第六話 通称、隻眼のサボリ魔先生の講義 3 冒険者ギルドを添えて
ディレウスに連れられてやって来た冒険者ギルドは、商業区と呼ばれる街の南の大通りに面した場所に存在した。
周囲の建物よりも広く見える建物は、両開きの扉を開け放っており中を少し伺う事も出来た。
「おっと言い忘れていたが丁寧な言葉はあんまり使うなよ、面倒なことになる」
それだけ言って躊躇い無く冒険者ギルドへ入るディレウスの後に俺も続いた。
内装は右側にカウンター、左は酒場と食堂が併設されており、中央に依頼の張られている掲示板があった。
その正しく冒険者ギルドという風体に、流石ラノベが好きな神様が造っただけあるなと謎の関心をしながらカウンターへと向かった。
「よぉ」
ディレウスが一番端のカウンターに声を掛けると、茶色い髪の少しそばかすの有る受付の女性がパチリと目を瞬かせた。
「珍しいですね、ディレウスさんがギルドに来るなんて」
どうやら、ギルドに来るだけで驚かれてしまう程にサボリ魔認定されているようだ。
「コイツの面倒を見る事になってな、トール、椅子に座れ」
言われた通り木で出来た椅子に座ると、またも受付の女性が目を見開いた。
「えぇ……、隻眼のサボリ魔が子守りですか? 世の中何があるか分かりませんね、きっと明日は雪ですね」
「んなわけあるか、いいから登録してくれ。そんでコイツとパーティー組むから一時脱退処理もな」
「ダンジョンへ連れて行くんですね、分かりました。では登録始めますね。初めまして、私は冒険者ギルド王都ヴァルトル支部のサーナと言います」
「トールだ」
「はい、トールさんですね、文字の読み書きは出来ますか?」
「出来る」
文字は元冒険者の父から、何かあった時に必要だからと教えて貰っていたので書ける。
というか丁寧な言葉遣いを封じられるとなんというか片言感が半端ないな。
家族とは普通に話せていたのだが、地球でも他人とは基本敬語を使っていたし、意識して敬語を使わないように気を付けると片言擬きになってしまう。
「では此方をご覧ください」
年季の入った薄い冊子がテーブルに広げられ、それを元にギルドの規約や活動についての説明を受けた。
要点だけ纏めれば、基本的に自由克自己責任。しかし冒険者同士のいざこざはご法度。更に自由とは言え所属する国の法律は遵守しなければならない。
ギルドの制度は、ランクによって受けられる恩恵が異なり、ランクはSからFまでに分けられる。
ランクが上がればギルドと提携している商業施設の割引や、指名依頼を受けられるようになる等々、色々と特典があるようだ。
因みに自己責任とはいえ、依頼内容の相違があった場合速やかに冒険者ギルドへ報告すれば違約金が免除され失敗扱いにもならないので、無理せず必ず報告するようにと二度三度説明された。
「説明は以上になります、冒険者へ加入致しますか?」
「はい」
「それでは此方の用紙の、此方と、此方の二か所に魔力ペンで署名をお願いします」
渡された魔力ペンという万年筆のような物に興味を持ったが、後でディレウスに聞けばいいかとさっさと証明をする。
「はい、ありがとうございます。それでは冒険者ギルドカードを発行いたしますので、彼方の食堂でお待ちください。先程もご説明いたしましたが、紛失した場合は速やかにお近くのギルドへお越しください。再発行には銀貨一枚掛かりますので、出来るだけ無くさないようになさってください」
「分かった」
場所を移動し食堂の奥で待っていると、パーティー一時離脱手続きを終えたディレウスが果実水を持って来てくれた。
「色々と聞きたい事がある」
「なんだ?」
「先ずは魔力ペンについて」
「魔力ペンってのは、当人の魔力を使って文字を書くことが出来る魔道具の事だ。貴族や商人の契約によく使われてんな。後は身分証を作る時にも必要だ。魔力ってのは個人個人で違うんで、犯罪を犯して逃げたらそいつの魔力を登録すりゃあ街に入る事も出来ねぇ。身分証作る時も登録されてたら弾かれるからな」
「バレなかったら?」
