男爵家の美人姉妹
アンヌの実家は小さな領地を持つローリー男爵家だ。
その男爵家の五人姉妹は美人ぞろいであると貴族社会でも有名であった。
長女のセーラは、ローリー男爵家の跡取り娘であり、同じ男爵家出身の次男を婿にむかえて一男二女の子宝にも恵まれていた。
次女のセシルは、姉妹の中で最も美しく、その美貌を見初められ伯爵家に嫁いでいった。若き伯爵夫人として、社交界の花として君臨していた。子供が中々出来なかった事を除けば、理想の夫婦として未婚の令嬢達の憧れの存在であった。
特に高位貴族との婚姻を望む下位貴族の令嬢にとっては、玉の輿の成功例でもあるのだ。
四女のコレットは、平民の商人に嫁いだ。王都でも有数の大店の跡取り息子である。その辺の下位貴族よりもよほど裕福であった。
彼女が平民の元に嫁いだのはお金が目的であった。と言ってもなにもコレット自身が守銭家であった訳でも、金に目が眩んだ訳でもない。
ただ時期が悪かったのだ。
当時のローリー男爵家が領地経営に些か失敗し、借金を背負ったのが理由であった。
セシルが嫁いだ伯爵家に支援を頼もうかとも両親は考えていたが、それは出来なかった。それというのも、セシルの立場は伯爵家で盤石では無かったためだ。何年たっても懐妊する気配すらなく、”石女”と陰で囁かれてもいた。表の華やかさとは裏腹に、セシルの内面は穏やかでは無かった。子供が出来ない事を理由に離縁を申し渡されてもおかしくなかったのだ。
そんなセシルの状況を理解していたローリー男爵家では、彼女やその周辺に家の状況を教えることは無かった。
それに、失敗と言っても数年で取り戻せる額でもあったのだ。
ただ、コレットとしては仲の良い姉であるアンヌが働きに出るなどして家計を支えており、下にはまだ幼い妹がおり、長姉にも幼い子供を抱えている状況での選択であった。
コレットの判断は正しかった。
彼女の結婚でローリー男爵家の借金は全て無くなったのだから。
五女のネリーは上の四人の姉達よりも歳が離れているせいか、両親だけでなく姉達からも大変可愛がられており、その容貌も将来が楽しみなほど可憐であった。
長じれば次女のセシルよりも美人になるのではないかと言われるほどであったのだ。
そして、アーサーと駆け落ちしたアンヌは男爵家の三女であった。
二人は父親同士が親友同士であったため、幼馴染でもあった。しかも互いに初恋から恋人になったのだ。アーサーが子爵令嬢と婚約しなければ結婚していてもおかしくなかった。
というのも、アーサーとアンヌの恋人期間は六年と長かった。
駆け落ち当時、アンヌは二十二歳だった。貴族令嬢の結婚適齢期のギリギリの年齢である。
平民と違って、貴族令嬢の結婚年齢は早く、十六歳から二十二歳の間に結婚するのが基本であり、それを過ぎると生涯独身ということもままある状況になるのである。
そう言った場合の女性は、後妻に入るか、修道院に行くかのどちらかであった。