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ただ逃げ出しただけなのに……  作者: メロンよりイチゴ
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出口の遠い逃走路

逃げて逃げて逃げて逃げられるのか?

出口は近いのか遠いのか。

さて、再開致します。

馬車が走り続けるためには馬の体力が相当数必要なのだが今もその馬達は疲れも見せずに森を疾走して馬車を走らせている。

馬達には首輪胸当て脚甲にヴァースを吸収し体力に還元させる魔法玉がそれぞれに嵌め込まれている。

馬車にもヴァースを吸収すると馬車の総荷重が軽くなるという魔法玉が埋め込まれている。

馬車も引こうと思えば人間でも駆け足で引き回せる程に軽い。

何故こんな事を伝えているのかと言えば生き物であれば必ず必要なものがある。

それは例えどんな状況であっても体内に摂取しなくてはならないモノ。

そうそれは食糧。

馬であれ人であれエルフであれ食事は必要不可欠なのだが…彼等はまだ休憩を取れる安全地帯を探せてはいなかった。


魔王領の森にも例外無く安全地帯は点在する。

単に言えばリレズは安全地帯を見落とし走り抜けてしまったのだ。


冷静沈着に落ち着いている平常心のリレズであれば懐に入れてある自動書記魔法で描かれていく地図を見た筈だが余所見などする間のない戦闘の連続で疲労困ぱいの中で斥候に出たジーミルの帰還が遅れている事に焦りを隠せないでいた。



(落ち着け、僕、深呼吸するんだ。深呼吸…そうだあれも飲もう。味見しておかないと。)


腰袋から小瓶を取り出し一気に飲む。

苦くて酸っぱいなんとも言えない味だったが後味は爽やかだ。

小瓶に蓋をして腰袋に入れるとジーミルの帰りの時刻を知らせる魔法玉がリレズの掌の中で点滅し始めた。

点滅の間隔を指で数える。

ジーミルならもう帰って来ても可笑しくはない時間だ。

近くにはいる筈。

宝杖を掲げて行使した照会魔法の探知範囲内にはジーミルの反応は浮かび上がらなかった。

ジーミルは更に奥に斥候で潜り込んでいるのかも知れない。

リレズはかなり焦った。

だけど魔道士が焦りなどを仲間には見せてはいけない。

リレズは狼頭巾を両手で引っ張り深く被る。

戦闘に置いて魔道士が戦術の要でもある。

(だけど…僕の今の残りの魔法力では皆の足を引っ張るだけだ。あ、そうだ!探知魔法を使えば逃げられる!探査範囲を細く狭めれば安全地帯も探せる!)

リレズは外套の狼頭巾を後ろに下げ顔出して出せる声で馬車内の仲間達にリレズの決心を伝える。

卑怯者と言われても言い。

勇者パーティーを追い出されてもいい。

ミラエールに嫌われるのは辛いけど僕には過ぎたお嫁さんだった。

(ミラエールと過ごせた時間は僕の生涯の何よりも変えがたい宝物だったよ!)



リレズが腰袋から取り出した小瓶の蓋を開けるとグイッと飲んで大きく深呼吸をし始めた。

馬車内に緊張が走る。

リレズが危険な事を始めると言い出す前触れだ。

リレズと兄弟の様に仲のいいジーミルが斥候から帰って来ない事には皆が気付いていた。

リレズがジーミルの帰還時間を知らせる魔法玉の点滅速度をじっと見つめ指を曲げ計っていた。

宝杖を翳し何らかの魔法を行使していた事も。

魔法の行使を辞めるとリレズが狼頭巾を深く顎まで引き考え事を始めた事にも皆は気付いていた。

リレズの数ある危険な行動を始める前触れの癖を更にする。

皆出来るならリレズが狼頭巾を後ろに下げ顔出さないで欲しいと魔王領では届かないかもしれないがあらゆる神々に皆それぞれリレズの様子を見ながら祈りを捧げていた。

しかし、祈りは神々に届く事はなかった。

リレズが狼頭巾を後ろに下げ顔を出してしまった。


「僕がジーミルさんと安全地帯を探してくる。皆は少し馬車の速度を落として馬車隊全体を出来るだけ近くに寄せてイティアラさんとアエムさんの二人で馬車隊に丸い器を返したような防壁魔法を展開していて欲しい。防壁魔法を行使する分の魔法玉を二人に渡しておくから。」


いつも狼頭巾で顔を隠す照れ屋のリレズが顔を出してハキハキと喋りやはり飛んでもなく危険な事を言い出した!

イティアラとアエムの手にそこそこ大きな財布袋程の袋を手渡す。


「なっ!チミっこお前こんな重い物を持って回ってたのか!」


重騎士のイティアラが驚きの声を出す。


「へへ、いつもはこの中だよ。イティアラさん。」


リレズは魔獣の胃袋で造った濁りのない腰袋を見せる。

とても状態の良い丈夫な代物だ。

イティアラの持つ腰袋より良い物だと解る。


「リレズさんの腰袋はペタンコですよ?」


アエムがリレズの腰袋を手に持つと袋は平らの空のようにペタンコだ。

凄く手触りが良くずっと触っていたくなる。


「ちょっと貸してくれ。おいおいリレズ…こいつはまさかエンシェントスライムの胃袋か!はぁー♪綺麗に整頓しているんだな!少し中も見せてくれ。」


「うん、良いですよ。」


ロキウスがリレズの腰袋を手に取り袋の中に手を入れて驚きの声をあげる。

ロキウスの腰まですっぽりと袋に入っている。

アエムとイティアラとミラエールも口を押さえて固まる。


「どうやって手に入れたんだ?チミっこ」


「エルフの国に向かう途中に大きなスライムに出逢ってね運良く弱ってて胃袋を吐き出していたんだ。死にそうなのに死ねないって訴えてるみたいだったから胃袋を引っ張って切り取ってあげたらスライムが液状に溶けてその液がキラキラ輝いていたから持ってた空瓶全部に詰めれるだけ詰めて残りは勿体ないなぁとは思ったけど灼熱魔法で蒸発させた。」


