男爵家の悲劇3
コレットが本当の意味で悪夢を見たのは、それからであった。
老貴族は穏やかで紳士的な性格であったが、特殊な趣味があったのだ。その趣味に付き合わされ、コレットは常に首輪をつけた状態であった。彼女が精神を病んでいくのに時間はかからなかった。
現実の辛さから、薬物に手を染めるのも早かったのだ。
愛らしい容姿とその慎ましやかな性質を愛していた老貴族は、それが一つでも損なう事を許せなかった。壊れゆくコレットに愛想をつかし始めたのだ。
アーサーがコレットに刺された時は、コレットが老貴族に捨てられた三日目であった。
事件後、コレットは精神病院に移されている。
引き取る者はいない。ローリー男爵家の縁戚は全員彼らと絶縁していた。役所から親戚筋に連絡は行っているようだが、皆が無視している。厄介ごとは御免だと言わんばかりの対応だ。
だが、それも無理ない事である。
フォード子爵家は十年前以上に資産を増やし、王都の商会は全て子爵家の紐付きであった。それは裏社会にも広がっている。そんな恐ろしい相手の怒りを買いたい者はいない。彼らにも家族がいるのだ。
十年という月日は、長いようで短い。怒り狂った子爵家の報復を忘れるにはもう少し時間がいるのだ。
そして、五女のネリーが一人残された。
フォード子爵家は、ローリー男爵家に一人残った末娘を引き取り教育した。賠償金の支払いは済んでいたが、親族は誰一人として末娘を引き取りたがらなかったためだ。
もっとも、養女にしたとかではない。ネリーは大変な美少女だった。引き取った時は、十二歳であったが、ネリーには妙な色香が見受けられた。長じれば、大輪の花の如く花開くであろう美貌だ。ネリーは高級娼婦として育てられたのであった。
子爵家の慧眼は本物であった。
ネリーが客を取ったのは十五歳。水揚げの金額は歴代最高がついた。
それ以降、娼館一の高級娼婦として今に至る。
その美貌と勝気な性格、頭の回転が速く、ウイットに富んだ会話、コロコロと鈴の音のような声が特に客の心を捕らえた。
ネリーが王都一の高級娼婦として名を馳せるには三年とかからなかった。彼女の客は高位貴族ばかりで、なかには王族もいるという噂であった。
上の姉達に比べたらまだマシな結末であったが、それでも貴族令嬢としては最悪の展開である。




