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ニコとロン  作者: 明鯉尾
4/4

ロン-2


「申し訳ありません!」


そろそろ退勤しようと考えていたロンのもとにかかってきた通信は、こちらが何かを言う前にそう言った。



ニコを害した相手が仮釈放されたのは最近のことだ。

奴の刑務所での態度は優秀とされ、ほとんど無害だと判断された。そう、奴は人間以外には普通の思考を持っていた。

いや、普通よりも善人よりだったらしい。不正を許さず、貧しきもの、弱きものには進んで手を差し伸べるような。

奴を捕まえるときも無罪を主張する署名運動があったりといろいろ厄介だったようだが、そんなことは今はどうでも良かった。



「どーいうこと?」



通信機を握りしめてそう言うと、向かいの席で書類整理していた同僚のしっぽがびびびとなぜか硬直したのが視界に入った。


通信の相手は奴を見張っていた警邏の者だった。

奴は仮釈放なので見張りがついている。万が一なにかあったら連絡してくれと頼み込んでいた。


焦っている様子でも状況を簡潔に説明した。

男が逃亡した、と。



「…」


絶句したロンに通信の相手は上ずった声で万が一のためニコの近くいてくれというが、その言葉は右から左だった。


──嫌な予感がする。



古来から狐族の予感は当たると言われている。


ロンは通話を切るとすぐさま家に向かった。途中なにか声をかけられたが、それどころではなかった。



「ニコっ!」



普段ゆったりとした喋り方をする彼にしては珍しく声を荒げて玄関を開けるが、そこには誰もいなかった。


すぐさま踵を返しニコの通っている学校の方へ向かう。

勢いよく振り返ったためロンのしっぽがぱしりと扉にあたった。


──大丈夫、まだきっと帰っている途中なんだ。


そう心を落ち着かせてニコのいつもの通学路をあたりを見渡しながら進むが、ロンの探し人は見つからない。

焦りがこみ上げてきてその場で暴れまわりたくなる。

もう人目なんて気にせずに大声で名前を呼んで回ろうとロンが考えたとき声をかけられた。


「あれ、ロンさんじゃん」


そう言ったのはロンがいつも贔屓にしている八百屋の店番だった。

振り向いたロンに彼女はいつも通りに世間話をしようとして、その顔が焦りでいっぱいなのを見て目を丸くした。


「どうしたのさ?ロンさんが焦ってるなんてめずらしい」


それどころではないロンは彼女を無視しようとして、焦った思考がようやく考えついた。



「ねえ、ニコを見てない?」



そう尋ねると、彼女は尋常ではないロンの圧に押され気味にうなずく。



「ニコちゃんなら見たよ。2刻半くらい前かな?りんごを見てたけど」


「どこいった!?」



ロンが必死の表情を浮かべたためか彼女も漸くなにか緊急事態が起きていると悟ったようだ。どうしたの、と聞いてきたのでとりあえずニコを探していることだけ告げると、彼女は徐に立ち上がり簡易天幕の奥の自分の家に消え、すぐに彼女の弟を連れてくる。


「いい、あんたに任務を与えるから。市場の非常連絡網。分かるでしょ?いつもの奴らとみんなに伝えて。『ニコちゃんの情報求む』って」


彼女の言った言葉に目を輝かせた少年は、コクリとうなずいて市場の人波の中に消えた。

事態が把握できずに彼女を見上げたロンに彼女は説明する。


「何かあったときのために市場には連絡網っていうのがあって。まあ隣の店はライバルだけど緊急時にはそうは言ってられないじゃん?