「カーッ!王国にでも報告すればリレズ大金持ちになれたぞ…」


「うん、でも僕エルフの国に向かっていたし王国に報告して回収するまでに腐ると思って。あの大きさのスライムの体液が腐ると大変だから。」


「確かにチミっこの判断が正しい。スライムの腐敗は速いからな。もしマッドアンデッドでも沸いたら最悪だ。」


イティアラはリレズの頭を撫でていた。

馬車にいた他の者達は言葉を無くした。

死にかけていたとはいえエンシェントスライム。

天災級のモンスターだ。

それを魔道士がたった一人で立ち向かい討伐し伝説級のドロップアイテムまで手に入れていたとは。

更には新鮮なエンシェントスライムの体液までも採取出来たと王国薬師ギルドが知れば大変な騒ぎになるだろう。

エリクシールは無理だとしてもエクスポーションであればポーションの小瓶一本分で数千本は創れるだろう。

リレズが何本採取したのかは解らないがリレズは知識があっても価値を知らないと言うことが多々ある。

宮廷魔道士としてもとてつもない逸材なのは確か。

それにこの若さで宮廷魔道士いう事もこのパーティーであれば当たり前のメンツだと思っていたロキウスは自分がどんなに愚か者だったと言うことに今更気付いてしまった。

通称宮廷魔道士。

熟練の魔道士が数年に一人だけ合格者が出るかどうかという選ばれしエリート集団の若き精鋭。

王国の深淵の雷という通り名で貴族達を恐怖のどん底に落としたあの伝説の暗殺者ジーミルがリレズの事を兄貴と敬いジーミルが斥候に出る時も一番最後に頷き合っていたのもリレズにだ。

無言だったが「あとは任せたぜ兄貴」とロキウスには聞こえた気がしていた。

そしてリレズの危険な提案。

確かにエンシェントスライムの胃袋には驚いたが危険な斥候に魔道士が出ると言い出した。

ロキウスはミラエールの顔を見るがミラエールは顔を横に振る。

こうなるとミラエールにでも止める事は出来ない。

リレズのあの顔はエルフの国に単身で向かうと王と大臣達を集めて直談判した時のあの顔だ。

ミラエールも知っているあの顔。

エルフのみ会得出来る蘇生魔法を人間が会得するためにはその命をかけなければ到底人間の内包魔法力では足りない。

命を賭けた修行となるとミラエールもエルフ王の父までが止めた。

しかし修行を修めリレズは蘇生魔法を会得した。

会得したリレズは五日間も魔法力の枯渇で寝込んだ。

ミラエールは寝込んだリレズの血の気の引いたまるで死人のような顔が思い浮かぶ。


「リーズ。その提案ならジーミルも探せるのね?」


ミラエールは意を決してリレズに問い掛ける。


「一番いい方法とは言えないけどね。でもジーミルさんを見付けて一度魔王領を出た方がいいと思う。ここまでの地理を自動書記魔法で地図を書いていたんだ。忙しくて忘れてて…通り過ぎてるけど戻れば直ぐ近くにまあまあの広さの安全地帯がある筈。この地形なら馬車隊全部が休息出来ると思う。もし僕達が戻らなかったら留まらないで必ず魔王領を出て体勢整えて…もっと僕よりももっと強くて賢い賢者様を仲間にして…パーティーの力を底上げして…もし…もし拾えれば…僕と…ジーミルさんの骨を拾ってくれると…嬉しいかな?」


「バッキャロー!テメェらの骨なんざ拾ってやるか!チミっこ!帰って来い!絶対にだ!絶対に帰って来い!じゃなきゃミラエールは俺が嫁に貰うからな!」


女騎士のイティアラがフルフェイスで顔を隠したまま涙声で怒鳴る。


「リレズ…いいか?イティアラは槍使いだが…ベッドでは両刀使いだ、あれは本気だ。絶対に帰って来い!」


イティアラと付き合いの永いロキウスの言葉だ。

嘘は無い。

リレズはイティアラとミラエールがベッドで仲好く手を繋いで寝ている映像が頭をよぎった。

ちょびっと見たいかもと思ったリレズに


「ううん!」


とミラエールが頬紅く染めて咳払いをした。

直ぐ頭を切り替えリレズは袋から魔法玉を取り出しミラエールに手渡す。


「必ず帰ってくる。これが僕を探知すると点滅をする魔法玉。

こっちがジーミルさんの。これは僕がジーミルさんのを持って行く。ミラエール、僕の魔法玉を預かっていて。二王刻。それが過ぎたら必ずこの地図を辿って魔王領から撤退するんだ。緊急時だからやりたくないけど…宮廷魔道士ガザル・リレズが勇者ロキウスと以下の同士達に命ずる!これより私は同士暗殺者ジーミル捜索兼魔王領の森の安全地帯の探索に向かう!では行って参る!」


