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邪教革命  作者: 令ノ金
第一章 邂逅
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第四話 通称、隻眼のサボリ魔先生の講義 1


 日が落ちて幾ばくか、寝落ちかけていた時に父は帰って来た。


「移動するぞ」


 完全に寝ている妹を父が背負い、宿の夜番をしている人に父が「知り合いに泊めて貰う事になった」と言ってチェックアウトした。


 夜の街は思ったよりも明るく、まばらに街灯が設置されていた。

 ……比べているのが森の中の暗さなので明るくは感じるが、日本の記憶がある俺からすれば物足りなさを感じてしまう。

 

 暫く大通りを進み、それから脇道へと入った。

 途端に暗くなる街を足早に抜けながら、父の背を見失わないようについて行く。

 更に裏道へ入ると人が路上に寝転がっていたり、うめき声や遠くの喧騒が耳に届くようになった。もしかしたら此処は結構ヤバイ所ではないのだろうか。

 

 背中に一筋の冷や汗が流れたところで漸く目的地に到着した。

 そこは何処にでもありそうなボロい木造の家で、父は躊躇い無く戸を少し開けて体を滑り込ませ、俺達もその後に続いた。


 家の中は明かりが無く不気味なほどに暗い。


「こっちだ」


 聞いた事のない押し殺した男と声が前方より聞こえ、それに父も小さく答える。

 この声の主が父の知り合いなのだろうか。

 

 声のした場所に辿り着くと、床の隠し扉が開けられており、奥からぼんやりと漏れる光源で地下への階段が見えた。


 階段を降りた先に広がっているのは、少し広い空間とそこに置かれた家具、そして此方を見る三人の男だった。


 俺達が降りてきたのを確認すると、そのうちのひょろながの男が階段を上がりそして扉が閉まる音がした。

 それを耳で捉えながらも俺は出来るだけ情報を得ようと頭を回す。


 家具はテーブルとベッドに椅子、カーペットも無く煉瓦で作られた一室、それからテーブルの上と部屋の対角線に三つのランプ。

 先程の宿と違うのは食料や特に酒の入っていると思われる樽やカップが置かれている事。

 

 そして最も警戒すべきなのが目の前の男性と、獣人。

 父と親し気に話している男性は、恰幅の良い細目な茶髪の男で、着ている物も街人よりも良質そうなので、そこそこ成功している商人と言った感じだろうか。


 そしてもう一人、左目に眼帯をした獣が二足歩行したような風体の人物。黒い毛皮と犬か狼のような顔、半裸で見える上半身はゴツい筋肉質で更に体がデカく見える。その人物は父を横目で見ながら椅子に座り、方肘をつきながら酒を煽っていた。

 

 チラリチラリと獣人の様子を窺っていると、一瞬目が合ってしまった。

 さっと目を離し恐る恐る獣人を見ると、まだ此方をじっと見つめていたので、今度は此方も見つめ返す。


 ニヤリと獣人は嗤うと、おもむろに眼帯を取った。


「え」


「なッ!」


 取られた眼帯、義眼でも見せて脅かそうとしているのだろうかという疑問は、その瞳の色に塗りつぶされて消えた。

 右の黒目と違い、眼帯に隠されていた赤い瞳、それは妹と同じ忌子の証。


 だが何故だか彼方の方が驚いているようで、驚きに目を見開きガタンと椅子を倒しながら立ち上がった獣人がゆっくりと此方へ近づいてくる。

 その異様な雰囲気に父と商人もなんだと此方を向くのが分かり、助けを乞うようにそちらを見ながら一歩下がると、瞬きの間に獣人が近寄って来て俺の肩を掴んだ。


 一体なんなのか、どうやったらこの窮地を抜けられるのか、ぐるぐると思考をしている間も呆けたように此方を見る獣人。

 まるでこの世に存在しない、常識の範囲外の何か恐ろしい物を見たような……。


 そこまで考えてハッとした。


 この世に無い、常識の範囲外、それを俺は持っているじゃないか!

