男爵家の悲劇1
ノーバンド侯爵家以上に酷いのがローリー男爵家であった。
アーサーの駆け落ち相手がアンヌ・ローリー男爵令嬢であることは直ぐに知れた。彼らは確かに”秘密の恋人同士”であったが、秘密というものは誰しもが知っている事を意味する。二人は上手く隠していたつもりでも、侯爵家と男爵家の者達は皆知っていたのだ。
なら、別れさせればよかったのかもしれないが、それもアーサーの結婚で関係を断つであろうと思い、それまでの間はそっとしておこうと考えたのだ。若い悲恋の恋人達に同情を寄せる使用人たちも多かったのだ。
それが間違いであったことに気が付いた時には全てが遅かった。
面子を潰されたフォード子爵家がローリー男爵家をそのままにしておくことは無かった。
そう、男爵家にも賠償金の支払いを科したのである。侯爵家に対する怒りと共に、それは男爵家に襲いかかった。
到底、男爵家では支払うことが出来ない賠償金額である。
法廷で争うにも、敗北確定の案件に味方になる弁護士はいなかった。
フォード子爵家の怒りを買い敵認定されては仕事も出来なくなることを弁護士たちは知っていたのだ。
それに、争って逆に今以上の金額を支払わされる恐れもあったのだ。親切な弁護士はそれを伝える者もいた位だ。
アンヌの両親はショックで倒れたのは言うまでもなかった。倒れたところで賠償金がなくなるわけではない。
両親は爵位を売り渡し、全財産を叩いても足りなかった。それほどまで金額は大きかったのだ。
一ヶ月後に、両親と長女一家は首をくくった。現実に耐えられなかったのだ。
悲劇はそこで終わらなかった。
足りない負債はそのまま姉妹が負担する事となった。