「「「ハッ神の御加護を宮廷魔道士様に!!」」」


リレズは隠遁魔法を自身に掛け風魔法の応用で低空飛行をしながらジーミルの探索をする。

自動書記魔法で正確な詳しい地図がどんどん書きあがっていく。安全地帯も点在していることが解った。

ジーミルが斥候に出て既に三王刻を過ぎている生きている可能性はかなり低い。

只でさえヴァースの濃い土地だ。

暗殺者のジーミルには見通しも悪く肉体を持たない魔族にミスリルナイフやミスリルダガーだけでどこまで戦えるのか。

ジーミルが進んだであろう道や場所を見付けた。

立ち木に真新しい一筋の線が刻まれていた。

ジーミルに事前に教わっていた暗殺者固有の印し(マーキング)


「兄貴、突き刺し向かう方へと切り込んで払う。どうでぃ?良く見ねえと只の切り込みに見えるだろ?自分だけが解りゃ良いもんは目立たねぇ様に小さく、仲間にも知らせる時は」


「深く長めの線。だったよね。ジーミルさん」


ジーミルの印しを探し魔法玉でもジーミルの探知をする。

微かに魔法玉に反応があった。

リレズは風魔法を強め更に速く低空飛行をする。

立ち木を軽々とかわし最短ルートでジーミルに迫る。

こんなに奥深くまで地図を持たないジーミルが斥候をした?

可笑しな事にリレズは気付く。

風魔法で低空飛行して来たリレズの移動速度であればこの距離の移動は可能。

でもジーミルは足だけで移動していた筈。

幾ら暗殺者と言えど馬車から潜り込んだ距離が遠過ぎる。

リレズの背中に嫌な汗が流れる。

この距離の移動を簡単にする行使された魔法は…

もう考える事を辞めリレズはジーミルの反応を目指す。

とても危険な賭けだがジーミルを助ける為には安全地帯を探す余裕などリレズにはない。

リレズよりも魔法に長けた魔族相手にどう戦う。

ヴァースの濃いこの地での戦闘は明らかにリレズに不利でリレズ自身の魔法力も戦闘出来る程残ってはいない。

戦うよりも逃げる事だ。

ミエータヨも言っていた。


「貴方よりも強力な魔法を行使出来る魔族からは逃げなさい。リレズ貴方は世界の、勇者達の要となる者に成長する。勝てないと少しでも感じたのなら恥ずかしい事じゃ無いわ、パーティーにも逃げる事を進言しなさい。宮廷魔道士の権限を行使してでも。」


ミエータヨのその言い付けを守る!

木々の隙間に魔族に対峙しているジーミルを見付ける。

更に風魔法を強め一気にジーミルに迫る。


「たくっ…王国の深淵の雷の名が泣くぜぇ…兄貴…どうやら俺りゃここまで見てぇだ。」


「グッグッグッ、無駄な事は語るな。人間。仲間はどこだ?言えば楽にヴァースにして私が取り込んでやろう。喜べ人間。さぁ、仲間は何処だ!」


「さぁな、今頃あんたの親玉の尻を皆で蹴りあげて…グフッ!」


怒りを露にした魔族の鋭い蹴りがジーミルを襲い魔族の爪先が抉る様に鳩尾にめり込みジーミルは血液の混ざった胃液を口から吹き出す。


「己!!人間!魔王様をよくも、よくも貶してくれたな!!貴様は楽には死なせん!吐け!仲間はどこだ!!」


「ブベッ!」


魔族がジーミルの顔面を地面に埋まる程強く踏みジーミルの口内が裂け口から更に血液が流れ出る。

今までに経験したことのない激痛にジーミルは意識が途切れ途切れになる。

(…へっ…格好付けちまった…ロキウスの旦那出来るだけこの森から逃げて…逃げてくれ…魔王領の魔族は今の俺達には強すぎた…リレズの兄貴…まだ一緒に…旅がしたかったですぜぇ…ここは…俺達の想像より…魔境ですぜ……奴らの使う…転移魔法の情報だけでも…伝えられれば…ああ、イティアラ姉さん…もう一度…生まれ変わったら真っ当な人間として…出会いてぇ…リレズの兄貴…今日までありがとうごぜえやした…楽しかったですぜぃ…)

追い討ちの蹴りがジーミルの腹に入りジーミルの身体が鞠の様に宙を舞い激しく横に飛ぶ感覚と身体中を襲う激痛にジーミルは意識を手放した。


リレズがジーミルの姿をようやく見付け出す。

黒い服に身を包んだ蝙蝠の様な翼が背中に生えた男に見える魔族が素早く動きジーミルを脚で蹴り痛め付けている。

殺すのではなく痛め付けている。

情報を聞き出す為に。

リレズの目が熱くなる。

魔族などどうでもいい。

ジーミルを救い出す!

