プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします。
「お前、探索者になれよ。」
辺り一面が瓦礫に囲われた場所、その一角に体を預けた中年の男は、目の前の子供にそう言った。
遠くの方からは怒号が聞こえ、鈍色の煙があちこちから立ち込めている。誰が見てもそこは戦場であった。
「探索者かぁ、ピンとこないなぁ。」
中年の前に佇む少年は、気だるげにそう返した。
「探索者はいいぞぉ。お前と同年代には次期剣聖とまで言われてる剣の使い手とか、聖女の再臨と称えられてる協会のお偉いさんとか、いろいろ粒ぞろいだって聞くしな。」
「んー、でもその人たち多分僕より弱いでしょ。」
「違いねぇな、お前は間違いなく1対1なら最強だ。」
そう少年に笑いかけた中年の男は身体中から出血していた。返り血に塗れた少年はそれを気にもとめないで話を続ける。
「僕になんの得があるのさ。」
「そらお前、青春が待ってるぞ?」
「はぁ?」
呆れたような態度の少年に、男はにやりと笑みを浮かべた。
「お前は強い。だから女の子から馬鹿みたいにチヤホヤされるに違いない。探索者はパーティを組むのが基本だしな、女の子まみれのパーティ組んでウッハウハよウッハウハ。」
「饒舌だな急に。」
終盤なんて訳分からなかったが、少年はやがて頷いた。
「でも探索者ってどーやってなんの?」
「そりゃお前、近道は王都の騎士学校だな。」
話が急に変わった。
目の前の男はいつもそうであった。ことある事に学校に行け、探索者になれ、そうすれば女の子に囲まれて世界を救ってその話が本になるんだと何度も言っていた。
「また学校の話?必要ないでしょ。」
「……お前、初対面の人間とパーティ組めんのか?」
「うっ。」
図星というか、そうなる事はわかっていた。
何も人見知りをする訳では無い。ただあくまで職業柄、初対面に気を許すことがないので仕方がないのだ。というか、それを教えたのもこの男だ。
「でも入学費用はどーすんのさ。それに、僕は学生になれる13歳まであと3年かかるんだよ?飛び級しろって言うの?」
「いいとこ気付くじゃねーの。流石、俺の息子だな。」
先程から笑みを絶やさない男は、しかし体から溢れる血と痛みに耐えながら言葉を紡ぐ。
「その3年で入学金を自分で稼げ。王都の騎士学校なら白金貨2枚、最安単位の銅貨換算で200万用意しろ。なぁに精々ちょっとした小売店の従業員の年収程度だ、3年間もありゃ楽勝だろ。」
「また勝手なことを……10歳に何させる気だよ。」
「これは、俺からの最後のおつかいだ。」
男は笑みをやめ、真剣な眼差しで少年を見つめた。
「俺が教えられることは全て教えた。そしてお前は今日俺を超えた。その技術、知識の全てを使って3年間を自由に生きて金を稼げ。んで、13歳になる年からお前は人との繋がりを学べ。そっから先は自由だ。」
「父さん……。」
男は腰から麻袋を取り出すと、少年に投げつけた。中身は、数枚の金貨と身分証だった。ただし、姓は少年の知らないものだった。
「これは?」
「先立つもの、とでも言うか。俺達の姓を語ってちゃ誰かが真実に辿り着いてもおかしくない。その名前を使って生きろ。」
「でもこの苗字は恥ずかしすぎるというか、狙いすぎというか、なんと言うか……。」
「うるせえ、サンタさんみたいで面白……いいだろうが!」
「悪ふざけで人の身分証偽装しないでくれる?」
いつしか、少年の口元からも笑みが零れていた。やがてその麻袋を腰につけると、男に背を向けた。
「じゃ、行ってくるよ。」
「おう、頑張れよな。ギフト。」
「うん。」
そうして少年は音もなくその場から消えた。
男はその背中を見守ると、小さく笑い、眠るように目を閉じる。
やがて男がいた瓦礫は、爆発と共に黒煙の中に姿を消した。
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これは、最強の暗殺者の元に生まれ、最強の暗殺者として育った少年が、最強の斥候として世界を救う物語。
お手数お掛け致しますが是非☆で応援願います。