過去との対面
アーサーは、自分を襲った犯人が妻の妹である事を知った日から、可能な限り自分達が駆け落ちした後の両家を調べた。
今までは過去の事と思い、わざわざ調べようとはしなかったし、迷惑をかけたであろうことは自覚していたのだ。
だが、コレットの現在の姿はあまりにも異様だった。
貴族令嬢であり、裕福な商人の妻でいるはずの彼女に一体なにが起ったというのか。
夫婦仲も良かったと記憶しており、もし婚家で虐げられていたとしたら、彼女の家族が黙っているはずがない。男爵家は大変仲の良い家族であったからだ。
あのような正気とは思えない有り様を思い出すと冷や汗が止まらなかったのも理由であった。
自分は何かを見落としていたのではないか、そう考えるに至ったのは自然であった。どうしても調べずにはいられなかったのだ。
コレットはアンヌの一つ下の妹で、アーサーの事を兄のように慕ってくれていた。
セーラやセシルは気が強いせいかアーサーは少し苦手意識があったが、大人しく引っ込み思案なコレットは可愛らしい妹のような存在であったのだ。
それに、上の姉達と違って要領が悪く、頭がそんなに良くなかったコレットは、貴族社会では生き抜いていけないほど素直な気質の女性だった。
彼女が平民出身とはいえ資産家の男に嫁いだことに、アーサーは内心ホッとしたほどである。コレットの夫は、凡庸であったが、彼女を大切に愛しんでいる様子であった。アンヌと一番仲が良い姉妹であったことも大きな理由だが、コレットを実の妹のよう思っていたのだ。
それが何故、あのような姿で再会したのか。
興信所に調査を依頼した。
腕利きのプロであるため、依頼料は高く、かなり懐が痛んだが、料金以上の報告を受け取った。
それには、予想を超えた結末が記されていた。
実家である侯爵家は兎も角、ローリー男爵家の末路は悲惨そのものであったのだ。