外伝—人造の人間 sec
起床。体温確認—平熱。体もちゃんと稼働する。
私はここで生まれてから2年目—正しくは1年半になる。夏になってからは外が明るすぎて2度寝できるような環境ではない。だから少し早起きだ。
私はアイスコーヒーと冷ミルクセーキを用意する。
ちなみに朝ごはんは早く起きても作らない。なぜと言われたら博士は私のご飯が嫌いらしい。理由は言わずに、「明日から私が作るよ」の一点張りだった。
せっかく覚えたのだから喜んでもらいたいが、そんな願いにも私は従う。
「ふぁ〜ぁ。おはよう」
彼女は大きなあくびをしながら、腕をくんで伸びをする。仕事服—白衣姿で研究室から出てきた。
「おはようございます。昨日は遅かったのですか? 」
「そうだね。そろそろ出来そうだから、またやって
ね。別に今からでも.........」
「朝の時間は取らせてもらえるのでしょう? 私は8時
までは働きません」
私はそんな契約もさせて貰えた。誕生日の1番欲しい物をそれにしたら通して貰えた。
「まさか反抗期!? 」
別に声を荒あげて大きく反応する。
「そうじゃないです。朝はスッキリ始めさせて下さ
い」
「分かってる。大丈夫だよ。もう可愛いなぁ」
私の長い銀髪をわしゃわしゃかきまくる。私はこれがあまり好きではない。けど最後に、
「よし完成」
と、適当な髪型にしてくれる。近くの鏡を覗くと今日はツインテールだった。私はこの瞬間が好きだからわしゃわしゃを我慢しているようなものだ。
——
研究室にて、私は掃除をやめて椅子に座らさせられる。
「私、外に行ってくる」
「え? 」
私は箒でホコリをはいていたが、その手を止める。
博士が外に行くのはいつも休養日で、私にも言わずに行ってしまう。ちなみに私はまだ外に行ったことはない。そうやって外に出る時は博士はいつも食材を買いに行く。
「博士、急にどうしたんです? 」
「ちょっと戦争に参加してくる」
戦争は人々が自分の言い分を通す一つの方法だ。言わば多数決と言っても過言ではない。人数が多い方という単純なものではなく、地理など、なんにせよ利の高い方が勝つ。地の利や、天候、兵の質など。
しかしその1人になろうとは。
「博士、死ぬようなマネはよしてください。戦争な
んて博士が手を貸すようなものあるのですか? 」
「そうだね。でも、私は今回少し違う戦争に参加し
てくる。「選定戦争」。「奇跡の輝石」の争奪戦、と
いうか争奪戦争に参加してくる。あなたはここに
いて。約束はできないけど、帰ってくるさ。はは
っ」
博士はいつになく気持ちの良い笑い方だった。
奇跡の輝石。持ち主の願いを叶えることのできる石。選定を行わなければ手に入れられない石。それであったら博士の不死も可能だろう。
「博士、私は行かせて貰えないのですか? 」
「当たり前でしょ? どこの戦争で女子供だけの需要
があると思ってんの? 」
逃がされる方でしょ? と、笑顔で言う。
「私は音魔法を結構覚えました。大丈夫です。手伝
えます」
「いやぁ。嬉しいけれど、私は私の願いのために向
かうんだ。子供を巻き込む気は無い。そして心配
というのなら、これを見てからにして」
研究室には色々なものが散乱している。何がなにか彼女も把握しきれてないだろう。そして今日開いたのは昔の宝箱。とても古く、錠もかかっている。
「お願い」
「『衝撃拳』」
私は錠を魔法を武器にして壊す。衝撃拳はもっと振動させることでもっと威力が出るのだが、私にはまだ出来ない。
彼女はとりあえず開ける。
「やっぱりね」
そこには多くの魔力結晶があった。しかし、これは少し形が違う。私の知っているものより大きい。そして綺麗な石から作られていた。
手に取って見る。透き通った緑や黄色、白や青もあった。
「これは.........」
「私オリジナルの結晶よ。というかこの世に出てる
結晶はほぼ全部私が作ったものだけどね」
自慢げに、自慢でしかないことを言う。
にしてもこれは博士100人分くらいあるだろう。現在、私に渡された魔力量のほうが多いが、使える魔力量はここまで多いとあまり変わらないだろう。
「4つあげるからあなたが選定戦争に参加するときに
使いなよ」
と、4つ一気に取ったかと思ったら一気に投げてきた。案の定、私は2つ落とした。すぐに拾う。
「ねぇ。最後に名前でも決めようか。そう、最後だ
し」
「死ぬようなこと言わないでください。あと名前
は.........」
「いらないはずがないじゃない。これからはしっか
り外の世界で生活するんだ。お金はここの研究材
料で使ってるものを売ったり、私が適当に置いて
おくから」
「はい.........」
外の世界か.........。とても不安だ。知識としてはあってもコミュニケーションは取れないかもしれない。
「不安? 大丈夫さ。私と喋らなかった日はないし、
知識だけなら昔の私と同じだしね」
私は彼女のことを止めるほどの力はない。
「じゃああなたはね、ギリシャ神話の最高神を私と
するなら私の中から生まれたお前はそう。アテナ
にしよう。でもねぇ。そうだな.........。そのまんま
だと面白くないし.........」
博士は椅子に座り、腕を組んで考える。少し口をアヒル口にしてペンを口の上に器用に乗っける。とても楽しそうだ。