子供は一番はやく動けるから連絡網のことも早いうちから親に教えられててさ。あいつとその仲間の奴らに連絡網の拡散を頼んだの。…流石に私から発信してもみんなに回るのには時間がかかるから」


だから今のうちに学校まで行っておきなよ、と進められるままにロンは市場をあとにした。


学校にたどり着いたロンは受付で事情を話しニコがいないか聞いたが、全校生徒が帰宅をしたあとで誰も残っていないと告げられる。


高まる焦燥感に再び市場に向かうと、連絡網というだけのことはあり情報がすでに集まっていた。



「ニコちゃん、果物屋めぐりをしてたみたいだね。やっぱりりんごを買うつもりだったのかな。

一番近い時間に見かけたのは…もう3刻経つね。カルさんのとこみたい」


パンダの獣人らしい鋭い爪のついた手で八百屋の店番は市場の全体図を指差した。


「…ありがと」


彼女に礼を行ってニコを最後に見かけたというカルの店へ向かう。


しかしやはり3刻前に見かけたこと、りんごを熱心に眺めていたことしか情報を得られなかった。


ロンは再び職場に戻った。

通信機器は高価で一般世帯にはまだ普及しておらず、ロンの家にもない。何か警邏から情報が無いか聞こうと考えたのだ。


「あっロン!」



職場に戻るとロンの先輩であるトモが焦った様子で声をかけてきた。



「今警らから連絡があって、ニコちゃんが見つかったらしい!!」


「っどこですか!」


「市場の裏路地だそうだ」



ロンはすぐさま職場を飛び出し市場に向かう。その後ろをトモが追いかけて来ていたが、気にする余裕はロンには無かった。



市場の奥まったところ、人気のない裏路地に向かうと警邏が何人か立っていた。

名前を告げると中に案内される。


「よかった……職場に電話したんですがいらっしゃらないと聞いて…どうしようかと思ってました」


そう言ってロンに頭を下げた犬の獣人はロンに連絡をしてくれた人のようだった。



「ニコが見つかったって」


ロンが思わず詰め寄ると、彼はそうだと頷く。


「申し訳ありませんでした。完全にこちらの不手際です。奴はもう取り押さえてありますが、ニコさんと接触してしまっていました」



そう言った彼の言葉をロンはほぼ聞いていなかった。



「ニコはどこに?」


「…廃屋、にいたようで」


「どこ?」


「……まだ中に」



男は何故か罪悪感に潰されそうな表情でロンを見てくるが、一刻も早くニコのもとへ行こうとロンは示された扉を開けた。



「っニコ!!!」


埃っぽい部屋の中にいるニコを見つけた途端、彼女のもとに駆け寄ってすぐに抱きしめた。



「ごめん、ニコ…!」



ニコはロンにされるがままに抱きしめられている。

抱きしめられるという経験が無く、背中に手を回すように教えたのはロンだ。

今はその余裕がないのだろうとロンは思っていたが。



「本当にごめん…僕が買い物なんて頼まなければ…!ごめん!!」



「はい」



ぎゅうぎゅうと彼女の体を抱きしめてそう言葉を吐き出したとき、ロンは違和感に気づいた。


体を離し、彼女の顔を正面から覗き込む。



そして、自分の勘が最悪の形であたったことを知った。


「…ニコ?」


「はい」


「……ニコ、痛い、よね?」


「はい」


