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邪教革命  作者: 令ノ金
プロローグ:赤目
3/7

第三話 自分と魔物以外のファンタジー


 何日歩いているだろうか。

 家を捨て、森を進み追手を警戒する。それだけでも気が滅入るというのに、あの時の事が頭から離れなかった。


 初めて人を殺した。

 父と母にはよくやったと褒められ抱きしめられたが、二十六年間の倫理観が俺を糾弾する。


 だが心のどこかで何をそんなに気にする必要があるのかと呆れている自分もいた。


 父の反応を見れば、忌子というのは直ぐに殺されてしまっても可笑しくない存在で、そしてそれを隠し育てている自分達も同罪だと推測できる。


 彼らが自分達を殺しに来るか、若しくは街に戻って教会か国に報告するかされれば結局死ぬ。

 ならあの場で全滅させるのが最善である。

 だからこそ人を殺すという忌避感などという感情に惑わされず全滅させる事は合理的な判断であり、何を悔やむ事があるのかと自分を嘲笑っているのだ。


 ……切り替えよう、もし交渉に出たとして相手に先手を取られていた場合全滅していたのは間違いなく俺達だ。今はただ、生きている事を感謝しよう。




 父の話ではもうすぐ街に着きそこで一泊するという事だが、目的の王都に着いたところでどうにかなるのだろうか。


 父はこれから行くラトゥヴ王国の王都ヴァルトルに居る知り合いを頼ると言っていたが、忌子でも匿ってくれるのだろうか。

 だが父もそんな事は百も承知のはず、まだその街に知り合いとやらが居て更に昔の性格のままなら大丈夫だろう……、可能性は低いか。


 道中は妹が起きているときはこれから行く国の事、妹が寝てからは忌子の事を教えて貰った。


 これから行くラトゥヴ王国は山脈と海に挟まれた国で、自分達は東から国に入り王都を目指すらしい。更に西へ行くと獣人達の国があるのだとか。

 因みに北の山脈の先には帝国があり、自分達が住んでいた広大な山脈と森の奥には魔族の国が在るという伝説があるらしい。

 それとは別に森の奥には強い魔物が多いため、近隣の国は触らぬ魔物に祟りなしと領土を広げられないでいると教えて貰った。


 ……成る程、隠れて住むには打って付けの場所だったという事か。

 

 忌子については考えていたよりも状況が悪かった。

 なにせ伝承や占い等ではなく実際に人族に害のある場合が大多数だからだ。

 

 旧時代、今の時代よりも一つ前の時代、人族と魔族が長きに渡る戦争をしていた時代があった。その時代も何か強大な存在で滅びたらしいが、その旧時代を生きた魂が人に宿る事がある。

 それが忌子であり英雄である。


 澄んだ赤の目は魔族が宿った証拠、澄んだ紫の目は人族の英雄が宿った証拠。

 これは眉唾ではなく、確かな事実らしい。

 だからこそ忌子は恐れられ殺されてしまう。人族と争い憎んでいる旧時代の魔族が体に宿るから。


 実際生き延びた忌子に魔族が宿った場合、人族を敵視し殺す事例が多いという。

 最悪なのは魔王と呼ばれた人物で、彼の人物はあり得ない程のテイム能力があり、万の魔物を従え国を落としたと言われている。


 あまりに分の悪い話にため息さえ出なかった。

 伝承なら、眉唾なら、まだいくらか逃げようもある。しかし実際に起こる災厄であるのならば、頼れる人物も逃げ込める場所もかなり限られてしまう。


 そして、そんな存在をも匿ってくれるという父の知人への警戒心も増す。

 誰だって厄介ごとに関わるのは御免だろう、もしそれを受け入れるというのなら、それ相応の思惑があるはずだ。

 