「スルーだな」
……それもそうか。そもそも国の法律にしろ人殺し等の最低限の何かにしろ、俺が今ここに居る事が答えであり、教団が街に入り込めているのが答えでもあるのか。
「暇だしさっきの身分証のシステムの話の続きでもするか」
「頼む」
「よし、あるところにそこそこ臆病で全うな王が居ました。ソイツは常々冒険者という武装集団を国内に孕んでいる事を憂いており、有る時国から冒険者ギルドを追い出しちまった。その結果、全ての冒険者ギルドが破棄されたと同時に他のギルドや市民カードに貴族カードを生成する魔道具まで動かなくなっちまった」
「破棄というのは、その魔道具を壊したという事?」
「いや、魔道具だけは接収したらしく魔道具の状況は関係無かったみてぇだな。その後その国はそれまで身分証のシステムに頼り切っていたせいで、本来なら街に入れない賊が入り込み放題で酷い有様だったらしい。その後各国が色々調べた結果、ギルドだけ残そうが、ギルド員も残して冒険者だけを追い出そうがシステムは止まった」
「……冒険者を禁止する事自体がシステムに引っかかる」
「気持ちわりぃだろ? そんでもって馬鹿な時の冒険者ギルド総帥は各国に圧力をかけて、死んだ」
「暗殺って事じゃなくて?」
「あぁ、冒険者ギルド職員の持つカードが突然発火し、本人も焼死した。他にも不正を働いた奴なんかも同じ末路だ。そっからはちょっかい掛ける奴も居なくなったって事だ」
「そもそもシステムの解明は出来てない?」
「あぁ、旧時代でも解明されなかった完全なアーティファクトだ。コピーして作る事は出来るのに原理が全く分からねぇらしい」
……どう考えても神の仕業だな。
この世界をラノベやゲームの世界へ近づける為に、冒険者がどの国でも活動できる状況、冒険者カードと身分証システムとの連携、それらはラノベで語らている世界だ。
だが現実になると管理外の武装集団が我が物顔で国を練り歩く恐怖状況を危惧して、話の王様のように排除に乗り出す出すのもまぁ分かる。
神様もそこを見越して、冒険者あるべしという強制的な世界を造ったのだろう。
全ては娯楽に似た世界を造る為に……、熱意が凄いな。
「お待たせいたしました、此方がティエトールさんの冒険者カードになります」
「ありがとう」
先程の受付の女性に手渡された手の平サイズのカードは薄い青色の金属板で、ディレウスに促されて魔力を流すと、そこには自分の名前と年齢それから冒険者ギルドランクが表示された。
「自分の魔力以外には反応しねぇからな。よしじゃあ帰るか。取り合えず今日はトールが何処まで動けるか確認して、明日からはダンジョンだな」
「俺十二歳だけどいいの?」
「あぁ、Bランク以上の冒険者が付いてりゃ中級のダンジョンまでは入っていいことになってんだよ。勿論パーティを組まないと無効だし、ダンジョンで子供が殺されたらランクダウン以外にも色々とあるがな」
「成る程」
正攻法でダンジョンに行けるなら異存は無い。さっさと強くなって隠れ家を見つけられるのがベストだ。
新緑の本部に戻って来た俺達は、木剣を使い庭で模擬戦を開始した。
魔術を使えることは黙っている。
独学で魔術を使うには先天的にスキルを保持しているしかない。もしスキル以外で魔術を使う場合、家族に教わるなりしなければならず、両親が魔術を使えない俺が魔術を使うのならば、スキル以外にはあり得ない。
だが、ただスキルを保持しているだけならば、剣と魔術を両方組み合わせて使えるのが当たり前だ。
しかし俺の場合職業を切り替えないと魔術が使えないので、俺が魔術を使えると言ってしまえば、剣術と魔術を両方使えるのに両立が出来ない歪な姿を見せる事になってしまい、それは俺のスキルを推測させる欠片となる。
だからとりあえずは剣術しか出来ないという体にして、追々何か魔術の職業レベルを上げる手立てを考えようと思う。
夜になると稽古は終り、家族に姿を見せたいという願いがすんなり叶い、両親が住む新居で共に眠った。
ディレウスとの差に歯がみしながら。