「……………痛くないの?」


「はい」



ロンに向けてアップルパイの作り方を教えてほしいといった彼女はもういなかった。

ガラス玉のような瞳でただこちらのいうことに肯定だけ返す人形のようなニコしかいなかった。



ロンは3年間慈しみ、大事に成長を見守ってきた彼女の心がまた粉々に壊されたことを悟った。



ロンがニコを離して取り押さえられていた男を振り返る。

彼の背後でしっぽがゆらりと蠢いた。


「……何年かかったと思ってる?」



ロンはそう言うと男を思い切り殴った。

取り押さえていた警邏の者たちも突然のことに動けず、男が地面に叩きつけられる。



「3年、かかったんだ。

………ねぇ?お前が壊した物がどれだけ尊くて、儚いものなのか知ってるの?」


ロンがそう言うとひぃ、と男が情けなく喚いた。

その緊張感に誰かがごくりと唾を飲む音がする。

ロンはもう一度手を振り上げると、壁まで這いずっていた男に向かって降ろそうとした。



「おい!ロンやり過ぎだ!!」


「っ!」


奴に振り下ろそうとした手を止められる。そのまま後ろで拘束されて、ロンは頭を殴られた。

その間に漸く動けるようになった警邏が男を拘束して何処かへと連れていった。



じっと殴った相手─トモを見返す。

ロンは気づいていなかったが、終始柔和な笑みを浮かべているロンにしては考えられない殺気が込められていた。

しかしそれに怯むことなくトモはロンを睨んで言った。



「俺がなんで殴ったか分かるか?」



「………患者のいる前で取り乱したから」



そう答えたロンにトモは彼の髪をぐちゃぐちゃとかき混ぜた。



「分かってるならやるな馬鹿!主治医が患者の前で自分の感情を見せてどうする!!」



そう怒鳴った。



警邏に促されてニコとロンは警邏庁にいた。

ロンの職場は警邏庁の心理局のため、職場に戻ってきたことになる。

ニコの手当をしてもらい、まずは奴の取り調べをするそうで、ニコから話を聞くのは少し時間がかかると言われてロンはニコを伴い職場へ顔を出しに向かった。


全てを放り出したままにしていたので机の上を一度片付けようと後ろにいたニコに声をかける。



「…ごめんねぇ、ニコ。少しだけ待ってて。

この椅子座ってて」


「はい」


そう言ってニコは指示通りに椅子に座った。洋服から覗く手当の跡が痛々しく、ロンは無意識に顔を歪める。そのしっぽは怒りで膨らんでいた。


「……先輩、これ」


そんな2人のやり取りを隣の席で眺めていたロンの後輩がそっとブランケットを差し出した。

ロンは礼を言ってニコにそれを掛ける。ニコは微動だにしない。


やがてある程度机の片付けが終わる頃、ニコが呼ばれた。

ロンも当然付き添いでついて行った部屋の中には一匹の三毛猫とロンに連絡をした犬の獣人が待っていた。


「…局長」


三毛猫─もといロンの上司に向かって呼びかけると局長はロンを見上げる。

ニコの隣に腰を下ろしたロンの肩に乗ると、簡易な事情確認が始まったが、それは困難を窮めすぐに終わった。



「えと、お名前はニコさんですね」


「はい」


「嫌なことや思い出したくないこと、言いたいことは言わなくても構いません」


「はい」


「じゃあ当時の状況を説明していただけますか」


「はい」