リレズは隠遁魔法を強くかけ直し森に完全溶け込む。

ジーミルの身体が強く大樹に向けて蹴り飛ばされた。

ジーミルの飛ばされた速度に合わせ一気にジーミルに近付き抱き抱えせ瞬時にリレズは上空を目指し舞い上がる。

魔族が立ち止まり辺りを見回すがたった今自身が玩具にして遊んでいた人間が一瞬で消えた。

魔力を関知した魔族がリレズ達を追って飛んで来る。

リレズは魔族に目もくれず大空にぐんぐんと風魔法の速度をあげて上昇していく。

リレズ達の速度と高度に追い付けなくなった魔族は火魔法をリレズ達に向けて撃ちまくるとヴァースの薄い大空で魔力枯渇を起こし魔族は落下していった。

例え魔王領とはいえ大空高くまではヴァースは濃くは無い様だ。

ジーミルは優しい暖かさと身体が猛烈な速度で上昇する浮遊感を感じ目を覚まし潰れかけた目蓋を懸命に開けると鮮やかな蒼い大空が見えた。


「どうやら…グフッお迎えのようだぜぇ…あぁ空だ…天に…天に昇ってる…あれだけ命を刈り取ったのに…天に昇れるなんて…カハッ…神様も粋だねぇ…兄貴に礼が言いたかったんでさぁ…兄貴ぁ天使様だったんですかい?それとも天使様が…兄貴に似てるですかい?兄貴…お天道様のしたを旅させてくれてありがとうごぜぇました。俺ぁ、楽しかったぜぇ…兄貴…すまねぇ一緒にボルケーノドラゴンを狩りに行けなくなりそうだ…グフッ!へへ…なんだかふわふわして良い気持ちだなぁ天使様、グフッ…」


口から血液を吐き出して尚もお喋りをするジーミル。

意識が朦朧とし混濁している。

危険な状態だ。

リレズは腰袋から小瓶を一つ取り出し蓋をあけるとジーミルの口に小瓶の口を突っ込む。


「フルーツエールが苦手なジーミルさんが苦手な味だけど今は我慢して飲み込んで。体力の回復と怪我を早く治さないと。」


リレズはジーミルの口にエクスポーションの小瓶をグイッと傾けて押し込む。

ジーミルが素直に飲む。

〘注*リレズの造ったエクスポーションの小瓶は掌に収まる程のサイズだが中身の量はエール酒樽一個分程の量が入る〙


「ゴボゴボッ天使様の兄貴…ゲップ…まだ飲まなきゃ駄目ですかい?飲んだポーションで溺れそうでさぁ…そろそろ…口から溢れ出そうでさぁゴボゴボゴボゴボ」


口からエクスポーションを溢しながらジーミルが言う。

リレズは小瓶を咥えさせたままだった事を忘れていた。


「あっごめんなさい!!ジーミルさん!」


二人は雲の近くまで上空へあがって来た。

宮廷の本に書いていた通りならさっきの魔族はここまであがっては来れない筈。

リレズはジーミルの小瓶に蓋をしてジーミルの上着の内ポケットに入れる。

ジーミルの隠し魔道道具収納庫だ。

馬車三台位なら楽に入るそうだ。

リレズも中に入り遊ばせて貰った事がある。


「俺の懐のこいつを知っているのは兄貴だけだぁ。兄貴助かったぜぇ♪」


ニッカリと笑顔のジーミルの顔に血の気が戻った。


「良かった~、ジーミルさんに教えて貰った通りに捜したら見付けられたんだ。魔族に転移魔法を行使されたんだね。」


高度を保ち馬車隊を目指してリレズはジーミルの腰を抱き寄せる様にして飛行する。


「面目ねぇ。いつも通りに刻みを着けたあとでいきなりあんな森の奥まで飛ばされてよぉ。それからはアイツの球蹴り遊びの球替わりに蹴られ始めたとこだったんでさ。」


「ジーミルさんが口を割らないから?」


ジーミルは頷く。


「俺ぁ兄貴達の為になら命くれぇどうでもいいんでさ。俺と引き替えに兄貴達が逃げる時間くれぇ稼がねえと恩赦くれたあの別品さんのお姫様とお色気ムンムンのお妃様と兄貴や可愛らしいイティアラの姉さんに顔向け出来ねぇ、」


ジーミルはイティアラも好み様だ。

確かに鎧兜を脱げば身長の高いスタイルの良い顔も綺麗な長い金髪の女性だ。

両刀使いらしいけども。


「ジーミルさんはもう自由なんだ。過去の罪は恩赦で消えたんだ。誰にも気兼ねなんてしなくても良いんだよ?冒険者としても登録しているんだし街を鼻歌混じりで歩いてもいいんだ。そうだ!イティアラさんとデートすると良いんだよ!」


「あ、ア、アに兄貴?」


ジーミルの顔が真っ赤になる。

リレズは地図を辿りながら遡ると次第に馬車隊の反応が強くなる。

下を見ると密集形態で走る馬車隊を見付けられた。

馬車隊は魔王領の外を目指して走っていた。


「「馬車隊だ!」」


二人で叫び一気に下降し勇者達の馬車の御者に近付き


「「ただいま!」」


「うわあっ!?ああ、ジーミル様!リレズ様!!お帰りなさいませ!!良く御無事で!!」


「僕達が馬車に乗り込んだら馬車隊の速度を最高速度まであげてこの地形通りに走れば最短で魔王領を出られるから!!宜しくお願いします!」


「はい!心得ました!リレズ様!!」


「じゃあ少し速度を落として乗り込む」


声を掛け馬車の速度を落として貰い馬車に二人で乗り込む。

リレズとジーミルが馬車に乗り込むと馬車隊の速度がぐんぐん上がって行く。


「へへ、ロキウスの旦那ちっとヘマしちまった。悪い。」


ロキウスに謝罪をするジーミルの口から流れ襟までの血液の跡や防具の汚れや激しい損傷を見れば何があったのかジーミルがどれだけ危険だったのかが伺える。

ジーミルは死を覚悟せねばならない程の拷問を受けたに違いない。

ロキウス達を守るためその命を捨てようとしてくれた事は明白だ。


「ジーミル…危険な危険過ぎた斥候をさせた…すまなかった!俺が止めるべきだった…お前の命もリレズまでも失うところだった…」


「止めてくだせぇよロキウスの旦那。暗殺者の任務は全て危険な物なんすよ?謝らねぇでくだせぇ。俺も兄貴もこの通りに元気ですぜぃ。」


ニッカリと笑顔で微笑み合うリレズとジーミル。

しかし二人に負わせた危険はロキウスの読みが甘かった責任でもある。

自分ならば自分達のパーティーならば魔王領を突破し魔王を倒し御伽話の英雄様の様に凱旋出来ると最強の冒険者と呼ばれ勇者に選ばれた事をロキウスは過度に過信し自惚れていた。

