覚悟の日—肆
「ねぇこれ乗ろ!」
元気にニコが言う。
「あー楽しそう! いいわね! 行く? ニクス」
「はぁ......。いいけどよお前ら、元気良すぎだろ」
今日は忙しいったらありゃしねぇ。
決意の日だっつの今日は。
もしかしてOVAの一話かな?
「ニクス君。僕は優雅にくつろいでいるから行って
くるといいよ」
「アブァ。お前は治ったのかよ。酔い」
「治ってる訳......うっ」
治ってないらしい。
キラキラは見なかったことにしよう。
忘れていたが、今日本当は2人でデートだったのだ!
しかも遊園地!
そんな日に勉強をしようとは我ながら愚か極まりなかった。
と、思うのもつかの間。
1秒で着く瞬間移動。
着いてくる妹とオッサン。
元気がいいのをいいことにコーヒーカップを最初にやるという阿呆ども。
まったく。
付き合う側のことも考えろよ。
酔ってるのはオッサンだけど。
「じゃ、2人で待っててー!」
「そゆことで」
と、言って2人——アナとニコはジェットコースターの大行列に並ぶ。
「元気がいいなぁ」
「だな。アブァ、大丈夫なのか?」
「何かいいことでもあったのかい?」
「男2人して女子に元気で負けてて......これっていい
事か?」
「ほら、あっちをご覧」
「ん?」
まだ微かに震える指で指し示すのは並び始めたアナたちの方。
口を大きく動かして何か伝えようとしている。
「チュ・ロ・ス・買・て・き・て?」
「だってさ」
「だってじゃねぇよ。あと、この距離でパシリの指
令を出すのは凄えな。ある意味」
「いや、僕は理解する方がすごいと思ったよ......」
「で、ここにアブァと食べようと思ったチュロスが2
本あります」
「気が効くねぇ君は。凄いよ。色んな意味で......」
「じゃ、渡しに行ってくる」
俺はさっさと小走りで向かう。
「立派なパシリだね」
そんな声も微かに聞こえた。
「「ありがと!」」
2人は声を揃えて感謝を伝える。
ま、俺の顔を見てないんだが。
というか、チュロスに目が行きすぎてるんだけどな。
「俺はまたあっちで待ってるからな」
俺がアブァの元へ戻ろうとした時。
「えい」
手が捕まった。
そのまま俺の腕はアナに抱き抱えられる。
抵抗なんてしない。
あぁ。柔らかい。
人間の部位にこんな部分があったとは。
「兄ぃ。楽しめ、よっ!」
じゃ、と言ってニコは俺の背中を押して喝を入れてから、ニコは列を離れた。
「ちょ、おま。な〜」
「女の子がこんなに奉仕してんの。堂々として
よ......」
私だって恥ずかしいんだし......。
と、顔が火照ったように赤いアナが言う。
な、なんなんだ......これは。
最高かよー!
おっと危ない。心の声が漏れかけた。
心の声が聞こえるアブァにはだだ漏れだろうな。
「ニクス。この遊園地ね、カップルの聖地なんだっ
て」
「へ、へー」
いかにもありそうなことをいかにも意味ありげなタイミングに言うなぁこいつ。
今になってわかるが、以外と育ってるんだなぁ。
いやいやいやいや。
こんなこと考えてたら2度とこんなことされる機会は無いぞ俺!
話題話題......。
「なぁ。いま並んでるジェットコースターってどん
なもんなんだ?」
「ま、大きめに言って絶叫系ね」
「まじか......」
絶叫か......。
テレビで見たことあるけどキツそうだなぁ。
「「「「「「「キャァァァァァァー」」」」」」」
「な、なぁ。ちょっとおい。これだよな?」
「これよ?」
いや、3000m(世界最長)、360度回転あり、足は宙ぶらりん、おまけに高低差はエグい。
絶叫は絶叫でも最強じゃん!
「ちょ......パス」
「ダメ。離さない。殺すわよ」
「これは手錠だったのか!」
なんて恐ろしい女だ!
力が強い強い。
一回ほどこうとしたら俺の腕からミシミシ聞こえましたよ?
「はなーさなーいからー」
「「虹」はそんな歌じゃねぇ!」
「景色もお楽しみくださいだって」
アナは看板を指さして言う。
「そんな余裕があるとは思えねぇ」
「そろそろよ」
「みたいだな......」
走り出した。
ジェットコースターは上に上がる。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタ。
恐ろしいカウントダウンだな。
「ね、ニクス!」
「なんだよ」
「好きって言ったらどうする?」
「はぁぁぁぁぁぁぁあああああー!」
急降下!
恋模様はしっかり上昇中なのに!
ていうか景色を楽しむ所の話じゃねぇ!
アホ毛取れる!
「アナ!」
「何? 舌噛むから喋るのやめておけば?」
「いや! 今なら干物の気持ちがわかるなって!」
「そうね」
俺らは同時に顔を見あわせる。
不意に2人に笑いが生まれる。
彼女はぶっ飛びそうな前髪で
「好きよ」
「知ってた」
またカタカタカタカタカタカタカタカタと、力溜め。
「俺も好きだ」
「あら奇遇ね」
「奇遇って、本当にお前俺を好きかよ!」
「んー。まね」
「おぃぃぃぃぃいいーーーー!」
どっちだよ!
わかり辛ぇな!
——
「やっと着いた......」
「ニクス君。やっぱいいことあったでしょ?」
「そうだな」
「兄ぃ。よかったねぇ」
俺が絶叫マシンをちょっと好きになった日だった。




