Ⅴ 始まりと歪み 《?》終了
ダンジョンから出て2日後。
勇者御一行は冒険者ギルドの前にいた。
はっきり言わせてもらおう。周りの視線が痛い。
どうやらこの街は治安が悪いらしく、更に他の街に比べると小さい方らしい。
民衆の暮らしもかなり貧相なもので所々に身寄りのない者が見える。
ただでさえ辛い暮らしを強いられているのに突然勇者と呼ばれる見知らぬ者が召喚され、自分達を差し置いて豪勢な暮らしをしていると思えばいい思いはしないだろう。
だが今はそんなことを気にする余裕はない。
何故なら明後日、遂に魔王討伐に繰り出されるらしいのだ。しかも護衛付きで。
となると逃げる期限は明日までとなる。
はっきり言って存在の消滅を使えば今すぐにでも逃げられるのだが、やはり追跡が怖い。指名手配されることになったら自由に行動出来ない為、何か理由を付けないといけないのだ。
そんな時、冒険者ギルドにてお試し依頼を受ける事になったのだ。
実際に依頼を受け、素材採取、魔物討伐をしてみる事で魔王討伐の旅でもスムーズに行動できるようにするためらしい。
チャンスである。
ここで依頼を受け、ヘマをして死亡したなんて事になれば追跡はされないだろう。
勿論偽装工作はしっかりとするが、魔物に殺されたとなれば、そこまで手の込んだ工作はいらないので、このギルド依頼が最初で最後のチャンスなのである。
(とはいえ最初から抜け出すと今後に影響しそうだし、素材採取位はやっておくかな?後で生成系のスキルを手に入れられれば自分でポーションとか作れるかもだし、薬草の種類くらいは知っておきたいかな)
勿論時間はない。期限は明日までなので今日までしかこういった依頼は受けられない。今日までにどれだけ知識を詰め込められるかが重要なのだ。
(……てか知識形や鑑定系のスキルとか無いのかな……それがあれば簡単に見分けられそうなのに……)
『スキルアシストが使用可能です。「残り使用回数2」使用しますか?』
(いやいや、使わないよ?これ凄くチートだもん、残しておいた方がいいでしょ。何かやばい事が起きた時に使わせてもらうよ)
『了』
そういえば、この謎の声、他の人にも聞こえてるのかな?同じような事が他の人にも言われてたりするのかな?
とまぁここで色々考えても仕方ないのでギルドに入ることにする。
冒険者になる時は普通試験を受けなくてはならないのだが、勇者権限でそれは免除になるらしい。
その為、身分証明書にもなるカードが即発行され、すぐにでも依頼を受けられるそうだ。
しかも、本来Gから始まるらしいランクも、Dから登録されるらしいので、かなり破格と言えるだろう。
その為、今職員からカードを受け取っているのだが……
「ほら、これがアンタのカードだ」
怖いです。カードを渡してくる職員がまるでヤのつく組織の幹部みたいで怖いです。
人数が人数のため、グループに別れてカードが渡されるのだが、美雷のグループ担当職員が怖いのだ。
「はい、カードはこちらです。無くさないように気をつけてくださいね」
隣はファンタジー代名詞のひとつとも言える獣人モフ耳美少女受付職員が笑顔で渡してくれるのにこっちは目に切り傷が入っており袖口からちらっと見えるタトゥーが怖い、何で職員なんかやってんだよとツッコミたくなる様な人がやっているのだ。
美雷はカードを受け取ったので、逃げる。依頼を受けるという形でさっさと逃げる。
その時に受付を担当していた人は普通に可愛い人だったので、良しとしよう。
手な訳で薬草採取の依頼を受けたので、薬草の解説が載ってある本を手渡されたので、この時点で大きな収穫と言えるだろう。
手な訳でサッサと森へ行こう。
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近くの森
「へぇ……ただの雑草にしか見えなかったけど、これが……傷に効く薬草なんだ……」
恐らくはこの解説本がなければ今もどれが薬草だかが分からず、途方に暮れている所だろう。
更に大きな収穫と言えば……
『無限収納庫に初収納されました。鑑定……完了。登録しました。』
なんとこのインベントリ、鑑定機能付きなのだ!
んな事説明欄に書いてなかったよ?