その自惚れの上で立てた魔王領の森への強硬進軍により王国騎士団の精鋭達を大勢失い更に仲間二人の命まで危険に晒した。

勇者失格だと責められても仕方がない。

ロキウスは人生で初めての強烈な挫折を味わった。


上を向き涙が溢れてしまいそうな両目蓋を右掌で押さえ唇を強く噛み締めた。

鉄の苦い味が口に広がる。

強い酸味も苦味もしてくる気がしていた。

だが口の中に味が本当にしている。

(おおお?どんどん口に悪くない苦い酸っぱい味が流れ込んでくるぅ?)

リレズがロキウスの口に小瓶を咥えさせて飲ませている。

ロキウスにはいい感じの苦味と酸味だ。

例えるならエールにグリーンレモンを絞った様な味でなかなかいける。


「はい、ロキウスさん。グイッとどんどん飲んで。はい、イティアラさんもアエムさんも、ミラエールも。皆グイッと飲んで。今はここから逃げて魔王領を出る事が先決。」


「チミっこ、これ旨いな!」


「リーズ、これ凄く美味しい!」


「ぷはー!リレズ、この後は?」


「王国まで逃げる。」


「そしてどうするでぃ兄貴。」


「今日解った事を王様や貴族達に伝えてもっと力を着けなきゃ。武具も造り直さないと。今のままだとどんな精鋭達を人数集めても同じ事の繰り返しになる。もっと魔族を知らないと。魔族は魔物や魔獣とは全く違う生き物だと知らせないといけない。被害が大きくなるだけだ。」


「ちっ!そうだな。全く持って…チミっこの言う通りだ。俺の自慢の盾も槍や鎧も魔族にゃ歯が立たなかった。奴らにはアダマンタイトの槍がすり抜けちまう。」


イティアラが不満そうに言う。


「解った事は魔法は通じる。ミスリルナイフだと傷を負わせられる。武具一式全て俺達を含め騎士団、騎兵団、更に馬装具もミスリル製の物に変える事を優先にだな?リレズ。」


ロキウスが素早く魔族の弱点を言い当てていく。


「うん。それもかなり純度の高い質の良い物を。」


そう言うとリレズは、はっと思い出し恥ずかしそうにいそいそと外套の狼頭巾を深く被る。


「ちっ!あーぁチミっこがまた顔隠しちまいやがった。」


イティアラがリレズの狼頭巾を少しずつ後ろに下げようと引っ張る。

じたばたとリレズはイティアラの腕を掴むが太く力強い腕はリレズの腕力ではびくともしない。


「イティアラさん破けちゃう!これにも付与魔法を掛けているんだから付与魔法も解けちゃう!」


リレズの言葉に驚き慌ててイティアラは頭巾から手を放す。


「いっ!良質な狼毛皮外套に付与魔法ぉ!これ売れば屋敷買えるぞ!チミっこ!」


「やだよ。この外套は森大狼の毛皮なんだ。大切な…形見なんだ。絶対に売ったりしない…」


狼頭巾を自分の頭ごと大切そうにリレズは両手で抱え込む。


「リーズ?森大狼に出逢ったのですか?」


「うん。エルフの国の森の中で風の大魔法の修行中に毎日じゃなかったけど側で魔獣達から護ってくれていたんだ。」


「リレズさん森大狼は…リレズさんが?」


アエムの問い掛けにリレズは哀しそうにうつ向く。

狼頭巾を両手で引っ張り深く被り目の辺りを両手で何度も擦る。

リレズの両肩が小刻みに振るえている。

森大狼の事を思い出しリレズが声を殺して泣いている。

ミラエールがリレズを優しく包み込む様に抱き絞める。


「リーズ…貴方は森の王を殺したのではないわ。森の王から頼まれたのでしょう?」


ミラエールの問い掛けにリレズは涙を流しながら何度も何度も頷く。


「リレズ…辛かったよな?森の王はお前の友だちだったんだろ?辛かったよな。」


リレズの肩にそっと右手を置くロキウス。

ロキウスの問い掛けにも涙を流しながら頷くリレズ。


「私も吟遊詩人の唄で聴いたことがあります。何処かに住まう森の気高き王。森を護り森と同じく大きく強くなる狼。森の気高き王は森の成長を見定め新たな王にその座を託すべき時に心許す優しき強き者にその身を預け古き王の命を森へと還す手助けを乞う。優しき強き者だけが古き気高き森の王の魂を天へと(いざな)える。とても辛い事だったでしょうリレズさん。よく頑張りましたね。流石、宮廷魔道士ですね。私にはとても…出来ません。たぶん私ならきっと森の王をがっかりさせて食べられちゃってますね。」


「えっ!マジかよ…ロキウス…喰われるのか?マジかよ」


「森の王の伝説だぞ?子供でも知っているぞ。イティアラ。リレズの外套はリレズにしか加工出来ねぇしリレズ以外が纏う事も出来ねぇ。イティアラの怪力なら破るくらい出来そうだけどな。んな事してみろ。リレズがミラエールとジーミルを連れていなくなるぞ。たぶん」