「じゃあまだ完全じゃないし、アテナから1文字くら
い抜こうか。テナ? アテ? やっぱりアナだよね」
ベタかな? と、彼女は私に続けて聞く。
「私はいいと思います。博士の決めた名前です。なん
でも嬉しいです」
私はニッコリ笑う。
「そりゃ良かったよ」
と、彼女は言うなりガサガサゴソゴソ。何かを探し始める。この部屋から1つのものを探すのは至難の業なのだが、それこそ1日がんばって見つかるかどうかのものを珍しくすぐに見つけたようだった。
「あとはこれ。多分使うことになるはずだ」
彼女は骨董市で拾ってきたと言っていた鉄の槍と盾のような取っ手の付いた物を机にだす。
「これは.........」
「ただのお守りだけど、必須っちゃ必須だろうね。
最終的には」
「.........」
私のお守り大きいし、バトル用なのか.........。なんか不思議だ。
「これって.........」
「ん? ああ、大丈夫。神聖なものだ。最早神そのも
のになる時にでも使えるだろう」
私は適当に頷く。でも神になる? 神聖? 分からないことだらけだ。
「あとは周辺の地図を.........」
彼女は地図を探しているようだが、これは見つからないみたいだ。さっきのはなんだったんだろうか。
「私は博士の帰りを待ちます。それまでは私はここ
を拠点にします。帰ってこなかったら殺しますか
らね」
「おお。言うようになったね。そろそろ次の体の場
所も教えておこう。その小さな体では怪しまれそう
だしね」
そう言って彼女は机に書いてある魔法陣の周りを円を描くようにしてなぞり、
「『起動』」
魔法陣から同心円状に光が広がる。その唐突さから目を閉じてしまった。
——
次、目を開けるとそこは小さな部屋だった。その部屋は私の知らない部屋だった。前や下をみると、全然掃除がされていなくて、あまりキレイとは言えなかった。
「これ。どうだい? 」
私は意識を後ろにいた博士に向ける。
彼女はニッコリ自慢げにボンボンと、水を入れてあるカプセルを叩く。結構大きくて博士の身長の1.5倍くらいありそうだった。そして、そのカプセルには私の成長した姿が入っていた。
「.........」
言葉がない。私を私が目の前にしてもなんとも言えない。しかも成長をしない人造人間だ。なおさら成長してくれた体を見ても何も思わない。いや、2つはあった。1つは私の体を作ってもらったというありがたさと、もう1つは私の体を作らせた手間を後ろめたく思った。
「ねぇ。喜んでよ。私の自信作だし」
「あ、ありがとうございます」
私はぎこちない返事になった。声も小さかった気がした。
「じゃあさっさと交換しちゃうか〜」
博士は私の首元を「えいっ」と言ってキメた。私の意識は消えた。
——
「.........? 」
目をあけると、見慣れない天井だ。さっき来たばかりの部屋だからだろうか。
私は体を動かそうとしたが、失敗した。拘束されていないから別に外的に動けなかったのではない。中からダメだった。動かなかった。
「ん? おー起きたのか。早かったね」
「私は.........」
「あ、もう成長後の体だよ。どうする? 昔の体」
昔とは心外だ。私にとっては1分まではその体だっだのだから。
「とっておいて下さい。私が初めて貰った博士から
のプレゼントですし」
「おお。そういえばそうだね。いいよ。保存するた
めにさっきのカプセルに入れるよ? 」
「あ、はい。お願いします」
トポンと、結構雑に入れる。だから大切なものだっての。そんな気持ちを無視して入れる。
「博士。手、動かないんですけど.........」
「え!? マジか! 」
また反応が大きい。特に手の動きが。
「ってのは嘘々。時期になれるさ。なんてったって
私の子供だ。なんだってできるさ」
「はい.........」
「じゃあ、私はそろそろ準備だったりして忙しいか
らさ。あと、私の知識また入れといたよ。それで、
なんだっけ? そうそう。私はあと3日くらいで出る
よ。家を留守にするのは一月程度だと思うから」
「はい.........」
3日か.........。短い。とても短い。その間私は何ができるか考えた。
また手を動かしてみると、動いたので、動作確認をする。腕も動いた。しかし、下半身はまだ動かなかった。
「お。大丈夫になってきたね」
「私は貴方と遊びたいです」
私は率直に言った。素直になって言った。
「それはね.........。無理だ」
「はい。そうですよね」
全身に力が入らなくなる。けれど、力いっぱいに笑う。
私は受け入れる。だって彼女の願いだからだ。私はそれに従う。そうでもなければ私は彼女の言葉で私は泣いてしまいそうだった。あれ? なんで泣くんだ? 私は泣いてしまいそうだったんだ? 泣くってなんだ?
「そんな顔しないの。可愛い顔が台無しよ? 」
と言って私を抱きしめてくれた。
私は彼女の温もりを感じる。とても暖かく、気持ちが良かった。
この人が居なくなることを想像できなかった。もう居なくなってしまうかと思うと嫌だと思ってしまう。
私は従いたくない。でも従うしかない。
私のアイデンティティはそれだけだから。




