天下の日—ゼックス
「はぁ! 」
大声で叫び、自分を奮い立たせてダッシュする。
「ふぅ」
と、言って老者は力を抜いたようだった。次の瞬間、また一瞬で近づいてきた。
また、辛うじて剣で受ける。でも、これだけで終われない。私は鎧の中に仕込んであったダガーを取り出す。身を切って骨を断つとはよく言ったものだ。ちなみに、このダガーには毒が仕込んである。
「卑怯な真似を」
「少し、暗殺されることがことが多いですから」
でも、未遂に終わって、目論んだ人の命も終わりましたけれど。と、私は付け足し、脅すように言った。何故こんなことを言ったかは自分でも分からなかったけれど。
「はぁ! 」
「.........」
珍しく受けの姿勢。それでも、私はこのチャンスを逃せなかった。騎士王たる私が.........。プライドが余計に私を焦らせる。攻撃の手は緩まなかったのは良かったが、1発1発は弱まっていた。老者はそれを見逃さなかった。簡単にいなした。私はいなされた。いとも簡単に。また焦る。勝てる気がしない。左手のダガーも上手く使えない。無力感が凄い。
「くっ」
私は押してはいたが、相当消耗していた。集中力も、体力的にも。奥の手は——まだある。でも、使うには早い。この体が無事である可能性の方が低い技だし。
「アーサー! 」
兄さんは私に叫ぶ。それまで気づかなかった。
兄さんやアナ、マーリンが戻って来ていた。少し戦闘から意識が逸れ、攻撃の手が緩んでしまう。私のペースは崩れた。敗因にこそならないが、不利になるためには十分過ぎた。
「よそ見禁物! 」
「くっ」
強烈な切りつけ。
剣で受けたが、その剣はとても重く、私は守るには薄すぎる守りだった。私は弾かれ、後ろに下げられる。壁まであと少しだった。私は少し考えたあと、作戦を実行した。
「はっ! 」
ダガーを投げ老者(老者と言うには強すぎるが)を狙う。しかし、それを、ものともせず弾かれる。その隙に私は近寄る。しかし、私は攻撃しない。攻撃をせず、間合いに入る。
「むぅ? 」
「.........」
力を抜く。もちろん最低限の動きはできる程度にだ。剣技を受けに行った。でも、私には確信があった。倒せる確信が。
現在、2人で隙を見合っているが、私も老者も隙など見せられる筈が無い。
私は少しコケる。コケるというか、少し。ほんの少しだけバランスを崩す。しかし、老者は見逃さなかった。凄すぎるだろ。殺され——はしない。というか、狙い通りだ。もしかしたらさっきコケたのはマーリンのせいだったのかもしれない。
「ぬるい」
「そう言うな。老者」
珍しく縦振りでは無く、横振り。
私は剣で受けた——と見せかけた。剣を直ぐに手放す。案の定剣は体育館の壁に刺さり、私はその隙に。私は放った剣撃を空回りさせることによって相手の隙を作り、突いた。懐に入るなり、攻撃開始だ。鳩尾を刺すように殴る。生身の人間がそうそう受けきれるはずが無い攻撃。そのまま吹っ飛んだ。壁にめり込む。死んだ.........か? 死んだ気がする。
でも.........。
——
「倒した.........」
俺はポツンと呟く。
「流石ね。でもまぁ剣を捨てなければな
せない技でしか勝てないとはどんなジジイよ」
と、アナも勝負を振り返る。
「そうだね」
と、軽くアブァは対応する。
「ていうかあれほんとににんげんか? ていうかほんとにしんだのか? 」
カメオはあーたんに聞こえるように言う。
「それは.........」
あーたんは反応した。そして、彼女も同じことを考えていたようだ。確かにあの強さの者があの程度の攻撃で重症。ましてや死亡なんて有り得ない気がした。
でも動く様子はない。動いた様子もない。
目を逸らした瞬間、
「人間は愚かよのぅ」
そんな声が聞こえてきた。聞いた事のある声音。それはよく道場で響いていた声だ。そして、とても嫌いな声でもあったあの声だ。
俺は声のする方向を向く。
「神の御前だ」
と、言ったのはジジイだった。1度は死んだかと思われたあのジジイだ。しかし、さっきまでの道場の師匠が来ている服ではなく、金色で、なんというか分からない。よく、時代劇で出てきそうな陣羽織っぽいものを着ている。
また2R制かよ。
「アーサー。これは不味い。出来ればこいつとは闘
いたくないくらいに」
「アブァ。どうしたんだよ。いつもなら軽く「殺ってやろー! 」とでも言うと思ったけど」
「ダメだよ。今回ばかりは。僕とアーサーが力を出せない」
「なんでだよ」
「太陽に近づき過ぎた者の翼はもがれるのが落ちだろう? 」
何処かで聞いた事があるような—ないような。
「でも、勝てないってことは.........」
アナは心配そうに言う。
「あぁ。逃げることも辛いだろう。前回のように脱出でもいいが、それでは追い付かれる可能性がある」
「.........は? ちょっと待て。勝つのは.........」
「厳しいね。こればかりは僕と、アーサー。恐らくカメオも力になれない」
「おれさまもか!? 」
めっちゃ指をバッキバキ言わせてたカメオはマジで驚いてやがる。
「2人とも。頑張るんだ」
「は? 」
2人.........?
「だから、僕とアーサー、カメオは力になれないから」
少し息を吸ってから吐く。深呼吸のように。また少し息を吸って、
「君たちしか戦えないんだ」
「「俺(私)達だけ.........」」
アナと俺のコンビ。鬼退治コンビ。
「アナやろうぜ」
「ニクス。分かってるわよ」
「決まったようだな。精々励むがいい」
俺は爪を、アナは槍を構える。神ジジイは何も構えない。
俺と、アナは走り出した。
少し、外が明るくなっていた。