「しねぇ!絶対そんなことしねぇ!チミっこ悪かった!本当に悪かった!いい狼の毛皮だと思ってたんだよ。森の王の形見か。そりゃ手離せねぇな。うん。そっか…チミっこ辛かったよな……チミっこ、さっきのアエムの唄のその身を預けって…」


リレズは頷く。


「リレズ…私から教えるわ。イティアラ、古き王はその亡骸を優しき強き者と新しい森の王と分け合って食べるの。そして優しき強き者を護る力と武具に新しい森の王は森の知識と魔獣達を屈伏させる力を受け継ぐ。森の王はそうやって継承していくの。リーズがこの毛皮を纏って森から出て来た時はなんて立派な毛皮を纏っているんだんだろうってずっと不思議だった。毛皮なのに悔しいくらいリーズを優しく抱き絞めているんだもの。森大狼…森の王、貴方なら…貴女?かも知れないけどリーズを護ってね?」


ミラーエルがリレズの頭から腰まで優しく狼の毛皮を優しく撫でる。

柔らかくしなやかで強靭な毛皮からリレズに対しての強い慈しみと愛情に近い優しさの感情をミラーエルは毛皮に触れる掌から感じ取った。


「じゃぁ兄貴は…森の王の身体を…てっ!ロキウスの旦那!!やべぇぞ!」


「ん?どうした?そんなに慌てて。」


「ロキウスの旦那!!兄貴のあの外套!それに御遺骨も!」


「あー、森の王の形見の毛皮だろ?まぁ骨もあるだろ。」


涙を拭いうんうんと頷くリレズ。


「ロキウスの旦那、伝説級のお宝を兄貴は纏って持ったまま街を王都を普通にフラフラ出歩いているんでさぁ!」


「ん?ジーミル。リレズの顔も名前も勇者一行の一人として世界中に知れ渡っている王国の宮廷魔道士だぞ?実力は近衛魔道士より遥かに上だ。そんな魔道士を襲えるか?それにな、あんな立派な狼に護られているって宣伝して歩いている様なもんだ。襲った奴がどうなるのか俺は知らんがリレズが手を下さなくてもそれこそ王国から確実に抹殺されるだろうな。」


「そいつは…襲う奴が馬鹿でさぁね。はぁ兄貴は心配しなくてもいいんですねぃ。」


「だな、それにジーミルの直訴の件もだ。あれはリレズのお陰の様なものだしな。」


「ソイツは知ってまさぁ。旦那の直訴状に兄貴の名前も書いてあったぞって王様にすんげぇ勢いで言われやした。兄貴が宮廷魔道士だったから俺の恩赦の直訴がすんなり通ったんでしょ?」


「まぁ、そうなんだ。知っているのか?ジーミル。」


「へ?何をですかい?」


「直訴ってな命を賭けて王様に頼みをする事なんだ。」


「へ?じゃあ…頼みが聞き入れて貰えねぇ時は…どうなるんで?」


「直訴状の筆頭者は王への無礼を働いた謀叛者として公開斬首刑か。直訴状に連名していた者は地位剥奪や爵位の没収のうえ公開縛り首か良くて生涯投獄生活か鉱山労働だな」


飄々と話すロキウスにジーミルは目を見開き馬車の中を見渡す。

思い当たる者達は全員それぞれ素知らぬ振りをしようと吹けない口笛を吹こうと頑張る。

リレズは深く狼頭巾を被る。


「旦那達は…俺の為にそんなヤバイ橋渡ったんですかい?俺は…そんな…兄貴…どうして…どうして!兄貴なんでそんなヤバイ橋渡ったんですかい?俺は王国の深淵の雷、幾多の命を刈り取った暗殺者ですぜ?俺は只の人殺し、只の罪人ですぜぃ…何故そんな…」


「ジーミルさん。ジーミルさんを助けた意味はあったよ。今日も。」


「今日も?俺は魔族に殺されかけただけでさぁ。兄貴が助けてくれたでしょうよ。」


「うん、でもそれだけじゃないよ!ジーミルさんがミスリルの武器を携行してくれてたお陰で魔族に対しての対抗手段や魔族がどうやって結界のない町や村の人々を一斉に(さら)うのかが解ったでしょう?」


「あ、兄貴!転移魔法ですね!」


「そう!ジーミルさんが命賭けで持ち帰った貴重な情報だよ!他の暗殺者なら持ち帰れたと思う?」


「そいつぁ、兄貴と色々打ち解けて話しをしていりゃ…あっ!」


「うん、ジーミルさんが今思ってくれた通りだと思う。」


ニッカリと口元でジーミルに笑顔を向けるリレズ。


「ああ、ジーミルだったからリレズが助けに行けた。ジーミルの居場所の特定が出来た。解ったか?ジーミル。お前をミエータヨが見付けリレズが俺に直訴の打診をした意味が。」


