表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪教革命  作者: 令ノ金
プロローグ:赤目
1/7

第一話 どうやら両親は主人公だったらしい

 

「……此処は何処だ」


 何故か三人掛け程の柔らかいソファーで寝ていたようだ。


 起き上がり周囲を伺うが、見覚えのない部屋に首を傾げる。

 まるで西洋に迷い込んだかのような部屋だ、落ち着いた深い緑のカーペットに大理石で出来ている様なテーブル、背後にパチパチと音を立てている暖炉。


「ッ」


 今一度どうして自分が此処に居るのかを記憶へ求めると、最後の光景がフラッシュバックした。

 コンビニに突っ込んで来る車、コンビニと車に挟まれる自分、割れるガラスの音。


「……病院じゃない? つまり死んだのか?」


 体を探ってみても違和感がない、あれほどの事故であれば目覚めて直ぐに完治している状態はあり得ないだろう。

つまり此処は夢の中かそれ以外のナニカか。


「あら、どうやら起きているようですね」


 不意に扉を開けて入って来たのは、綺麗で美しく愛らしさも兼ね備え日本人の様で西洋人の様でもある、綺麗な黒髪にも思えるが濃い濃紺の之までに見たことがない程に美しい女性だった。

 その赤いドレスを纏った女性が、メイド服の女性を伴い入って来た。


 女性は迷うことなく俺の対面のソファーへと腰かけ、侍女らしき女性が俺と女性の前に音もなく紅茶を並べた。


「思ったよりも冷静なようですね。初めまして、私は貴方とは違う世界の女神、と言っても世界を管理する役割に就いているだけですので、仰々しく神というのは少し気恥ずかしいですが」


「……初めまして、樹江と申します」


 女神、女神ねぇ、夢の可能性の方が高いが明晰夢と言うのは、こんなにもハッキリとした意識があるのだろうか? それとも事故で生死の堺を彷徨っているからこれほどまでに夢に意識を没入しているのか……。


 それともあれか、ラノベ的なアレなのだろうか、いやそれは余りにも現実的ではないが、しかし現実的を語るのならば一体目の前の女性は、そしてこの空間は何だというのか……。


「はい存じております、省吾さんと紗枝さんには大変お世話になりました」


「ッ、両親を知っているのですか!」


 女性から出た言葉に、ここ最近で一番感情が揺さぶられた。

 俺が十七の時に事故で亡くなった二人。俺の感情が乏しくなったのも、その時の精神疾患の影響だ。

 だから家族に触れる話題の時は、自分でも驚く程に感情が高ぶる。


「えぇ、信じられないかとは思いますが、ご両親は死後私の管理する世界へ転生して頂き、私の仕事を手伝って頂いたのです。その成果の報酬として、若くして亡くなる運命の貴方を他の世界へ転生させることを願ったのですよ」


「両親と同じ世界へ行けるという事でしょうか?」


「いえ、残念ながら違います。一つの世界で受け入れられる異世界の魂は二つが限度、殆どの世界が一つ迄です。なので貴方は別の世界へ転生することになります、貴方が望むのであれば、ですが」


「……一つお聞きしたのですが、妹はどうなったのでしょうか?」


「それは貴方が八歳の時に五才で亡くなられた妹さんのことでしょうか?」


「はい」


「彼女の魂は既に地球で規定の転生を果たしています、ご両親の願いで地球の神へ打診し幸せに生きて貰えるように運の力を高めましたので、彼女が地球で幸せに暮らせる事は間違いないでしょう」


「……そうですか、ありがとうございます」


 あの時の無力感は今でも覚えている。

 元々病弱だった妹が、退院し一週間家で過ごし、そして悪化して亡くなった。

 あの退院がどういう意図だったのか、今なら分かる。だが当時は妹が家に帰って来て嬉しくて純粋にはしゃいだものだ。

 だからこそ、妹の様態が急変して亡くなった時はかなり精神をやられた。


「……あの、両親がどのように過ごしているのかお聞きしてもよろしいでしょうか、それと若くして亡くなる運命だったというのもお聞きしたいのですが」


「構いませんよ。ご両親はそうですね、分かりやすく言うとチートで魔王退治みたいな感じですね」


 一気にファンタジー感が増したな……。


 成る程、どうやらラノベの主人公は俺ではなく両親だったらしい。事故でチート転生で魔王を斃す、なんとも王道なストーリーじゃないか。


 まぁあの二人はどうして社会で生きていてあそこまでピュアなのかと今にして謎な程清く正しい二人だったので、チートを授かったとしてもその力を違えて使う事もないだろう。勇者になるのも納得だ。


「若くして亡くなる運命というのはまぁその通りですね。貴方の場合は前世の行いによって短命の運命を背負って生まれた、ただそれだけの事です」


「そんな事があるのですね……、宜しければ更に質問させて頂いてもよろしいでしょうか? もし私が転生するなら、という事についてなのですが」


「えぇ、勿論です」


 ニコリと微笑んで答えて頂いた内容は、なんというか驚くべきというか予想通りというか、自分の合理的で現実的な半端な感性がそんな馬鹿なと呆れた声を上げてしまう程だった。


 一言で言えばラノベみたいなもの。

 意図的に文明を遅らせている中世ヨーロッパ風の所謂テンプレと言われている世界、そこに記憶とチートを持って転生する。


なぜそのような世界があるのかと問うと、この世界を造った神は地球の娯楽に嵌まっており、ゲームやラノベを模して幾つも世界を造ったのだとか。


 チートに関してはまだ決まっていないとの事。

どうも俺が転生する世界の神様と目の前の女神様は別のようで、彼女が両親の願いを叶えるために取り持ったようだ。


 俺が今から行く世界の神様はラノベが好きなだけあって、俺の事は大歓迎らしい。憧れのシチュエーションがと語られたと女神様は苦笑いしていた。


「チートの選択は二つあります。一つは自分で決める方法、勿論世界的な危機を及ぼす物や神を殺すような力は与えられませんので、その範囲で決めて頂く方法。もう一つは此方で決めさせていただく方法です、前者のような選択肢が無い代わりに、少しだけ力にボーナスが付きます」


「……ならば後者でお願いします」


「では彼方の神にそう言っておきましょう」


 色々とメリットとデメリットはあるだろうが、それ以前に世界に関しての情報が足りない。世界について詳しく教えてほしいと聞いてはみたが、それは行ってのお楽しみと言われてしまったのだ。

 

平均してどの程度のスキルを持っているのか、魔術を使える人物の割合はどの程度なのか、またその威力や汎用性における世界の人の認識はどうなのか。考えればきりがないし、それらを考慮出来ない時点で自分で決めるリスクが高いだろうと神様にお願いすることにした、ボーナスも付くみたいだし。


「これで転生に関しては終了です、最後に質問は有りますか?」


「では、産まれに関しては指定できないのでしょうか?」


「残念ながら出来ません、とはいえ最高で子爵家、最低でも村人になるようです。上位貴族や王族としての責務も無ければ、スラムの産まれでもないので、最低限の自由と餓死はしないと保証されています」


「成る程、ありがとうございます。それと宜しければ両親に感謝を伝えて頂ければと思います」


「えぇ、分かりました、必ず伝えましょう。それでは良き転生ライフを」


 女神様のその言葉と共に、俺の意識は黒く塗りつぶされて行った。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