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邪教革命  作者: 令ノ金
プロローグ:赤目
2/7

第二話 妹の瞳



「父さん、行ってきます」


「おう、奥には行くなよ」


「分かってるよ」


 畑仕事をする父に手を振り、四年通っている山の麓の森へと入る。

 

 そろそろ十二歳の誕生日か。


 森の空気が生暖かく、今が春の中頃だと教えてくれる。

 季節感で自分の誕生日を知るというのは毎年不思議な感覚で、カレンダー等無い田舎の村の更に山の麓の森の傍でひっそりと暮らしている俺達には無用の長物だと分かっていても、前世の二十六年間の習慣が違和感を覚えさせる。


 郷愁のような不思議な気分を味わっていると、前からひょこりとゴブリンがやって来るのが分かった。

 緑の肌に身長は低く少し耳が尖っている容姿はいつ見ても娯楽で触れられているような風体で、自分がゲームの世界に迷い込んでしまったような不思議な高揚感がある。


 ゴブリンも此方を見つけたようで、何やら不快な何声を撒き散らしながら此方へ駆けてくる。


 ゲームやラノベを元にして創られた世界だけあって、この世界のゴブリンは弱い。

 駆けてきたゴブリンが繰り出す右ストーレートを軽く躱して足を引っかければ、ゴブリンはいとも容易く転んでしまう。

 その隙を見逃すことなく短剣で首を刺し離れれば、少し暴れたゴブリンは息絶えた。


 ゴブリンを斃した途端、なんとも言えない愉悦感が背中を走った。

 ……別に自分が加虐趣味に目覚めたわけではなく、ただレベルアップしただけなのだが、このなんとも言えない気持ちが毎回少し苦手だ。


 気を取り直して職業解放システムを呼び出す。

 念じるだけで目の前に現れるウィンドウは他人に見えず、VRMMOのアニメで出てきたメニューの様なコレはいつ見ても不思議な代物だ。


 まぁコレが神様から与えられたチートなのだし、俺みたいな一介の人間にはその原理が分かるはずもない。

 何かしらの超常的なアレでアレされているのだろう、考えるだけ時間の無駄だ。


 表示されている項目は四つ、画面の一番下に戦士、魔術師、商人、それから戦士の左上に派生した短剣士。今のレベルアップは短剣士がレベル3になった合図だった。


「……足りないな」


 せめてもう少し成長率が高いと有難いのだが……。

 今一度この力に何か抜け道が無いか考えてみるか。

 

 この力は神様に貰ったチートであり、自分の職業を選択できるスキルだ。

 職業にはそれぞれスキルが設定されており、例えば短剣士の職業をセットすれば【短剣術Lv1】のスキルが体に適用される。

 スキルレベルは職業レベルと連動しており、レベルを上げる事で新しく得られるスキルも職業レベルの数値分得る事が出来る。なのでスキル毎にレベル上げをしなくていいのは今後を考えるとかなり楽なのだと思う。

 だが即戦力を考えると、個々のレベル上げが潰されている分抜け道を探すのが厳しい。


 とすると、やはり強力な職業を開放するのが手っ取り早い。

 右上のログを見る限り、新たな職業を開放する方法は多岐に亘るだろう。


 例えば短剣士は王道な解放の仕方で、戦士をセットしている状態で短剣による一定の経験値を取得した為解放された。

 商人はそれとは違い、人族と一定以上の縁を結んだことで解放された。

 

 まるでゲームのようなシステムだが、この世界を造ったのがゲームやラノベが好きな神様らしいし、異世界転生というラノベ要素と職業を開放していくゲームらしさで二度美味しいという状態なのかもしれない。


 それは兎も角、俺の推測が正しければ、例えば経験が得られるまで走るであったり受け身を取るでも職業が解放されても可笑しくはないはずなのだが、レベルなのか他の経験値が足りないからなのか解放される職業はなかった。


 なので仕方なく王道の戦士と魔術それから短剣士のレベルを上げる事に注力している。


 ……のが今の状況だが、やはり良い案は浮かばない。

 勿論街へ出てダンジョン等のもっと魔物の多い場所へ行くのが一番いいのだとは思うが、俺はまだ十二歳の少年だ。両親の話では一応冒険者の仮登録は出来るようだが、十五歳まで本登録が出来ないらしいので焦っても仕方がない。