いちいち入れなくては行けない欠点はあるけど、それでも鑑定ができるのはでかいと思う。
チラッと依頼書を見てみるが、薬草は5束でいいと書かれている。3枚セットの5束が依頼数なのだが、今明らか様に10枚セットの80束が出来ている。
「……取りすぎた……」
一応依頼分の薬草は分けてあるのだが、余分に取った量が多すぎたのだ。
気付いたらかなり時間もたっていたので仕方無しに採取を止める事にした。
ふと周りを見渡してみる。
日本でも見かけるような動物から、やっぱり異世界なんだなと思う様な生き物まで多種の生物が人間が来ても気にすること無く動き回っている。
これは昨日図書館で調べた事なのだが、どうやら基本的な食事は魔物の肉を使っているらしく、普通の動物の肉は食わないらしい。
だからこんなに近づいて果ては触っても逃げ出したりなどせず逆に擦り寄ってくるんだなぁと思った。
……動物が可愛くてなかなか離れられなかったのは別の話。
「んはぁ……あぁ、そろそろ帰るかー」
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街の宿
美雷は事前に予約しておいた宿に泊まっている。
あまり城にいたくないからだ。
なので上手く誤魔化し、無理を通して何とかこの宿に泊まることが出来たのだが……
「……しっかし、何でこうも質素な宿なのに城の中よりも落ち着くんだろうねぇ……いや、ただ私が豪華なのに慣れてないだけか」
そう言っているが事実、いつも城の中では警戒していたのに何故かこの宿だと、心から気を落ち着ける事が出来るのだ。
それに宿屋の看板娘ちゃんも可愛い。
いやほんとに、キチンと仕事はこなしているのに客の事をきちんと見ていて、気遣いも出来てるなんてどこの天使ですか。
と、看板娘ちゃんを観察してるうちに何故か避けられるようになってしまう(解せぬ)などしてる内に1日目が終わり、問題の最終日へと移る。
だがその2日目、リザードマンの住処を特定するという依頼を達成し、ギルドに報告した後の美雷の姿を見たものは誰もいなかった。
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場所:???
とある街のとある酒場
そこにいるとある4人組
「……?」
「どうしたの?」
「いや……あぁ、マジか……」
「いや!ほんとに何!?気になるんだけど!!」
「いや~昨日カードがなくなったっていったじゃん?その中の1枚が多分誰持ってるか分かったかもって……」
「え?何もしてないじゃん」
「”あれ”の干渉がみられたんだよなぁ……そこにタロットの力を感じた……」
「え?でもそいつって確か倒したんじゃなかった?」
「アイツを完全に消すのは無理。はぁ……面倒い……パフェうめぇ……」
「……それ甘くない?チョコ多くない?」
「甘いは正義!!」
「そう……」
「これからどうするの?」
「ん~まぁ近々そいつに接触してみるかなぁ……少しだけだけど」
「そんなンテキトーでいいんだよ色々面倒臭いし」
「昔はイキイキしてたのになぁ……何で今はこうも面倒くさがりになってしまったのか……」
「はっはー!私はその日の気分によって”何にでもなれる”のだよ!!んで、いまはやる気が無いだけ!」
「ほんとに1度戻った方がいいんじゃないですか元”魔王”様?」
「一体君は何を言っているのかね?元”勇者”殿?」
「「「「……………………」」」」
「てか私達は召喚されてから勇者扱い受けてたけどその時はまだアンタは魔王じゃなかったよね?確か私達がその代の魔王を倒して暫く経ってから何かの理由で魔王になったんじゃなかったっけ?」
「んー、まぁあの時は自暴自棄になってたしなぁ……でも、魔王は娯楽でなってたから……あの時は楽しかったなぁ……」
「娯楽で魔王になるって……そんな理由で魔王になっていいの?」
「魔物たちは実力主義だからねぇ……キチンと力を示せば認めてくれるよ?たとえ”人間”でも」
「はぁ……何でこんなのが私達の師匠なのか……」
「んじゃこっちから言わせてもらうと、あんな自己中だったのが今ではこんなに大人しくなって~」
「うっ……そんな話しないでよ……」
「とりあえず話が脱線しまくってるから戻すけどタロットの所持者が見つかったんだよね?」
「あぁ、まだ未覚醒だけどね」
「そのタロットって何なの?」
「そういえば、言ってなかったな……」
「何となく分かってるやついるだろ?見てんだろ?私達を」
コレで第1章は終了です!次回からやっとメインキャラをマトモにだせて、セリフも多めにできます!(多分)