 前途多難、これ以上に相応しい言葉は、今の俺には無いだろう。




 暫く歩くと森を抜け街が見えてきた。日が傾き綺麗な茜色が街を囲う城壁を照らす。

 この街は森から魔物が溢れた場合の最前線基地になるので、街を囲う城壁が他の街に比べてぶ厚いと父が言っていた。


 森の方から街へ入る人が少ないのか、小さな門と二人の門兵が居るだけで、父が何やら身分証を見せたらさっさと街へと入れてくれた。

 幸いと言って良いのか分からないが、妹は目を開かなければ忌子とはばれない。

 なので父に背負われ寝たふりをしている妹を、門兵は穏やかな顔つきで見ていたので気が付かれてはいないだろう。


「なんとか夜になる前に辿り着けたな」


 父の安堵のため息交じりの言葉を聞きながらも、俺は眼前の光景に目を奪われた。

 街は高い城壁に囲われているので外から伺う事は出来なかったが、門を潜って開かれたその街並みに思わず感嘆の声が漏れてしまった。


 石畳が敷かれ、煉瓦造りの家々やぽつりと木材や石造りの家がある、まるでアニメやゲームの世界に入ったようなワクワク感、さらに往来を行く馬車や冒険者と思われる人々、ローブやチュニックなどを着た正にゲームで見る街人と言った風体の人々がそれを加速させる。


 お上りさんのようにきょろきょろと街を堪能しながら、今日泊まる宿へと俺達は入った。

 部屋の内装はベッドとテーブルが置かれており木の窓が付いている程度の質素な部屋だったが、質素さで言えばこれまで過ごしてきた家も負けてはいないし、何よりこういった質素さが小説で見た宿屋その物であり愉快な気分にさせてくれる。

 

 だがやはり森の行軍は体に多大な負担があったようで、俺達家族は街の余韻に浸る間もなく眠りについてしまった。


 


 翌朝、朝一の乗合馬車に乗って街を出た。

 宿に着いてから、父が一人で街へ出てフード付きのローブと食料を買って来てくれたので、今俺達は全員お揃いのローブを着ている。勿論妹はフードを目深に被って目が見られないように気を付けている。


 正直もっと観光したかったが、状況を考えればそんな事をしている暇はないだろう。


 例の逃げた一人が仲間を連れてやって来た場合、俺達が何処に逃げたかを考えれば三つ四つしか選択肢が無い。そして可能性が一番高い場所へ逃げているのだから、見つかる可能性もまた高い。


 父に聞いたところ、俺達が住んでいた家の最寄りの街は、例の迷子が来た街と行きたかった国、そして今俺達が居る街しかない。後は細々とした村がある程度だ。


 選択肢は迷子が来た街ミルロへ逃げるか、行きたかったダナファ王国へ逃げるか、森か村に隠れてやり過ごすか、俺達が今いる街へ向かうか程度だ。


 前者二つは此方が逃げているのだから、態々相手のホームに行く危険性を考えれば取れない。

 希望的観測で、彼らはダナファ王国へ初めて訪れるの旅の途中だったと考えれば逃げる選択肢を取れる可能性もあるが、態々街道を外れる程に慣れ親しんだ道程であると考える方が自然だと思う。

 つまりその二つを良く行き来している可能性が高いのだから選択しずらい。


 となれば可能性の大きい選択肢は街か森か程度である。

 街の探索と森の探索、どちらが簡単かと言えば街の探索だ、なにせあの森には強い魔物がいるらしいから。

 つまり追手が、一番可能性が高く探索しやすいと迫って来るルートを俺達が今歩んでいるという事だ。

 

 見つかったら死ぬ鬼ごっこなんて創作の中だけで十分だ、勘弁してほしい。




 馬車で二日後、俺達は漸く王都へと到着した。


 王都の城壁前で下ろされた俺達は前に街を通った時と同じ手を使って王都の中へ入る。父と母は身分証明書を持っておりそれを門にある魔道具に翳して通っていた。

 父は昔冒険者だったというし、もしかしたらあのカードは冒険者カードなのかもしれない。


 そんな事を思いながら、初めての街を訪れた自分の焼きまわしの様にお上りさんをして先ずは宿を取った。

 そこから父は別行動をとり、知人を探すと出て行ってしまった。


 とたん暇になってので、窓から外を眺めて情報収集をして過ごした。

 勿論外から出来るだけ見えないようにしてだ、もし追手が既にこの街に着いており、俺の顔を覚えていて発見されたら最悪だ。


 とはいえ部屋に籠っているよりはこうして往来を見ているだけでも情報収集にもなるし、これまでファンタジーの世界に来たといってもファンタジーだったのは自分と魔物くらいなもので、アニメの中に入ったような不思議な高揚感に身を委ねたかった。









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