらも強情だな」



――男は渋々ながらも台詞を変えた



「『呉越同舟』がだめならな お前達もファンタジーで『江戸の仇を長崎で討つ』とか『そうは桑名の焼き蛤』とか使うなよ! 使ったら分かってんな!」



――捨て台詞を吐きながら去っていく男


――確かに四字熟語程度であれば「翻訳されている」という言い訳も立つかもしれないが 読者からしてみれば引っかかる台詞であることに変わりはない


――今回の事を反省して 安全な言葉選びを心がけて欲しいものである





*****************************





「あれ なんですかねえ」



――それは パトロール中の出来事であった



「あれ お茶会かな?」


「どうします?」


「怪しいなあ うーん 怪しいなあ 張っとこう」



――一見すると どこにでもある普通の異世界恋愛物語とそのお茶会である


――しかし警察官は僅かな違和感に目を光らせた



「どうですかね」


「うーん 分からんなあ 怪しいなあ」



――警察官達は女達が繰り広げているお茶会を誰にも気付かれないように監視している


――しばらくの監視が続いたあとの事だった



「あーでた でた でました」


「行こう 行こう 行こう」



――女の一人がケーキを出した瞬間である 警察官達は飛び出していった



「すいません いいですか」


「え? なんですか なんですか?」


「なに? なに?」



――突然の警察官の乱入に 女達は気を動転させる



「それ チョコレートのケーキ ザッハ・トルテって言ったでしょ」


「え? はい ザッハ・トルテですけど」


「ザッハ・トルテはダメでしょー ホテル・ザッハーがこの世界にあるの?」



――ザッハ・トルテはフランツ・ザッハーが考案したチョコレート菓子であり 制作者自身がその名の由来となった菓子である


――無論女達の世界にフランツ・ザッハーはいない



「……」


「あーあーあー なにこれ アンズジャムも入ってないじゃない ザッハ・トルテは普通のチョコレートケーキをお洒落に言ったものじゃないんだよ ちゃんとしたザッハ・トルテって言う別のお菓子なの わかる?」


「……」



――警察官の尋問に 女達は無言のまま答えない



「とにかくね ちょっと署で話聞くから ついてきて」


「……はい」



――女達は素直に警察官に従いパトカーへと乗り込んだ


――取り調べの結果女達の余罪が発覚 


――どうやら過去に「モンブラン」や「シャンパン」も出していたようだった


――警察官の鋭い観察眼により女達はあえなく御用となった





*****************************





――警察官達はある一人の男を追っている


――男は「イタメシヤ! ―冒険者パーティを追放された俺はイタリアンのシェフとなって貴族達に気に入られ成り上がる―」の主人公


――ジャガトマ警察を嘲笑うかのようなこのタイトル作品は 堂々と月間ランキング上位に掲載されていた



「今回の件は結構デカいヤマやから みんな気張っていこうな」



――この男が今回指揮を執る摘発チームのリーダー


――この道15年のベテラン刑事である



「場所はハイファン月間9位 目立つとこやから慎重にな」


「ほいだら行こか~」



――リーダー刑事の声と共に 警察官達は捜査本部を後にし現場へと向かった



「こんちは~ ジャガトマ警察です」


「警察!?」


「なんでなんでなんで?」


「架空世界現実混同被疑事件ということで捜索差押許可状が出ています みんなその場から動かないで 手ぇ上に挙げて」



――リーダー刑事を先頭に男の料理店に踏み込む警察官達


――店の中には 容疑者の男の他に数人の客と従業員がいた



「あんた店長? 経営者?」


「はい そうですが」


「なんでわし等ここに来たか 分かっとんでしょ」



――一見すると凶悪な犯罪者とは思えない優男である しかしその眼の奥にある鋭い光は一般人とは一線を画する何かを持っていた



「ここ異世界よね? ファンタジーよね? なんでこんなタイトルにしちゃったの『イタメシヤ』て アカンでしょ」


「いや面白ければいいんじゃないですか 月間ランキング上位ですよ? あなた方この作品にブックマークいくつついてると思ってんの」


「イタリア料理はアカンでしょ あんた転生者じゃなくて現地主人公なのに イタリアは無いでしょ」



――刑事と男の言い合いは平行線である



「大体貴族に振る舞った料理がジェノベーゼパスタって ジェノベーゼの意味分かって言ってる? ジェノバ県あんの?」


「……あります あればいいんでしょ」


「似たような香草があるんとは意味が違うんだよ ジェノバ県出しちゃって本当に作品の整合性とれるの?」


「……」



――警察官の鋭い詰問に男は徐々に無言になっていく



「ナポリタン 見つかりました」


「ほいほいナポリタンね トマトソースパスタとかにしておけばいいのにねぇ そもそもナポリタンなんてイタリア料理にしちゃっていいのかな」


「……」


「オランデーズソースも使っちゃってまた オランダどこにあんの この世界にオランダあんの?」



――警察官達の捜査により見つかる物的証拠の数々


――もはや言い逃れはできない



「午後10時18分 架空世界現実混同の現場と言うことでね 逮捕するからね」


「……はい」


――男の手に掛けられる手錠


――男は架空世界現実混同容疑で逮捕となった





※この作品はフィクションであり、特定の執筆者、作品及び読者の行動を揶揄する等の目的ありません。


むしろ自戒の意味を込めて書いています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蚕が野生でいてそれを捕まえてきて絹を生産、とか すでに鉄器を使っているのに木炭の作り方を主人公から教えて貰う現地人、とか 内燃機関による自動車がなく馬車に頼っているのにビニル袋がある、と…
[一言] 本音「御都合主義バンザイ!!創作のためには、地形歴史風土などなど全てをよじ曲げる。」 建前(本音にうっすら猫を被っただけ)「これは、フィクションであり、現実と異なる場合もあります。」 じゃ…
[一言] 手厳しいですね〜。 面白かったのです!
2022/03/22 18:01 退会済み
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