 仮登録は危なくない仕事を中心に、どうしても働かなくてはならない人の救済の為に設けられた物らしい。

 ただ偶に武器の扱い等の講習に参加できるので、俺にとって仮登録の意味があるとすればそれくらいだろう。


 ……まぁ家族を捨てて飛び出す気は今の所はないが。


 今生も家族には恵まれたと思う。

 頼りがいのある優しい父に朗らかな母、それからちょっと無口だが懐いてくれる可愛い妹。妹が六歳になった時には人知れずはしゃいだものだ。


 家族構成が前世と重なり、そんな事は無いだろうと思いながらも、しかし怖かった。また妹が幼くして亡くなるのではないか、両親が死んでしまうのではないかと。


 今の所は無事だが、その兆候はあるように思う。

 だからこそ、何とかこの力をモノにして家族を護れるようになりたいのだが、全く足りない。


 少し憂鬱なため息を吐き、森を回り魔物を斃し食べられる魔物は血抜きをして家へ持ち帰る。


 夕方前には家へ帰り家事の手伝いをする、変わりの無い一日、それが嬉しくもあり不安でもある。

 今度こそ家族と平和に暮らしていけたら嬉しいのだが……。


「どうしたの?」


「ん? いやなんでもないよ」


 夕食の時、そんな思考が顔に出ていたのか、目の前の妹が赤い目を不安げに揺らしながら訪ねてきた。

 取り繕って笑顔で答えたが、両親にも筒抜けだったのか何かあれば直ぐ言うようにと頭を撫でられてしまった。

 

 濃紺短髪で青い目の父、茶髪の長髪で碧眼の母、濃紺短髪碧眼の俺、そして茶色の髪を肩まで伸ばした赤い瞳の妹。


 元々俺達は少し離れた村に住んでいた。しかし妹が産まれると同時にこの人気のない森へと移り住んだ。


 父と母は何かと理由を付けていたが、現実に起こった事を羅列すれば一つの推測が立つ。

 それは赤い目が何か悪いモノと認識されているという事。


 この世界の宗教なのかそれとも別の何か理由があるのかは分からない、だがもしそうであるのなら、自衛に求められる力はその辺りの村人や街人を軽く凌ぐだろう。


 だからまだ俺には力が足りない、妹と家族を護りたい。前世の家族と重ねているのは分かっているが、それでも幸せになって欲しい。


 家族三人が亡くなってから仏壇の前で祈って来た願いだ、半端者の俺に新しい家族だからと割り切れるわけがない。

 だからどうにか俺の力がもう少し成熟するまで、何事もなく過ごさせてほしい。


 だがそんな願いは叶わなかった。


 翌朝、朝食を食べていると家の戸が控えめにノックされた。


「すみませーん」


 聞き覚えの無い声に両親を見るが、両親も険しい顔で戸を睨んでいるので知り合いではないのだろう。


 父は戸の前に置いてある剣を持ち、俺も腰にぶら下がる短剣を抜いた。

 妹は母の背に庇われ、絶対に後ろから出るなと厳命されている。せめて二つ部屋があったらそちらに妹を移せただろうが、家は昔使われていた猟師小屋を直しただけの造りだ、部屋は一つしかない。


「こんな辺鄙な場所に何の用だ?」


 父が戸を開け剣を相手に向けながら声を上げる。


「すみません道に迷いまして、ミルロの街からダナファ王国へ行きたかったのですが、この馬鹿が山脈の街道を外れて森を行くと言って迷ってしまいまして、運良く此方を見つけたのです」


 苦笑いをしながら語る優男は、ローブを纏い杖のような物を持っていた。

 他にも皮鎧を着た男性と優男の着ている青のローブは色違いの緑のローブを着た女性、それから一番後ろで面倒臭そうにしている皮鎧の男性がいた。


「そうか、それは難儀しただろう、ダナファ王国なら来た道を彼方の方角に戻るような感じで向かえば村がある、そこで一度方角を再確認するといい」


「そうですか、助かりました。その、本当に申し訳ないのですが、少し食料を買わせて頂く事は出来るでしょうか、銀貨でお支払いしたいのですが」


「トール」


「うん」


 名前を呼ばれたので、家の隅に置かれている葉に包んである干し肉を幾つか迷い人の近くに置き戻る。


「ありがとうございます、では此方で」


 優男が干し肉を拾い銀貨を置く。


「本当に助かりました、ありがとうござ」


 そこまで言って優男がぴしりと止まった。その視線の先にはひょこりと顔を覗かす妹がいた。


「……忌子」


「チッ」


 父が舌打ちすると同時に優男の首を斬った。


 突然の行動に動揺していた相手と俺達だが、その隙に帯剣している皮鎧の男性に斬りかかった父だったが、寸でのところで剣で防がれてしまう。

 

「あ、え」


 その間に俺も未だ混乱している女性に忍び寄り、飛び込むようにして喉に短剣を差し込む。その感触に嫌悪感が一気に襲い来るが、脳は冷静に周囲を窺うように命令を出し続ける。

 

 なんとか周囲を確認すると、父と剣を持った男の援護に向おうとしていた残りの一人が、女性を殺されたことに気が付き憎悪の目を血走らせて此方へ向かって来た。


「ぎゅぁ」


 だが父が男をなんとか斃したことで最後の男は踵を返して走って行った。父もそれを追うが追いつけないと見るや否やすぐさま家に帰って来て荷物を纏め始めた。

 母もすぐさまぼろの皮のカバンに食料をつめ、未だ混乱している妹の手を引き家を飛び出る。

 その迅速な行動に、きっと両親はいつかこうなる事を見越していたのだろうなとぼんやり思った。











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