「ロキウスの旦那…兄貴…皆さんありがとうごぜえます。ありがとごぜぇます。」


「それじゃ、リレズ達が戻った。湿っぽい話しはここまでにして移動中だからこんなのしか食べれないが石みたいなパンや塩辛い干し肉よりはマシだろ?」


そう言ってロキウスの腰袋からは柔らかそうなパンに新鮮な葉物野菜と湯気の上がる肉が挟まれた涎の出て来る美味しそうな食べ物を次々に皆に配る。


「飲み物は果実のジュースで我慢してくれ。それじゃ俺達に食事をさせてくれてありがとう神様!」


「「「「ありがとう神様!」」」」


ロキウスには細やかな食事が皆には豪華で贅沢な食事だと食べなから教えて貰い驚くロキウスだった。


「モグモグ、で、ロキウスの旦那。宮廷魔道士ってどの位のお偉いさんなんでさぁ?」


「モグモグ、アァ、まぁそうだな。俺でも面会を頼んだら二週間位待たされるのが当たり前なくらいって言えばいいかな?アエム?」


「んー、下手をすれば一ヶ月は待たされると思います。ゴクゴク、美味しいピンクオレンジのジュースですね~♪」


「ゴクゴクッ!…グフッ…なんだか俺、チミっこ何て呼んでて良いのか?そんなお偉いさんなのか?チミっこ?」


「ゴクゴク、ぷはー!美味しい~♪大丈夫ですよ!イティアラさん、んー、でも待たされるとしたらそれっておじいさん魔道士達に面会のお願いをした時の話しなんじゃないですか?ロキウスさん」


「アァ、そうだなぁ。あのヨボヨボ爺な。やっと会えたのにプルプル振るえながらフガフガ何を言っているのやらサッパリ解らねえ爺達な。ゴクゴク、ゴクゴク。」


「あのおじい様方ね。でもリーズと同じの宮廷魔道士なんでしょ?モグモグ。」


「うん、あのおじいさん達は主に王都の結界を張っている人達だから面会が難しいのかも。ゴクゴク」


「へっ?兄貴じゃあ通称宮廷魔道士の正式名称は…」


「なんだ?ジーミルお前チミっこの正式名称を知ってんのか?モグモグ。ゴクゴク」


「姉さん。たぶん姉さんでも耳にしていると思いやす。王下宮廷結界魔道士団っすね…そりゃ…簡単には面会出来ねぇし…緊急時は兄貴の命令が絶対って言われた筈だぁ。ゴクゴク」


「ジーミル、ゴクゴク俺に解り安く教えてくれ。ゴクゴク」


「姉さん、ゴクゴク、ぷはーうめぇ~♪あー、騎士の姉さんなら王下竜騎士師団の団長と同格の魔道士団って言えば解りやすくないですかね?」


「チミっこ!お前すげえな!その若さであいつと同じ何てよ!」


「モグモグ、モグモグ、ゴクゴク、イティアラさんも若くて綺麗な女性の重騎士団長で凄いと思います!」


「そうか?チミっこお前可愛いとこいっぱいあるな!これも食うか?」


嬉しそうに大好物の土芋の油あげをリレズに分け与えるイティアラ。


「わぁ!ありがとうございます!イティアラさん!モグモグ。」


土芋の油あげが増えて子供の様に喜ぶリレズ。

リレズの口の回りを母親の様に清潔な布で優しく拭うミラーエル。

狼頭巾で目元は見えないが嬉しそうに口に土芋を沢山頬張るリレズ。

皆は食事を続けそれを微笑ましく見守る。


「ロキウスの旦那はいつもこんな新鮮な食べ物を持ち歩いているんですかい?」


「んー、ゴクゴク、ぷはー、まぁうまい果物を売ってる街や村に行けば搾り道具を貸して貰えるからな。ゴクゴク、ぷはー。その時に旨かった果物買って搾り貯めてストックするんだ。食い物も立ちよった町や村の酒場で拵えて貰うのさ。スライム系の胃袋で鮮度が保てる袋がたまにあるだろ?あれに入れてあるんだ。モグモグ。」


「あー、ありまさぁね。でもありゃぁ貯蔵量が少ねぇですよ?小さい木箱一つ分位とか。ねぇ、アエムの旦那」


「あー、少ない貯蔵量の袋ですね?あります、あります。その代わりにバザーとかでかなり安くで買えますね。モグモグ、ゴクゴク。」


「モグモグ、ゴクゴク。そうそう、たまにスゲーのが当たりにあるんだよ。俺のこの袋も安物だからまぁいいかって使っていたらいつの間にかたっぷり入れて持ち歩るける様になってたんだよ。モグモグ。」


「モグモグゴクゴク。へー、マジかー♪良い事聞けた俺も鮮度の保てるスライム系の胃袋は買って持つべきだな。モグモグ。スライム系なら柔らかいのと軽いし幾つか持ち歩くとしても良いな。モグモグゴクゴク。」