 赤い瞳は魔族が宿る、もしその魔族が直接的な戦闘力では無く、鑑定のような何かだったとしたら……。

 

「こいつぁすげぇな」


 ポツリと呟かれた言葉に、やはりと気を引き締める。まだ顔が誰かに似ているとかそう言った可能性もあるが、何かを見抜かれたと考えるべきだ。


 だが、だとしてどうする? 俺達は庇護を求めてやって来た。求める側が出せる要求なんてあって無いような物だ。

 今はまだ得体が知れなさすぎる、兎に角情報を集めるのが先決だ。


「どうしたのですかディレウスさん」


「カーター、条件を変える。コイツを貰う、親父の方は店と家族の用心棒にでもすりゃあいい」


 俺を見つめたまま後ろに近寄って来た商人風の男に返答する獣人。


「それは!」

「黙れ! 安心しろ、殺しやしねぇ、いや、殺させやしねぇ」


 父の抗議の声を一蹴し、先程までにこやかに話していたカーターと呼ばれた男も険しい顔で獣人を見る。


「それほどなのですか?」


「あぁ、漸く我らが女神様が微笑んだってとこだな」


「……では直ぐに?」


「無理だ、まだな。取り合えずコイツと話をする、嫌われちゃあたまんねぇ。よぉ坊主、ずっと見て悪かったな、名前は何て言うんだ」


「ティエトールです、トールと呼ばれています」


「トールか、よしトール、今からってのはガキにはわりぃか。明日の朝一で俺と話そうや、悪いようにはしねぇ、お前の家族はちゃーんと守ってやるさ」


「……わかりました」


「おぅ、素直でよろしい」


 軽く俺の頭をぽんぽんと撫でた獣人は、鼻歌でも歌い出しそうな程上機嫌で階段を昇って行った。


「ふぅ」


 奴が扉を閉める音を聞き、漸く緊張の糸が切れてその場にへたり込んでしまった。


 辛かった……大男の圧もそうだが、獣人という慣れない人物、それにじっと見つめられている不快感、最も精神的に辛かったのが、幾ら考えても相手に委ねるしかないという状況だ。


「大丈夫トール」


「なんとか」


 駆け寄ってきた母さんと、途中から起きていた妹に笑みを向ける。

 家族には心配を掛けられない、多分これから家族と会える時間は少なくなるだろう。だから此処で弱音を見せたら俺の知らない所で俺の為に動いてくれるかもしれない。

 でもそれは逆に守りにくくなる。

 だから笑顔でいなければ。


「カーターさん」


「……予想外でしたが、その事については明日話しましょう。今日はもう遅いですし、上の隠し部屋にベッドがありますから、そこで寝てください」


 カーターさんは思案気な表情で父を窘めながら俺達を誘導し、地下室から出て更に奥に在る屈まないと入れないような小さな扉を開けて中へと入る。

 俺達もそれに続いて中に入ると、小さなランプが薄っすらと当たりを照らす寝室へとたどり着いた。

 ベッドの数は二つだったので、体格的に父と妹、母と俺で少し狭いながらも休息についた。




 翌朝、寝る前にもう少し色々と考えようと思っていたが、ある程度安全が保障された場所に体の疲れが一気に出て直ぐに寝てしまった。


 俺達が隠し扉から出ると、そこには既に昨日の獣人と商人風の人物が待ち構えていた。

 

 ……どうやら俺に考える時間はくれないらしい。


 用意されていたパンとスープを食べ終わると、獣人は詳しくは商人に聞くようにと父に伝え、俺の手を引きボロ小屋を後にした。

 

「大丈夫だよ」


 小屋を出るときに妹が不安げな顔をしていたので、安心させようと笑みを見せる。

 悪いようにはしないと言うなら、せめて一週間は夜になったら家族に会いたい、その方が家族を安心させられるだろうから。


 静かに小屋を出て、俺の歩幅に合わせつつも速足で街を抜けて行く。


「この辺りはスラムに近けぇからな、あんまり長いするもんじゃねぇ。トールの家族も今日にも移動してもらう手筈が済んでる」

「その辺りも後で教えてくれるんですよね」

「おう勿論だ」


 飛び出すように戻ってきた大通りは、朝一だというのに意外と人が居た。もしかしたら日が昇ると共に活動を開始する人が多いのかもしれない。

 

 大通りに出てからはゆっくりとした歩みで目的地へと向かってくれたので街を観察することが出来た。

 海外旅行にさえ行った事が無かったので、日本以外の街並みしかも日本とは全く違う様式の街並みが立ち並ぶこの世界は、世界丸ごとテーマパークになったような不思議な高揚感がある。

 もしかしたら、前世の深層心理ではラノベやゲーム等に自分で思っている以上に没頭していたのかもしれない。前世の娯楽は、俺の現実逃避に最適だったし。


 少しだけ昔を懐かしんでいると、大通りの中でも周囲より庭の広い家への前で止まった。


「到着だ。今日から此処がトールの家になる、新緑の護り手の本部だ」



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