決戦の日——un
「頼もうか」
アブァの低い声とともに俺とカメオは中へと入る。
ここは道場だ。ニコの通っている道場であり、俺の通っていた道場。鬼の住う道場でもあり、俺らが夜に1日ぶりに入った場所。
ちなみに現在、夜である。
こんな場所に入り浸っている俺らは流石につかまれるだろう。容易に。相手が通報しない限りは。
「来たか」
道場主——小谷小太郎は蝋燭の明かりという、なんとも風情ある道場に仕上げられていた。
ここまでされたらここを壊しづらいじゃないか。
死ねばいいのに。
おっと、心の中の声が漏れそうになった。
「じいさん。今度こそ決着だ」
「こっちの台詞じゃ若造。来い」
まだ彼は座禅をしている。しかし、来いと言われた。
これは俺ら(俺とアナの2人で攻めるのは前回通り。だが、今回は秘策がある)は試されているのか? 最低限の礼儀を重視されたのか。それとも余裕なのか。
まぁ、それはどうでもよかったのかもしれない。
「『衝撃波』!」
アナは早々に仕掛ける——避けるかと思われた瞬間。
「ブシュッ」
最近良く聞く、いつになっても慣れない音がした。
彼の体にあいた穴。おそらく五臓はないだろう。
「は……」
避けられなかった。……のか?
数秒後、それは違うと証明された。
「はっ。ははっ。はははっ。はははははは!」
恐ろしい男だ。五臓が抜けたまま盛大に笑っている。
「な、何者なの……」
「何者かと言われれば、こう言うのがよかろう」
彼の体は治っていっていた……。
肉が元に戻っていくほどグロくはないが、再生しているようだ。
「『イザナギ』だ」
——
『イザナギ』
日本神話における最初の2人のうちの1人。妻としてイザナミを持つ。イザナミとは、すべての神を生んだものの名で、その夫ということは、全ての神の父親とも言える存在だ。
よって、日本神話において最強と言えなくもない。
——
「なっ……」
アブァは顔を真っ青にして言う。
俺はとてもとても浅い知識を披露したが、それ以上に物を知っているアブァはその凄さを恐ろしさと捉えられるのだろう。
勿論俺も凄いとは思う。
が、俺と渡り合っていた時点でそうでもない。そう思ってしまったからにはそうでもない気がする。
「ニクス君。予定通りよろしく」
「おう」
装具展開——シヴァ。破壊神の爪を装備する。
「今更何をしようと無駄だ。お主らには勝てない」
まだ余裕でいる。
当たり前だ——さっきの再生を見せつけたのもそうだろう。
「まぁ、そうだとしても、だ。手合わせ願おうか!
師匠!」
俺は老人の頭を砕きに行った。
『増長』にも慣れ、身体能力向上はお手の物だ。
高速で近づく。
しかし、老人は動かなかった。ていうか、目さえも開けていなかった。まぁ、当たり前かもしれない。再生するんだからな。
が、しかし、俺はその手が止まる。彼の頭の目の前で。
彼は砕かれなかったことに違和感を持ったか、目を開く。
その目から発せられたのは石化光線か、俺の体は彼の目によって固まってしまった。まるで、蛇に睨まれた兎だ。痛くも痒くもないが、動けない。アナの威圧より強い。反抗する意識さえも薄れていく。
何故だろうか。
それはそのままの理由なのかもしれない。
俺は最高神(?)の前に立っているのだ。その神性に圧倒されるのもありえるのかもしれない。
俺はそう納得した。
納得してしまった。
「弱いな」
彼の口からはそんな言葉が発せられた。
肩の、腕の、膝の、足の、足首の、首の、右手の、左手の、右足の、左足の、全身の。
全ての力が抜ける。
ドサッ。
そんな音も聞こえたのかもしれない。
痛みさえも感じなかった。
——
ドサッ。
ニクスは倒れる。
お爺さんに触れることすらできずに。
「ニク……ス……?」
死んだわけでは無いらしい。ニクスは死んだら死体ごと消えてしまう。だから、まだ生きているようだ。
「アブァさん!」
「了解」
彼は口小声で何かを言う—恐らく、『空間転移』だろう。彼の手元に瀕死のニクスが抱えられる。お姫様抱っこ—それ、私もして欲しい。したことあるけど、されたことないもん。まぁ、アブァさんよりもニクスにしてもらいたいかも—だった。
「アナ君。僕はすぐに戻ってくる。それまで粘りっ
ていておくれよ」
ニクスの死体、というよりは仮死体か。それを家に持っていくのだろう。
「小娘。どうした。来ぬならば帰れ」
『宣戦布曲』。私は私を最大限に強くする。
準備しとけよってツッコミはニクスを盾にしておく。あれが秒で倒されるなんて考えてもいなかった。
「勝つ」
「ははっ。やってみよ」
軽く笑われた。私は装具を一度解く。
「究極解放——イージス」
私の秘策だ。