イティアラは自分のゴツゴツした腰袋を触りながら頷いている。


「まぁ、大当たりの胃袋って言えば。リレズのだな。鮮度も保てるしドラゴンが百頭でも楽に入るって言われる伝説の一品だ。」


「えっ?これが?モグモグ。」


「おいおい…チミっこ、やっぱりエンシェントスライムの胃袋の価値を知らないんだな…モグモグ。」


「ゴクゴク。リーズ…駄目よ?それを売ったりしたらリーズが危険な目に合うわ!それを持っているってお父様が知ったらエルフの国から出られなくなるわよ?モグモグ。」


「ゴックンッ!えっやだ何それ怖い!!ジーミルさんあげる!」


慌てて腰から腰袋を外してジーミルに差し出すリレズ。


「ブッ!兄貴!駄目すっよ!!俺なんかが持っていたら暗殺者ギルドが総力を上げて襲って来るのが見えるぜぇ」


飲んでいたジュースを少し吹き出し両手でリレズに腰袋を押し返し遠い目をしているジーミル。


「まぁ、エンシェントスライムの胃袋にしろ体液にしろ国宝級って事だ。リレズ。それに自分の姿を良く見て見ろ。お前、国宝級の物を全身に纏っているぞ?モグモグ。」


やれやれと言う風にリレズに身体を見る様に促すロキウス。


「…えっ?」


「モグモグ。リレズさん、リレズさんの宝杖もエルフの国宝ですよ。ゴクゴク。」


「ゴックンッ!…えっ?アエムさん本当に?ミラエール、そうなの?」


「モグモグゴクゴク、…リーズ…知らなかったの?」


「…うん、ミラエールのお父様が婚姻の式典の後に「ミラーエルの婿殿に何か贈り物をしよう。そうじゃ、人族の婿殿には少々重いかもしれんが魔力の通りの良い使い易い杖をやろう。ホホホ」ってくれたから…てっきりエルフの国でよく売られているものかと…知らなかった…」


「もうお父様ったら…」


「そんな風に言われて貰えばチミっこも価値なんか考えねぇよな?ロキウスももし「オオ、そこの人族の若いの!使いやすいが人族には少し重い剣だが貰ってくれガハハハハハ!」ってドワーフがくれたら剣の価値をわざわざ調べてから使うか?モグモグ、ゴクゴク。」


「あー、ゴクゴク、ぷはーそんな風に言われて貰えば調べねえな。モグモグ。ゴクゴク、よく斬れる剣だなー♪てリレズみたいに名前付けるかもな。ゴクゴク」


「私もこの弓をお母様から頂いた時も…王家の弓だとは知らされてなかったわ。ゴクゴク、リーズ、今まで通りに宝杖を使ってあげて。その杖は私が小さな頃からお父様の玉座の後ろにずっと飾られていたの。武器として造られた筈の物がただ飾られているって…まるで牢獄に閉じ込められている様な感じでしょ?」


「モグモグゴックン。うん、そうだね。僕らをあの逆境の中から助けてくれたから。この杖は僕の武器だ。我が名ガザル・リレズの名において宝杖レーヴァゲルディルをその名と命名する!我の生涯、命尽きるまで我と共に力を示せ!」


リレズが立ち上がり腰袋から取り出し掲げた宝杖が光り輝き始める!


〘我が名は宝杖レーヴァゲルディル、そして主の名はガザル・リレズ。相違無いか?〙


「うん、相違無い。僕がガザル・リレズだよ!」


〘主の名、主の声を記憶した。我今より主の為に力を振るわん!主よ、我を存分に振るうがよい!〙


「うん!宜しく、レーヴァ!」


〘おお、早速、我に愛称を!我の愛称はレーヴァ!更に我は戦えるぞ!主よ!〙


「うん!レーヴァ、戦いまでお休み。」


〘心得た。主よ、我は休息に入る。〙


宝杖の輝きが収まるとリレズは宝杖を腰袋に入れ胡座で座り何事もなかった様に食事を再開する。

時折リレズの頬に付いたモノをミラーエルが詰まんで取り自分の口に運ぶ。


「ゴクゴク、プハー。兄貴の杖は…インテリジェンス・ウェポンだったかぁ俺ぁ初めて見たぁ…」


「そう?結構あるよ。モグモグモグモグ、ゴクゴクゴックンッ!あーお腹いっぱいロキウスさんありがとうございました!」


「イヤ~♪まだまだ旨い物入っているぞ!それよりリレズ、インテリジェンス・ウェポンだったのにあんまり驚いてないな?見た事があるのか?」


「うん、ほら、おじいさん達の杖とか全部そうだから。」


「「「「えっ!」」」」


「フガフガ爺の杖も喋るのか?リレズ」


「うん…凄く…喋る…おじいさん達の部屋…凄く…うるさいんだ…」


リレズは思い出しただけでも嫌なのか耳に手を当てていた。


「兄貴、兄貴?大丈夫ですかい?インテリジェンス・ウェポンって兄貴の杖みたいなのを想像していたけど兄貴の杖が稀な静かな奴なんですかい?」


「うん、たぶんレーヴァが凄く静かな杖なんだと思う。」


「リーズ、宝杖が強力なインテリジェンス・ウェポンだからこの危険な旅に志願したの?」


「円卓の間でおじいさんの杖達が毎日凄くうるさ…ううん、ミエータヨさんから推薦されたしそれにミラーエルがロキウスさんの手伝いが出来るって言ってたから。僕も行かなきゃいけないって思って。」


「リーズ…」


リレズにミラーエルが口付けをしようとリレズの頬を両掌で挟んで顔を近付ける。

リレズも目を閉じ顎を少しあげる。

ロキウスが両手の指を開いて顔を覆う。

アエムは右手の人差し指指を口に咥えている。

イティアラとジーミルはニヤニヤしながら何度も頷き見守っている。


「オーイ、ミラーエル、チミっこ。俺達もここにいるぞ。」


「「あっ!ごめんなさい!!」」


「まぁ、新婚だし良いんだけどな?まだ敵地だからな。もうすぐ安全地帯だけど気を抜くなよ?リレズ、ミラーエル。」


ロキウスはニコヤカに軽く注意をする。


「「ハイ!」」


リレズとミラーエルは顔を紅く染めて返事をした。

鮮度の保てる便利な腰袋…欲しいな~。

何処かに売っていないかな?


ブックマークありがとうございます。

ゆっくりと執筆していきます。

コロナ禍皆さんも大変だと思います。

私も出来る事をして頑張ります。

まだまだ続きます。

ではまた。

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