そう言ったっきり沈黙するニコ。取り調べをしていた犬の獣人がええと、と言葉を紡ぐがニコは何も言わない。


「その、お話して頂けますか?」


「はい」


「…」


「…」



そう、ロンが薄々感じていた通り、ニコは「はい」という肯定の言葉以外話せなくなっていたのだ。

取り調べが進むにつれて犬の獣人はニコの様子を見て察したのだろう、哀しそうな顔を彼女に向けて早々に切り上げると、ロンの方をちらりと見た。

おそらく自分に言いたいことがあるのだろうと察し軽くうなずいて見せる。

そのやり取りを見ていたらしい局長がロンの肩から降り、促されるままに部屋を退出したニコについて行ってくれたのを見送った。


ドアがぱたりと閉まると犬の獣人はおもむろに話し始めた。

彼が奴を見つけたときの状況と奴の事情聴取から鑑みた、ニコが受けた暴力について。


話を聞くにつれてロンは怒りとともに自分が許せない気持ちが募る。


──なぜもっと早く帰らなかったのだろう。

──買い物なんて頼むんじゃなかった。

──自分がずっと側にいれば。


後悔しても遅いことは分かっている。今の状態のニコに謝っても伝わらないであろうことも。


いつの間にか握っていたロンの拳は怒りとやるせない気持ちで力が篭もり、真っ白になっていた。


ロンが部屋を出て事務所に戻ると、ニコはいなかった。

辺りを見渡すロンに席に残っていたトモが告げる。


「ニコちゃんなら会議室にいるって局長から伝言だ」


「ありがとうございます」



そう言って会議室に向かおうとしたロンはトモに呼び止められた。



「……ロン」



振り向くとトモは獣色の濃い顔でもはっきりと分かるほど複雑な表情を浮かべていた。

そんな顔をする意味が分からず彼を見返すと、躊躇いつつもロンに言った。


「……お前あの子と一緒に暮らし続けるのか」



「そのつもりですが」



ロンにとっては全く予想だにしない質問だった。

そういえば3年前も同じようなことを言われた気がする、とぼんやり思い出す。

そう、あの時トモが言ったことをロンは覚えている。トモは反対したのだ。



「……俺はやめた方がいいと思う」



ちょうど思い出していたときと同じことを言われてついロンは苦笑した。

それを見てトモは苦虫をかみ潰した顔をする。



「お前はやり過ぎだ。…彼女に心を寄せすぎている。もう患者と医者っていう距離感じゃねぇぞ」



「…」



至極真っ当だと思った。

ロンとニコは医者と患者である。ロンは彼女の主治医だ。それ以上でもそれ以外でもないはずだ。



「お前がもしまだ彼女と一緒に暮らすのなら、主治医はやめた方がいい」



これも3年前と同じだった。

彼女と暮らすと言い張ったロンに対して彼は猛反対した。彼の言うことは正しいと頭では分かっていたが、3年前のロンは絶対に自分の意見が正しいとも感じていた。だからあの時はなんの躊躇いもなく両方譲らないと強く言い切ることが出来た。


──でも今は。



「……すみません、その話はまた後で」



そう言って逃げるように事務室を後にした。


会議室のドアを開けるととそこには椅子に座るニコと机の上にいる局長、こちらを振り返った後輩が揃っていた。彼女は先程ブランケットを貸してくれたナマケモノの獣人である。


「先輩…」


ロンを見て一瞬泣きそうな顔をした後輩を見返す。

この後輩は優しい心根をしているので、大方ニコの様子を見て彼女の心を慮り哀しくなってしまったのだろうと思った。



「アケス」


名前を呼ぶと彼女は唇を噛み締めたあと、いつもの表情を取り繕った。

そんな二人のやりとりにもニコは全く反応しない。宙をぼんやりと見つめている。



「…先輩来たので行きましょうか、ニコちゃん」



アケスがそう言ってニコに席を立つように促す。ニコはそれに従順に従ってロンの元へと歩いてくる。その顔には何の表情も浮かんでいない。

それをいつも通りの表情で見ながら、ロンは言葉にできない感情を噛み締めていた。


まるで3年前に戻ったかのよう。だが、ロンの中には確かに彼女と過ごした3年間が残っている。



──料理をしたいと言ったときの緊張した顔。


──抱き上げた時の焦った顔。


──頭を撫でたときの恥ずかしそうな顔。


──誕生日にケーキを焼いたときの驚いた顔。




哀しかった。

3年間彼女と大事に作り上げたとても大切なものが、たったの数時間で壊されてしまった。


彼女と一緒に過ごすほどこの虚無感はきっと増すのだろう。

だからロンは3年前と同じように彼女と暮らしたいと簡単には言えなかった。




「ロン、今日は君も彼女と一緒に帰宅しなさい。明日も休めるのなら休みなさい」



机の上でゆらゆらとしっぽを揺らしていた局長がそう言いロンはありがたく頭を下げた。

出口へ向かう後輩とニコを見ながら廊下を歩いていると、ぴょんと局長がロンの肩に乗った。

そのまま内密な話をするように耳元で囁く。



「ロン、彼女の今後についてだが、君はどうしたいんだ?」



未だ悩んでいることを先んじて言われ、ロンは数瞬迷ったあと答える。



「…彼女とまた暮らすつもりです。トモ先輩には止められましたが」



声を潜めてそう言ったロンを局長はじっと見つめたあと口を開いた。



「トモは優しいからな。もう一度関係を築き直さないといけないお前の心を気にしているんだろう。……彼女の心は閉じてしまったように見えるから」



トモの言った反対意見に同調するように受け取れ、ロンはぐっと拳を握った。

そんなロンを見て局長は噛み締めるように言った。



「…ロン。でもね、私は人間の心はもっと強いと信じているよ。

彼女の心は完全に無くなった訳じゃない。反応を返せないだけで、彼女はきっと分かっていると思う。

壊れてしまっても無くなった訳じゃない。君たちの過ごした時間は存在したんだ」



「…っ」



息を飲んで歩みを止め、下を向いたロンの顔を局長のしっぽがくすぐった。



「大丈夫だ、ロン。それに人間の心は物と違って意思がある。彼女自身だって治そうとする筈だ。あんなに楽しそうにしていたんだ。彼女も君と過ごした時間を取り戻そうとするだろう」


込み上げてきたものを拭って、出口の手前で待ち構える彼女とアケスのもとにロンは歩いていった。



2人と別れてニコと家路に着く。


玄関を開けると、いつも出迎えてくれたニコのことを思い出しロンは胸が痛んだ。

だがそれをおくびにも出さないように注意して無表情の彼女と向き合う。



「おかえりぃ、ニコ」



そう言うとはいと返ってくるのが哀しかった。


「えっとぉ…"おかえり"って言われたら"ただいま"って返してね」


「はい」


ガラス玉のような瞳で頷かれ、ロンはまるで本当に3年前に戻ったみたいだと思い苦笑する。


靴を脱がせてリビングに向かう。ニコはロンの跡を無言で着いてくる。

途中でキッチンを通ったが、当然ニコは何の反応も示さなかった。

……きっとアップルパイの作り方を教えるのは、また先の話になるのだろう。

そう思ってまた何かが込み上げてきたのを堪えた。



ソファに腰かけると、ニコが立ったままぼうっとしていたので、ロンは彼女を抱き上げて自分の膝に座らせた。


この体制をすると何時からか彼女は身体を強ばらせて降りようと足掻いていた。


──きっとそれが「恥ずかしい」ということを、彼女は気づいていなかったのだろう。




「っ、」


……堪えきれなかった。ついにロンは顔を覆った。

今日は大人しくされるがままになっているニコ。まるで本当にただの人形のようだった。


静かな空間の中でロンの嗚咽だけが響く。

ニコはやはり反応しない。



「ごめんね、ニコ。本当にごめん…」


「はい」


「僕がいけない…どうして買い物なんて……

痛いよね、苦しいよね、ごめんねニコ」


「はい」



何を言っても彼女は無表情ではいとしか返さない。

いつもの彼女だったら盛大に取り乱し、あわあわとロンを気遣っていただろうと想像して涙が止まらなかった。


──戻れるなら今朝に戻して欲しい。


ロンはそう心から願った。

そうしたらずっとそばにいたのに。



「………ニコ、僕を許さないで」



それははいと答えられると分かっていて言ったことだった。

ロンは彼女を傷つけた自分が、奴が釈放されていると知っていたのに幸せに油断していた自分が、何よりも許せなかったから。



「はい」



案の定ニコはそう頷いた。


それを聞いてロンは自分を嘲笑おうとして、彼女の顔を見て息を飲んだ。



「………ニコ」




無表情のままガラス玉の瞳から涙が一筋、零れていた。


ニコは泣いていた。

ただ彼女はそれに気づいていないように表面上は見える。


でもそれは紛れもなく彼女の意思の欠片だった。ロンは局長に言われたことを思い出す。



──壊れてしまっても、無くなった訳じゃない。彼女と過ごした時間は確かに存在する。



「ニコ!!」



彼女をぎゅうと抱きしめた。

ニコはされるがままになっているが、大丈夫だ、とロンは思った。



───例え壊されてしまっても。

何度だって君と一緒にまた初めから。



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